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2つの出会いから壮大な物語が始まった。星野道夫の遺作『森と氷河と鯨』の軌跡

2024.03.04

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「開口一番、彼が何と言ったと思いますか? “ワタリガラスの巣を見つけたよ”って言ったんです」

連載はこの2つ目の出会いのエピソードから始まり、その後もボブ・サムが随所に登場する形で進んでいった。カナダのクイーンシャーロット諸島(現ハイダ・グワイ)に朽ちかけたトーテムポールを訪ね、ある時は博物館や大学に赴き、またネイティブの村を訪れては古老に話を聞いた。

インディアンの古老、エスター・シェイ(左から2人目)。

カナダのUBC人類学博物館で撮影したビル・リード作「ワタリガラスと最初の人々」。

「目に見えないものに価値を置く社会」に思いを寄せた。送られてくる写真は墓地の写真も多かった。


ネイティブの人々が遺跡を遺さなかった代わりにアラスカの各地にワタリガラスの神話を遺したことは、星野さんの頭から離れなかった。それはどのようにアラスカの各地にもたらされたのか? やがて南東アラスカを離れ、北極圏までワタリガラスの神話を求めるようになる。

ボブ・サムと共にジュノー大氷原へ。

連載終盤、「シベリアに行こうと思う」と星野さんから国際電話がある。ワタリガラスの神話があるんですか? あるんですよ、という会話が交わされ、南東アラスカの自然を紹介する物語は、いつしか壮大な人類の旅、神話の世界へと入り込んでいた。

連載を一時休止し、星野さんはロシアのチュコト半島へと旅立ち、そこでワタリガラスの神話と、50年前のアラスカのような人々の暮らしと出会う。その体験は星野さんに、家族でしばらくそこで暮らそうというほどの強烈な印象を残した。

実は前述のプランの前にラフの段階のプランがあり、そこには最終回として、「時間(水の惑星)」とある。

「最終的なテーマは森と氷河と鯨をつなぐものです。森も氷河も鯨も同じものではないかということ。つまり時間というものがテーマのような気がします。生と死、再生、地球、宇宙というものに関わってくるのでしょうか」

氷河のトンネル。赤い光が氷に吸収され、幻想的な青い世界が広がる。

アラスカの氷河は、降水量が多い南東アラスカに集中している。

南東アラスカの森に棲むブラックベア(アメリカクロクマ)。

湿潤なトウヒの森。垂れ下がっているのは地衣類のサルオガセなど。

トドの群れ。クジラやイルカを含めた海棲哺乳類の楽園。

たくさんの島々が点在する南東アラスカの海岸線。陸地はトウヒの森が広がっている。


[ロシア・チュコト半島への旅]

海沿いのチュクチ民族の村を訪ねるため船でアプローチ。

訪ねた村で知り合ったテルピーナと。

レインディアキャンプのゲナと歩く。

15時間歩いて訪ねたレインディアキャンプの人々と。

[ロシア・カムチャツカ半島への旅]

ペトロパブロフスク・カムチャツキーから移動中に見たオゼロ・クリュチェヴォエ。

ホドゥトカ山。

クリル湖畔に着いたヘリ。

クリル湖畔のグリズリーの親子。

クリル湖。


写真展 星野道夫
「悠久の時を旅する」

期間:2024年4月20日~6月30日
場所:北海道立帯広美術館
開館:9時30分~17時(入場は16時30分まで)
観覧料:一般1200円
資料を含めた集大成的な写真展。星野直子さんの講演なども予定。
詳細は美術館のウェブサイトにて。

(次回へ続く。この特集の一覧>>

この記事の掲載号

『家庭画報』2024年03月号

家庭画報 2024年03月号

写真/星野道夫 資料写真/本誌・大見謝星斗 構成・文/三宅 暁〈編輯舎〉 編集協力/星野道夫事務所

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