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【手塚雄二・龍を描く 第3回】命を吹き込まれるかのように板の上に浮き上がる龍の姿

2024.02.06

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〔特集〕上野・東叡山寛永寺 創建400年の天井絵 手塚雄二・龍を描く
徳川家の菩提寺として知られる上野の東叡山寛永寺は2025年に創建400年を迎えます。同年その創建記念として、寛永寺の中枢である根本中堂に初めて天井絵が奉納されます。

中陣の6×12メートルという天井に入る絵を任されたのは、日本画界を代表する画家、手塚雄二画伯。題材は龍、そして400年近くを経てきた天井板に直に描くという道を画伯は選択しました。その精神は、寛永寺を創建し、今の上野の基礎を築いた天海僧正(慈眼大師)の精神とも重なるようです。

この特集では、天井絵のパワフルな制作の現場に密着。併せて寛永寺と上野の魅力に改めて目を向けます。令和を代表する絵の誕生に立ち会えた私たちに龍は福をもたらしてくれるかもしれません。前回の記事はこちら>>


・特集「手塚雄二・龍を描く」の記事一覧はこちら>>

手塚雄二が語る、龍と格闘した3年間

3年に及ぶ超大作の制作。小さなスケッチに始まり天井絵の完成に至る過程で、龍に命が吹き込まれていく、その一部始終を追いました。

天井板のサイズに合わせて描かれた大下図。完成した作品であるかのような迫力。

妥協のない修正作業。絵を描くことは迷うこと

(このインタビューは前の記事から続いています。)
最終段階では背景に金泥を載せていきます。どこを金箔にするか金泥にするかは最も悩んだことの一つ。そして繰り返される調整。

「グラデーションを薄くしようか、首の影はもう少し濃いほうがいいとか、完全ではないなといつも思っているところがあります。昨日も腕の一部を5センチくらい削ってしまった。全部はいで直さなきゃいけないし、板と同じような目を描いて埋めなければならない。

結局、絵を描くというのは『あ、だめだ』と気付く作業。気に入らないところを妥協なく直していく。迷うのが仕事なんです。一週間ずっと悩んで月曜日までに答えを出す。もちろんその間にも修正を加えています。絵はひたすら描いて完成するわけではなく、直すほうが多い。そういう共同作業でしたね」

奉納は2025年秋。根本中堂の境内に反射する光が照らし出す天井絵は、私たちを見知らぬ世界に連れて行ってくれそうです。

〔龍の制作記〕2022年1月7日 日本橋三越本店
展覧会のための設置テスト

2024年2月、日本橋三越で開かれる回顧展で完成した天井絵が初公開される。本館1階中央ホールの天女(まごころ)像の前で設置テストが行われた。三越での公開は、絵の全貌を俯瞰することができる貴重な機会となる。

閉店後の三越中央ホールに大下図が手際よく並べられていく。

5階まで吹き抜けの中央ホールは階によって龍の見え方も変わってくる。完成した絵と天女像との取り合わせは面白い調和を生みだしそうだ。

〔龍の制作記〕2022年6月13日 寛永寺霊殿
白土塗り

日本画で白として使われる胡粉よりもはがれにくく堅牢なのがカオリンを含む白土(はくど)。「田原白土」を膠で溶いて白として使用。膠は接着剤の役割を果たす。白土は胡粉と比較すると完全な白ではないが、板に載せると白く見える。

温めた膠で白土を溶く手塚さん。岩絵の具で描く日本画ならではの作業。

白土で塗っていくに従い、命を吹き込まれるかのように龍の姿が板の上に浮き上がってくる。この段階でも必要に応じて形などの修正が加えられていく。

「國寳(こくほう)」「青麟髄(せいりんずい)」など明の時代の貴重かつ希少な墨。

真剣な眼差しで墨書きをする強力助っ人、日本画家の松下雅寿さん。

〔龍の制作記〕2022年11月9日 寛永寺輪王殿
背景を描く

再び全体を俯瞰できる輪王殿での作業。背景を描きバランスなどを確認しながら、金泥塗りと細部の調整作業を進める。雲には金泥とプラチナ、稲光や炎など強く輝かせたい部分には金箔が用いられた。金泥は金粉を膠で溶いたもの。

金粉を膠で溶いて金泥にする。

櫓の上で調整する箇所の指示を出す手塚さん。現場はいつも和やかだ。

不要な箇所まで金泥を塗らないようにマスキングを施して作業。

黙々と筆を動かし背景の雲を描く強力助っ人、日本画家・加来万周さん。

〔龍の制作記〕2023年4月3日 寛永寺アトリエ
最終仕上げ

何度も眺めてここは違うと思ったところを描き直し、完成へと持っていく最後の段階。時には修正が手の込んだことになったことも。手塚さんは月曜の共同作業以外にも手を加え、最後まで一切妥協のない作業が続いた。

金色の四角は金箔を小さく切って貼ったように見えるが、一つ一つ四角く金泥で描かれている。

金箔を貼ったところの木目が透けて見え、板に直接描いた効果が目に見える。鱗もますます立体的に。

金箔を貼ったところの木目が透けて見え、板に直接描いた効果が目に見える。鱗もますます立体的に。

何度も全体をチェックし、細部まで徹底的に調整。

2023年5月7日 寛永寺輪王殿
『叡嶽双龍(えいがくそうりゅう)』
東叡山寛永寺根本中堂奉納天井絵

輪王殿で最後の調整を施してついに超大作がほぼ完成。400年近くを経た天井板に描かれた龍の絵は、既に長い時を経てきたかのような重厚感に溢れている。


2024年、『叡嶽双龍』と出会う
「手塚雄二展 龍は雲に従う」が開催されます

東叡山寛永寺根本中堂天井絵完成を記念しての展覧会「手塚雄二展 雲は龍に従う」が各地で開かれます。2025年の奉納前に絵の全貌を間近に見られる唯一の機会です。

●日本橋三越本店(東京都中央区日本橋室町1-4-1)
2024年2月16日(金)~3月4日(月)本館7階催物会場
2024年2月14日(水)~3月5日(火)本館1階中央ホール(天井絵)

●福井県立美術館(福井市文京3-16-1)
2024年6月21日(金)〜7月7日(日)天井絵のみ展示

●そごう美術館(横浜市西区高島2-18-1)
2024年10月19日(土)~11月17日(日)そごう横浜店6階

●松坂屋美術館(名古屋市中区栄3-16-1)
2024年12月7日(土)〜25日(水)松坂屋名古屋店南館7階

(次回へ続く。この特集の一覧>>

手塚雄二さん(てづか・ゆうじ)
日本画家。1953年、神奈川県生まれ。日本美術院同人・業務執行理事、東京藝術大学名誉教授。東京藝術大学大学院美術研究科(日本画)で平山郁夫氏に師事。卓越した技術で描く自然や風景は、宇宙的な奥行きを感じさせ、現代美術としての日本画をリードする。受賞、個展多数。後進の育成にも尽力している。

この記事の掲載号

『家庭画報』2024年02月号

家庭画報 2024年02月号

※手塚さんの「塚」は旧字体(塚にヽのある字)です。表示環境によって新字体で表示されることがあります。 撮影/鈴木一彦 取材・文・構成/三宅 暁〈編輯舎〉 取材協力/東叡山寛永寺

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