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時代が求めるのは「考える力」。慶應義塾長伊藤公平さん、野球部監督森林貴彦さん、松岡修造さんが対談

2024.01.11

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誰もが自分の存在意義を感じられることの大切さ

松岡 監督はご著書で、高校野球の常識を覆したいと書かれていますが、どのようなお気持ちからですか。

森林 僕は高校野球に対して、大きな危機感を持っているんです。全試合テレビ中継するなんて、ほかの高校スポーツではないじゃないですか。それだけ注目されている日本のスポーツ文化なのに、監督にいわれたことだけをやるようなチームがまだまだ多い。その結果、社会で必要とされない人材を大量生産している現状を変えたいと思っています。

松岡 長年「監督が絶対、長時間練習、坊主頭が当然」でやってきたかたたちからは批判もあると思いますが、優勝した今こそ、発信のチャンスですね。


異端を自認して、高校野球界を変えていきたい(森林さん)
「人生100年なら、50歳でも半ば。何歳でも変われると思って生きていきたいですね」

森林 はい。時代を変える人というのは、最初は異端と見なされるものですから、異端を自認して、影響力があるうちに(笑)発信していきます。うちは文武両道を実現するため、甲子園常連校のような長時間練習はしませんし、髪型は野球に支障がなければ自由。各自で考えた練習に取り組む個人練習の時間を大事にしています。

でも、すべてのチームがうちと同じようにやるべきだとはまったく思っていません。指導方法やチームづくりにはたくさんの選択肢があることが広く伝わり、高校野球界が多様性のあるものになっていくことが願いです。その多様性が、ほかのスポーツ指導の現場にも広がっていったら嬉しいですね。

松岡 今のお話、福澤(諭吉)先生が聞いて深くうなずかれているのではないでしょうか。「独立自尊」「民主主義」といった新しい考えを提唱されて、日本を変えていったかたですから。

若い人たちが活躍できる場をつくるのが役目です(伊藤さん)
「SNSやAI全盛の今、実際に会って行うスポーツの価値が世界中で見直されています」

伊藤 おっしゃるとおりですね。「野球以外もがんばれ」と思われているかもしれません。慶應義塾では今、新しい試みとして、「塾生会議」というものをやっています。塾生有志100名弱が、社会のため、世界の発展のために慶應義塾が取り組むべきことを1年かけて話し合い、塾長である私に提案し、実現していくというものです。

この会議を通して、私は、これからの社会についてこんなにも熱心に考えている学生がいるのか、こんなに提言力のある学生がいるのかと感動しました。いろいろな切り口で、より多くの学生が活躍できる場をつくっていくことが、今後の学校において大事なことだと考えています。

森林 学校のカリキュラムで評価できるのは、その子のほんの一面なんですよね。誰でも何か一つ、得意分野や輝ける部分が見つかれば、それが突破口になって、自信が持てるようになる。そういう何かを見つけるのが教師の大事な仕事だと思っています。

高校野球も同様で、試合に出られない選手にも、自分の存在意義を感じてもらうことが大事です。人はそれぞれ、いろいろな価値を持っていることを忘れないようにしたいですね。

松岡 僕もジュニア選手を300人近く見てきましたが、彼らにいわれていちばん嬉しいのが、「自信が持てるようになった」という言葉です。

伊藤 存在意義を感じられること、自信を持てることは大事ですね。年齢を問わず、そう思います。

撮影/鍋島徳恭 スタイリング/中原正登〈FOURTEEN〉(松岡さん) ヘア&メイク/大和田一美〈APREA〉(松岡さん) 取材・文/清水千佳子 撮影協力/慶應義塾日吉キャンパス

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