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松本幸四郎 市川染五郎 時代へ挑む [後編]若き日の“鬼平”を演じて得たもの

2024.05.17

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〔特集〕松本幸四郎・市川染五郎、時代へ挑む [後編] 池波正太郎原作の大ベストセラー時代小説『鬼平犯科帳』。過去に初代松本白鸚さんや二代目中村吉右衛門さんが演じた“鬼平”こと長谷川平蔵役を松本幸四郎さんが、若き日の平蔵・銕三郎(てつさぶろう)役を市川染五郎さんが務めます。劇場版公開に向けて、お二人に意気込みを伺いました。前編の記事はこちら>>

特集「松本幸四郎・市川染五郎、時代へ挑む」の記事一覧はこちら>>>

幸四郎さん・ジャケット53万9000円 カマーバンド12万3200円 パンツ18万8100円 染五郎さん・ジャケット48万4000円 シャツ30万5800円 パンツ17万7100円 コサージュ9万200円/すべてドルチェ&ガッバーナ(ドルチェ&ガッバーナ ジャパン)

「銕三郎(てつさぶろう)は愛着のある大好きな役です」──市川染五郎

放蕩無頼の青春時代を送っていた銕三郎こと、若き日の長谷川平蔵。粋な縞の着流し姿で町を徘徊し、「本所の銕(てつ)」「鬼銕」と恐れられていた。染五郎さんが “現代の銕三郎” として着こなしたのは、シックなストライプのスーツ。時代は異なれど、“今” を生きる若者の姿が見えてくる。

ジャケット37万4000円 パンツ21万7800円 ベスト21万7800円 靴20万9000円/すべてジョルジオ アルマーニ(ジョルジオ アルマーニ ジャパン)

市川染五郎(いちかわ・そめごろう)
2005年生まれ。十代目松本幸四郎の長男。2009年歌舞伎座『門出祝寿連獅子』で四代目松本金太郎を襲名。2018年歌舞伎座での高麗屋三代襲名披露公演にて八代目市川染五郎を襲名。2024年第47回日本アカデミー賞の新人俳優賞を受賞。

男として憧れる鬼平の青春時代を演じる機会を得て

『鬼平犯科帳』で描かれる長谷川平蔵には、その若き日、継母との折り合いが悪く家を飛び出して無頼どもと交わり “本所の銕” と呼ばれた時代がありました。その銕三郎を演じる染五郎さんは、実は今回の作品が決まるまで、『鬼平犯科帳』の映像をじっくりと視聴したことがなかったそう。


「“鬼の平蔵” という呼び名の印象から冷徹な人なのかなと思っていたのですが、吉右衛門のおじ様が演じる『鬼平犯科帳』の映像を拝見して、悪に対しては鬼になるけれど、人間らしく情の深い人なのだということがよくわかりました。今の時代はあまり男らしいとか女らしいといういい方をしてはいけないのかもしれませんが、長谷川平蔵は男気のある、男として憧れる人物。その人柄が形成される背景となる若き銕三郎時代を演じることができると聞いて、最初は驚きましたが、本当に嬉しかったですね。今まで演じた経験のないタイプの役でしたが、やんちゃをしながらも自分なりの信念は貫き通している銕三郎の真っすぐな部分には、お芝居の登場人物としても人としても惹きつけられました。また機会があったらぜひ演じたいと思う、大好きな役になりました」

染五郎さんが演じる若き日の鬼平、銕三郎。フォトグラファー/太田好治

今の人の心に届く時代劇を、同世代にも伝えていきたい

撮影現場では自分が演じる銕三郎の未来の姿を幸四郎さんが演じる様子に、まるでタイムスリップしたような不思議な気分を味わったこともあるそうです。

「曽祖父が演じ、吉右衛門のおじ様が完成させた長谷川平蔵を新たに父が自分のものにしていく姿を見て、改めて父をすごいと思いましたし、新たな鬼平が父の作品としてずっと続いてほしいと思います」

すらりとした美しい佇まいが目を引く染五郎さんですが、役を演じる上で時に悩むのは太りにくい体質であること。

「“鬼銕” と恐れられた銕三郎の存在感、威圧感をどうすれば出すことができるのかが演じる上で難しかったです。“大きさ” のある人物に見えているといいのですが」

そんな役づくりへの思いも含め、ここ1、2年で染五郎さんは歌舞伎の公演でも映像作品でも、役に取り組む姿勢や演技の幅がますます深まったように感じられます。

「今の自分のハードル以上の役をいただけるのはありがたいことですし、そのハードルを超えていかなければと思っています。経験を通して自分の限界値が上がっている感覚があるので、プレッシャーはありますが、いろいろな役に挑戦したいですね」

染五郎さんの世代にとって『鬼平犯科帳』のような時代劇はどんな存在でしょうか。

「初めて吉右衛門のおじ様の『鬼平犯科帳』を観たときに、こんなに面白いものだったんだ!と衝撃を受けて、もっと早く触れたかったと思いました。歌舞伎にも共通することですが、僕らの世代の中には観る前から “堅苦しい” というイメージを持って敬遠してしまっている人も多いです。でも、これは父もいっているのですが、時代劇はある種のファンタジーとしても楽しめるもの。先入観を持たずに観ていただきたいですね。そして何が心に響いたか、ぜひ感想を聞かせてほしいです。この春の博多座の公演では25歳以下のお客様の当日券を半額にする取り組みもあったのですが、若い世代に歌舞伎や時代劇を観てもらうにはどうしたらいいのか、日々考えています」

撮影/下村一喜〈アジャンスヒラタ〉 スタイリング/川田真梨子(幸四郎さん) 中西ナオ(染五郎さん) ヘア&メイク/林 摩規子(幸四郎さん) AKANE(染五郎さん) 取材・文/清水井朋子

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