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【松岡修造の健康画報】「パートナーに先立たれたら、どのように生きていけばいいでしょう?」死生学の専門家に聞く

2024.03.11

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松岡修造の人生百年時代の“健やかに生きる”を応援する「健康画報」

死から生を考える学問「死生学」を専門とされ、社会とともに変化している死の迎え方やお葬式、お墓などについて長年研究されている小谷みどりさん。夫の急逝を機に、配偶者と死別した後の人生の研究も始めた小谷さんが、「没イチ(配偶者と死別した人)の先輩」として、松岡さんに語ったこととは?パートナーを亡くしてからの生き方について、一緒に考えてみませんか。

前回の記事はこちら>> 連載一覧はこちら>>

シニア生活文化研究所代表理事、死生学研究者 小谷みどりさん

「没イチは自由なんです。何を食べてもいいし、何時に帰ってもいい。そのことを前向きに捉えられるかどうかですね」と小谷さん。終始笑顔でパワフルに話してくださいました。

小谷みどりさん(こたに・みどり)
1969年大阪府生まれ。奈良女子大学大学院修了。人間科学博士。専門は死生学、生活設計論、葬送関連。第一生命経済研究所主席研究員を経て、2019年にシニア生活文化研究所を開設。大学で講師、客員教授を務めるほか、「終活」に関する講演活動も行う。2011年に夫が急逝し、講師をしていた立教セカンドステージ大学で、配偶者に先立たれた受講生と「没イチ会」を結成。著書に『ひとり終活不安が消える万全の備え』、『没イチ パートナーを亡くしてからの生き方』など。

お二人の軽妙なやり取りは、ときに笑いも交えたものに。「このテーマをこんなに明るく話せるとは思いませんでした」と松岡さん。

明日がある保証はなし。やりたいことはすぐ実行!

小谷 この連載は「健康画報」という名前ですが、私が今気になっているのは、日本人にとって「健康で長生き」が手段ではなく、目的になっていることなんです。「●●をしたいから健康で長生きしたい」というのが普通のロジックなのに、「健康で長生き」自体が目的になっている。でも、毎朝目が覚めて、今日も何もしたいことがない、時間が経つのが遅い......となったら、すごく辛いじゃないですか。


松岡 逆にいうと、何歳になっても、やりたいことがある人は幸せですね。

小谷 そうなんです。やりたいことがある人こそ健康で幸せだと思います。

松岡 そう考えると、小谷さんは死生学の研究や講義のほかに、カンボジアで地元の人たちのためにパンのお店を開いたり、小学校の学習支援員をされたり、とても健康で幸せに思えます。でも、40代でご主人が急逝されたときは大変だったでしょうね。

小谷 でもね、結婚したら、離婚しない限り、先に死ぬか残るかのどちらかですから。松岡さんもですよ。

松岡 それはそうですね。ただ、ご主人はまだ42歳で、ご病気でもなく、前日までお元気だったんですよね。

小谷 はい。その日、夫はシンガポールに出張する予定だったので、「早く起きないと間に合わないよ」と声をかけたのですが、起きてこない。ベッドに近づいて見たら、死んでいて。なんで死んでるんだろう?と思いました。

松岡 突然すぎて、すぐには受け入れられなかったのではないですか。

小谷 死んでしばらくは、出張に行っていると思っていました。夫は出張が多い人で、家にいないことが不思議じゃなかったので。13年経った今は、そんなふうには思わなくなりましたが。

松岡 何が一番辛かったですか。

小谷 人から「ご主人を亡くしたばかりなんだから、笑わない方がいい」などといわれたことですね。「死別した人は悲しいオーラを出せ」みたいな社会の無言の圧力があることを、自分がその立場になって初めて知りました。

「パートナーの死から学び、残りの人生に生かすことが大事なのですね」── 松岡さん

松岡 そんな辛い状況下で、カンボジア行きも含め、新しいことを始めようと思われたのはなぜですか。

小谷 夫がぽっくり死んだことで、自分も明日があるという保証はないと気づいたんです。いつ死んでも後悔しないよう、自分がしたいことは先延ばしにせず実行する。それが人のためになることだったら、なおいい。そういう生き方をしようと決めました。残された人は何かを学び、その死を無駄にしないことが大事なのだと思います。

松岡 大切な人の死を通して気づいたことや学んだことを生かして、その人の分も生きる、ということですね。

小谷 早くに死んだ夫の分も人生を楽しむぞ!という思いもあります。それが残された人の使命ですから。美味しいものは2人分食べる(笑)。

松岡 素晴らしいですね。もし、頭ではそんなふうに生きたいと思っても、悲しみから抜け出せない人がいたら、小谷さんは何と声をかけられますか。

小谷 「それだけ悲しくて辛い思いをお相手にさせなくてよかったですね」といいます。そうすると、「確かに、こんな思いを相手にさせなくてよかった」と納得する人が多いですよ。

誰かが覚えている限り、その人は生きている

松岡 生と死、生きている人と死んでいる人の違いはなんだろうと、最近考えるんです。僕は坂本龍一さんの音楽を聴いていると、坂本さんが亡くなったとはとても思えなくて。その一方で、寝ているときや、なんとなく時間を過ごしているときの自分は、死んでいるのに近いような気がするんです。

小谷 生きているというのは「心臓が動いている状態」のことなんですよね。でも、松岡さんがおっしゃるような、人とのつながりのなかで生き続けるという面もある。だから、生物学的には死んでいても、その人のことを忘れない人がいる限り、本当には死んでいないと私は考えています。

松岡 わかります。小谷さんのご主人も生きていらっしゃいますね。

小谷 はい。年を取ると、お世話になった方が次々に亡くなっていくじゃないですか。ふとしたときに、そうした方にしてもらったことを思い出して、誰かにしてあげたり、教えていただいた言葉を伝えたり。そうやってつないでいくことが、その方を死なせないことなのかなと思うんですよね。

松岡 僕もそういう意味で、生物学的に死んだ後もずっと生きていたいです。そう思うと、生きているうちにもっと人とつながりたい、いい関係を築きたいという気持ちになりますね。

小谷 そうですよね。やっぱり人や社会とのつながりというのは、人間にとって非常に大事だと思います。

小谷さんの左手薬指には結婚指輪が。「死別した人のほとんどは指輪をしています。離婚と違って、死別は強制終了。相手の姿が見えないだけで、婚姻関係は続行中なんですよ」。 (松岡さん)スーツ、シャツ、ネクタイ、チーフ、靴/コナカ

人生のリスクヘッジは自活力の習得と友達づくり

松岡 男性は妻に先立たれると、ガクッと元気がなくなって、後を追うように亡くなる人が多いですね。

小谷 家のことを妻任せにしていたために、1人で生きていけないんですよ。ホスピス財団という団体が、自分と配偶者のどちらが先に死んだほうがいいと思うか質問したところ、20代から70代まで、男性は皆、妻より先に死にたいという回答でした。

松岡 若い世代もとは驚きました。

小谷 松岡さんは妻に今晩何食べたい?と聞かれたら、何と答えますか。

松岡 僕は自分が行きたいお店に行かない?と提案します。

小谷 素敵ですね! 男性の多くは「何でもいい」と答えるんですよ。だから、私は講演でいつも「夫の仕事がない週末や定年退職後のお昼ご飯は、妻が作るな」と話すんです。夫が好きなものを買ってくるなり、自分で作るなりすればいい。自分が何を食べたいか自問自答できなければ、1人になったときに自分が何をして生きていけばいいかなんて、そんな大きなテーマ、わかるはずがないですよね。

松岡 確かにそうですね。誰かに頼って生活していたら、1人になったとき途方にくれてしまいそうです。

小谷 そう仕向けている妻もいるわけです。毎日着る服の用意まで何もかもする人がいますが、相手の自立性、自活力を奪ってしまう。自分のことは自分でするのが当たり前です。

松岡 いや、今回はできるだけ男性の方にしっかり読んでもらいたい!

小谷 今、65歳以上の一人暮らし男性の7人に1人は、2週間、1回も喋っていないという調査結果があるんです。女性は20人に1人。

松岡 それはまずいです。喋らないのは脳にも筋肉にも良くないですよね。どうすればいいのでしょう?

小谷 友達をたくさん持つことです。一緒にお酒を飲んでくれる人や趣味やボランティアの仲間。そういう人間関係のリスクヘッジを夫婦ともに元気なうちにしましょう、ということです。

「心臓が止まる瞬間まで、喜びや悲しみを感じて心を動かし続けたい」── 小谷さん

松岡 最後に、生と死について、ご自身へメッセージをお願いします。

小谷 心臓が止まる瞬間まで、心を動かして生きよう!といいたいです。ワクワクするとか悲しむとか、体が動かなくなっても、心は動かし続けたい。しょうもないことでガハハと笑える人が一番幸せな人だと思うので、そういう感性をもっと磨いていきたいです。

松岡 ポジティブな感情に限らず、怒ったり悲しんだりというのも含めて、心を動かし続けるということですよね。僕もその感性、磨いていきます!

修造の健康エール

「生死生」。この三文字は、僕の「今生きている自分が死んだ後も人の心の中で生きていたい」という願いを込めて書きました。僕は小谷さんと同じく、人は亡くなっても、誰かが覚えている限りは生きていると信じています。だから、そのためにも今をしっかり生きようという思いを新たにしました。

また、僕は漠然とあと10年は生きるだろうと思っていたのですが、ご主人の話を聞きながら、そんな保証はどこにもないのだと痛感しました。

小谷さんの「うちは朝起きたら夫が死んでいましたが、夫婦喧嘩をしたまま、そんなことになったら、絶対に後悔します。だから、『喧嘩をしても、寝る前には必ず仲直りしておきましょう』と話すんです」という話が心に沁みました。貴重なアドバイス、忘れません。


松岡修造さん(まつおか・しゅうぞう)
1967年東京都生まれ。1986年にプロテニス選手に。1995年のウィンブルドンでベスト8入りを果たすなど世界で活躍。現在は日本テニス協会理事兼強化育成本部副本部長としてジュニア選手の育成・強化とテニス界の発展に尽力する一方、テレビ朝日『報道ステーション』、フジテレビ『くいしん坊!万才』などに出演中。『修造日めくり』はシリーズ累計210万部を突破。近著に『教えて、修造先生! 心が軽くなる87のことば』。公式インスタグラム/@shuzo_dekiru

この記事の掲載号

『家庭画報』2024年03月号

家庭画報 2024年03月号

撮影/鍋島徳恭 スタイリング/中原正登〈FOURTEEN〉(松岡さん) ヘア&メイク/大和田一美〈APREA〉(小谷さん、松岡さん) 取材・文/清水千佳子

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