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【手塚雄二・龍を描く 第2回】6×12メートルの天井板に直接描くという冒険

2024.02.05

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〔特集〕上野・東叡山寛永寺 創建400年の天井絵 手塚雄二・龍を描く 
徳川家の菩提寺として知られる上野の東叡山寛永寺は2025年に創建400年を迎えます。同年その創建記念として、寛永寺の中枢である根本中堂に初めて天井絵が奉納されます。

中陣の6×12メートルという天井に入る絵を任されたのは、日本画界を代表する画家、手塚雄二画伯。題材は龍、そして400年近くを経てきた天井板に直に描くという道を画伯は選択しました。その精神は、寛永寺を創建し、今の上野の基礎を築いた天海僧正(慈眼大師)の精神とも重なるようです。

この特集では、天井絵のパワフルな制作の現場に密着。併せて寛永寺と上野の魅力に改めて目を向けます。令和を代表する絵の誕生に立ち会えた私たちに龍は福をもたらしてくれるかもしれません。前回の記事はこちら>>


・特集「手塚雄二・龍を描く」の記事一覧はこちら>>

手塚雄二が語る、龍と格闘した3年間

3年に及ぶ超大作の制作。小さなスケッチに始まり天井絵の完成に至る過程で、龍に命が吹き込まれていく、その一部始終を追いました。

天井板のサイズに合わせて描かれた大下図。完成した作品であるかのような迫力。

天井板のサイズに合わせて描かれた大下図。完成した作品であるかのような迫力。

「10月5日に根本中堂に行って、10日にはスケッチを描き始めていますね」

と、アトリエでスケッチを見ながら手塚さん。まだ天井絵に着手する前の2020年、手塚さんは根本中堂を訪ね、寛永寺の浦井正明貫首とともに中陣の天井を見ます。そして数日間、さまざまな資料を繰って、朝から晩までどんな龍にしようかとひたすら熟考。

「世界で最高の龍とされているのが陳容(13世紀、南宋末の中国の画家)の龍です。その陳容の龍を横山大観も俵屋宗達も模している。彼らの龍もすごい龍ですが、雲に隠れていて龍の全体は見えない。龍の絵の多くがそうです。結局、形をきちんと描かないのが龍だっていうことがわかったわけですよ」

自分で作り出すしかない。誰も龍を見たことがないのだからという結論に至り、最初のスケッチが描かれました。「それまでの数日間は人には言えないほどの苦しみです。普通は何年も苦しむといいますけれど(笑)」

悩みはどこまでも。7枚描いた小下図

スケッチを30枚ほど描き、構図が決まったところで小下図の制作にかかりました。根本中堂の天井を10パーセントに縮小したサイズの小下図。小下図はそれ自体が完成作品ではないかと思えるほど本番さながらに描くのが手塚流で、東京藝術大学大学美術館で開催された藝大退任記念展で初めて下図を公開した際、学生たちが「ここまでやるのか」と舌を巻いたほどです。

制作現場に置かれていた小下図。小下図でこの完成度に驚くばかり。

制作現場に置かれていた小下図。小下図でこの完成度に驚くばかり。

「小下図は普通1点なのに今回は7点。こんなことは初めてです。いつもそんなに描き直さない。どれだけ追い込まれたか、いや、どれだけ自信がなかったかということですよ。結局こういう仕事って自信を作っていく作業ということですね」

1点描くのはわずか半日。しかし描き始めるまで何日もかかるといいます。「小下図を見て、ちょっと鼻が長いだとか、歯がおかしいとか言う人がいるんですよ。じゃあ龍を見たことあるのかって(笑)。歯の並びや髭の向きを少しずつ変えてみたり、鱗なんか描いてみると大変ですよ。これでいいはずだと描いていくと、最後に辻褄が合わなくなったり。龍の目も、黒目の位置が少しでもずれると違う感じになってしまう。本当にここまでこだわってやったことはこれまでないですね」

そうしてでき上がった「今までどこにもない」構図。龍の顔が2つあるため双頭の龍にも見えますが、2頭の龍が天から降りてくるという図です。複雑に絡み合う龍が立体として成り立っているのか、実際にCGを作ってもらい確かめたといいます。

「天に昇っていく龍ではなくて、天から降りてくる龍は玉を持っているのだそうです。貫首とお話をした際に言われたのは、宝珠を持たせたいことと5本爪にしたいということ。中国では5本爪の龍を飾ることは皇帝だけが認められていました。日本で描かれた龍の多くは3本爪なので、5本爪には日本で最高の龍という思いがあります」宝珠は宝物。幸運を手にした龍が不忍池に降りてきたようなイメージなのです。

宝珠を持っているのが“吽(うん)龍”、もう一方が“阿(あ)龍”。阿龍の手には、奉納の際に薬師如来を意味する梵字が浦井貫首の手によって入れられます。

〔龍の制作記〕2020年 手塚雄二アトリエ
スケッチと小下図

龍をどう描くか。スケッチと天井の画面を想定した小下図の制作が作家の一番苦しむとき。今回は30枚に及ぶスケッチと7点の小下図という多さ。手塚さんの教え子である澤村志乃武さんが小下図の資料集めに奔走した。

龍の顔の部分のスケッチ。髭の数と方向、顔の角度などが徐々に変わって次第に形が定まっていく。

龍の顔の部分のスケッチ。髭の数と方向、顔の角度などが徐々に変わって次第に形が定まっていく。

スケッチの次の段階の小下図。初めの小下図から部分を切り出し、1:2の枠に収めている。龍の体の捩れ、爪の角度、炎の形などが変わり、徐々に洗練された構図になっていくのがわかる。

スケッチの次の段階の小下図。初めの小下図から部分を切り出し、1:2の枠に収めている。龍の体の捩れ、爪の角度、炎の形などが変わり、徐々に洗練された構図になっていくのがわかる。

※手塚さんの「塚」は旧字体(塚にヽのある字)です。表示環境によって新字体で表示されることがあります。 撮影/鈴木一彦 取材・文・構成/三宅 暁〈編輯舎〉 取材協力/東叡山寛永寺

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