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木造遺産、京都「聴竹居」を訪ねる【前編】日本の気候風土に寄り添う昭和モダニズム住宅の心地よさ

2024.06.24

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〔特集〕世界に誇る美しき伝承 続・日本の木造遺産(前編) 本連載をまとめた単行本『日本木造遺産 千年の時を超える知恵』の刊行を記念して、昭和のモダニズム住宅として2017年に初めて重要文化財に指定された「聴竹居」を取り上げます。2019年に奇しくも同じ大山崎町の名茶室「待庵」から連載がスタート、全国を巡ってきた木造遺産の旅は、時空を超え昭和のモダニズム住宅へと辿り着きました。日本の気候風土に根ざした住宅を志向した建築家・藤井厚二の自邸を通して、その比類なき建築思想に触れていただきます。

・特集「世界に誇る美しき伝承 続・日本の木造遺産」の記事一覧はこちらから>>

【特別編】聴竹居 (京都府乙訓郡大山崎町)
日本の気候風土に寄り添う昭和モダニズム住宅の心地よさ

昭和3(1928)年に建てられた聴竹居。家族が住まう本屋は、リビングである居室を中心に各室がつながる「一屋一室」の構成。テーブル越しに左手に見えるのは客室。計算され尽くした格子のデザインも藤井ならではのもの。藤井は建築のみならず家具、照明、陶器などあらゆるものをデザインした。向かって右手は開口部が広がる縁側。

暑い京の夏にあっても、涼しい風がそよぐ竹林の音を聴きながら暮らしたい──そう願って〈聴竹居〉は作られた。


作ったのは藤井厚二という建築家で、作った昭和3(1928)年当時、京都帝国大学教授が主に手がけるのは役所や銀行やビルといった公共建築と考えられていたが、しかし藤井は、人が住むという営みへの深い関心から、自宅を1回、2回、3回と建て替え続け、やっと5回目のこの家で納得する。

玄関前に佇む建築家・伊東忠太による怪獣像。

玄関前に佇む建築家・伊東忠太による怪獣像。

藤井がデザインした暖房器具。発光した電熱線のオレンジ色の光が青海波の紋様を放射して壁面に映し出し、心まで温める。上部の蓋を開けて水を注ぎ、湯沸かしとしても用いた。

竹林を渡る風のように──この詩的印象を建築的印象に置き換えると、自然の材料を使い軽やかに風通しよく、となり、さらに建築に近づくと、木造、大きな開口部(出入り口と窓)、そして飾りは抑える、に着地する。

ヨーロッパはむろん世界のたいていの国に木造住宅の伝統はあるが、教会建築で発達した石と煉瓦による壁構造の影響を受け、木材を使っても厚くて重い壁を好むようになり、自ずと建物全体も各部屋も閉ざされた箱のようになり、そこに小さな出入り口や窓を開口部として開けるようになったし、露出する木材を保護するため、木造壁の外側にモルタルを塗ったり、室内の木材には塗料を塗るようにもなり、自然状態からは遠ざかる。

薄美濃紙を張った照明が室内と床の間の両方を優しく照らす客室。部屋の中央にある椅子そしてテーブルもまた藤井デザイン。膝があたるのを防ぐよう弧を描いたようなフォルムになっている。和と洋の要素が凝縮された客室は、藤井デザインの密度が高い部屋だ。

一方、日本の木造住宅は対照的な進化を遂げる。

神社仏閣をはじめ住宅建築まで、重くて硬い石や煉瓦ではなく、軽くて、軽い割には強い木材ですべて作られるようになり、柱を立てて上に梁を載せるだけの枠組構造が発達し、壁で囲うのではなく柱と柱の間を可動式の建具(板戸、雨戸、障子、襖)で塞ぐだけで済ますようになる。

そうした木材も、住宅建築の場合“より自然状態に近い”素木(しらき)を高級とする美学が確立して定着する。

居室の横には三畳間が。椅子に座った人と畳に座った人の目線が合うよう、居室と比べて床面が30センチ高くなっている。その段差に設けられたのは外気取り入れ口のクールチューブ(導気筒)。引き戸を開けると冷気が足もとを漂う。

三畳間のクールチューブ(引き戸を開いたところ)。

こうして江戸時代初期には確立した日本の木造住宅の建築的特性を魅力あるものとして最初に見抜いた建築家はシカゴのフランク・ロイド・ライトだ。

室内から室外へ、室外から室内へ、そして部屋どうしがわずかな仕切りで水平に連続する特性を自作で取り入れ、それらを作品集にまとめて、明治43(1910)年に浮世絵的なパース(透視図)とともに世界に向かって発表した。

ここに石と煉瓦により閉ざされてきたヨーロッパの建築は崩れ始め、昭和元(1926)年、ドイツのバウハウスによって新しい建築のあり方が主唱され、戦前いっぱいを通して世界に広まり、そして今にいたる。

明治末から昭和初期にいたるそうした20世紀建築成立の欧米の動きを、新しいことには敏感な日本の建築家たちが傍観していたわけではなく、ライトと交流したりバウハウスに学んだりしながらわがものとしてゆく。

しかし藤井厚二は違い、ライトやバウハウスに直接学んだりせず、それらの刺激を受けながら、日本の伝統的木造建築を基にした新しい建築の在り方を次のように求めてゆく──。

(後編へ続く。この特集の記事一覧はこちらから>>


薄暮に浮かび上がる本屋。

薄暮に浮かび上がる本屋。

藤井は聴竹居に至るまで改良をくり返し、実に4回も自邸を建築した。4軒目は実物大のモックアップで、人が住むことはなかったという。徹底したこだわりをつめ込んだ5軒目の聴竹居で藤井の想いは結実した。

聴竹居
住所:京都府乙訓郡大山崎町大山崎谷田31
公開日:日曜、水曜(見学には事前予約が必要)。見学希望日の90日前から3日前までに、聴竹居ホームページの「お申し込みフォーム」より予約。
見学料:大人1500円 学生・児童1000円(大学院生・専門学校生も同様)
お問い合わせ:075(956)0030
URL:http://www.chochikukyo.com/
※お盆、年末年始は休み
※見学資格など詳細はホームページを参照

『日本木造遺産 千年の時を超える知恵』好評発売中

定価: 本体2,700円 +税 小社刊

208ページ 定価:本体2,700円 +税 ISBN978-4-418-24210-8 世界文化社刊 建築探偵・藤森照信そして写真家・藤塚光政。二人の巨匠が再びタッグを組み、日本全国32の木造遺産を旅する。幾星霜を経ても匠たちの知恵と技は朽ちない──。腰原幹雄による【コラム】「構造学者の眼から見た木造遺産32」も注目!

この記事の掲載号

『家庭画報』2024年07月号

家庭画報 2024年07月号

撮影/藤塚光政 文/藤森照信(建築史家) 協力/松隈 章(聴竹居倶楽部)

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