〔特集〕『森と氷河と鯨』のトレイルを辿って星野道夫「時間」への旅アラスカを愛した写真家として知られる星野道夫さん。アラスカの大自然とそこに暮らす人々を優れた写真と文で伝え続けた。主なフィールドは北極圏。ツンドラの広がる大地を大きな群れで旅するカリブーの写真は、見る者に生命の意味を問いかけた。
その星野さんがもう一つ大きなテーマとして取り組んでいたのが南東アラスカだった。「森と氷河と鯨 ワタリガラスの伝説を求めて」は、リアルタイムに南東アラスカを旅した記録で、1995年に家庭画報本誌で連載が始まる。だが、翌1996年8月、取材先のロシアで熊に襲われるという事故で星野さんは急逝。連載は中断となる。
神話の時代に思いを馳せ、示唆に富んだ言葉の数々が鏤（ちりば）められた未完の連載をまとめた本は読み継がれ、今なお新たなファンを生み出している。
「森と氷河と鯨」の最終的なテーマは「時間」だと星野さんは考えていた。いったい物語はどこに着地しようとしていたのだろう。証言と記録資料で、星野さんが届けようとしたメッセージに迫ってみた。
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ハイダインディアンの村があったが、100年以上前、天然痘が流行り誰も住まなくなった。
旅の原点、クイーンシャーロット諸島 ──神話の時代の朽ちゆくトーテムポールに導かれて
星野直子（星野道夫事務所代表）『森と氷河と鯨』において重要な意味を持つクイーンシャーロット諸島をはじめ、いくつかの撮影に同行。
私が星野と一緒にカナダのクイーンシャーロット諸島に行ったのは連載の始まる前の1993年5月のことでした。そこには神話の時代にハイダインディアンの人々が作ったトーテムポールが残っていて、星野が探し求めていた場所でした。
外洋から小さなボートでトーテムポールのある入り江に入った瞬間のことは強い印象として残っています。朽ちかけたトーテムポールが、今は誰もいない村で海を望むように立っている。本当に時代を遡ってしまったような感覚になったんです。
ボートでトーテムポールの残っている場所をいくつか訪ね、森や浜で撮影を続けました。苔むした住居跡で人の頭蓋骨を見つけた時、彼が手を合わせ祈りを捧げて撮影をするのを私は黙って見ていました。
クイーンシャーロット諸島は2010年「ハイダ・グワイ」に改称された。
トーテムポールがある岸辺から少し離れたところに海を見渡せる場所がありました。遠くの海に鯨が見えたのを覚えています。
「ここに住んでいた人たちも、こうやってここに佇んで海を見てたんだろうな」
彼は、クイーンシャーロットで撮影しながら、時間の流れや目に見えないものの力をすごく感じていたと思います。だから、その後ボブとクイーンシャーロットに一緒に行ったのは、ボブにこそ、その光景を見せてあげたいという強い思いだったと思うんです。
（次回へ続く。
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写真展 星野道夫
「悠久の時を旅する」
期間：2024年4月20日～6月30日
場所：北海道立帯広美術館
開館：9時30分～17時（入場は16時30分まで）
観覧料：一般1200円
資料を含めた集大成的な写真展。星野直子さんの講演なども予定。
詳細は
美術館のウェブサイトにて。
星野道夫（ほしの・みちお）写真家。1952年千葉県生まれ。慶應義塾大学卒業後、動物写真家・田中光常氏の助手を経てアラスカ大学野生動物管理学部に4年間在学。写真家としての活動に入り、主に北極圏をフィールドとして、写真集、エッセイ集など数々の著作を発表。1990年、第15回木村伊兵衛写真賞受賞。1996年、取材先のカムチャツカ半島クリル湖畔で熊に襲われ急逝。享年43歳。
