カルチャー&ホビー

芦田愛菜さんと五木寛之さんが考える「大人になるってなんだろう?」

2023.12.22

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〔超異世代対談〕芦田愛菜さん × 五木寛之さん 「本は幸せの架け橋」(後編) 文壇の重鎮、五木寛之さん91歳と、俳優にして現役大学生の芦田愛菜さん19歳。ご本人たちも驚く超異世代対談は、活字中毒という共通項もあり、72歳の年齢差を感じさせないものに。和やかなやり取りから、お二人にとっての幸せはいつも、本とともにあることが伝わりました。前回の記事はこちら>>

大人になるってなんだろう?

芦田 この前、友人と「大人になるってなんだろう?」という話をしていたのですが、先生はどんなふうに思われていますか? 「この境目を超えたら大人」というものも見当たらないですし、よくわからなくて。

五木 大人になるということは、人間ダメになっていくことなんだよね(笑)。もちろん、ダメという言葉のなかには含みがいろいろありますが。僕は若い人が歩くのを見ると、本当にうらやましいと思うことがある。みんな颯爽と歩くじゃないですか? 若い人、中年、高年では歩幅が違う。一歩の歩幅が徐々に狭くなっていくなかで、なお成熟するものはあるだろうかと考えると、昔の詩人や作家はみんな、高齢になったとき、ひそかに嘆いていますよね。年を取ることを歓びとして歌う人は、あまりいないんじゃないのかな。歩幅が狭くなった後は、やがて歩行が困難になってくる。僕は今、杖を使って歩いていますけど、それでも歩けなくなっていくように、心も枯れていく。そのなかで、見えてくるものはなんだろうね。

芦田 確かにそうですね。


五木 人間として生きていくというのは、なかなか大変なことなんですよ。芦田さんは、幼い頃から大人の社会をのぞいていらっしゃるから、よくわかっていると思いますけど。だから僕は、あまり簡単にヒューマニズムとか希望とか生きがいといったことを、軽々しくいわないようにしているつもりなんです。

芦田 お話を聞いていて、今をもっと大事にしたいなと思いました。高校時代は、学校に行けば、毎日あたりまえに同じ友達に会えたのが、大学に入ったらそうではなくなって、寂しいなと思っていたんです。年を重ねていくことを想像したとき、大きな歩幅で元気に歩けて、友達になりたいという気持ちだけで友達になれる学生時代はすごく貴重で幸せなんだなと気づきました。自分から努力して友達に会いに行くようにします。

五木 学生時代のことを考えると、ずいぶんキツかったなぁ、と思いますけど、それでもやはり、幸せだったと思います。芦田さんがおっしゃるように、損得勘定抜きの純粋な気持ちで人とつきあえますからね。そう考えると、普通一般には人間は年とともに成熟してくるなどといわれますけども、どうなんでしょう? 僕はひねくれ者だから、なんでも反対なこといっちゃいますけど、歩幅も心の幅も狭くなってくるわけだし、そうともいえないんじゃないかなと思ったりします。

ネガティブな言葉の力を味方につけて

五木 芦田さんは残りの学生時代に何をしたいと思っているんだろう?

芦田 学生時代に限らないと思うんですけど、「やりたいことは後回しにせず、できるときにやろう」と考えています。後でやろうと思うと、忘れちゃったり、面倒臭くなってしまったりするので、やりたいという気持ちを大事に、すぐ行動する。それが最近のモットーです。

五木 それはいい。僕は、あなたのこれから先がなかなか大変じゃないかと心配だな(笑)。自分が好意を持った男性に、「『カラマーゾフの兄弟』ではね」といったとき、「それってだれ?」と返すような、そんな人と恋愛したらどうなるんだろうと思って。それとも、やっぱり、本好きな人を好きになるのかな? もし会話が全然通じなかったら、どうします?

芦田 それはそれで、教えてあげるという会話ができるかなと思います。本を読まない人は絶対にいやだとは思ったことはない気がしますけど、考えたことがなかったです(笑)。

五木 なるほど。本を読んで一人で考えるのも面白いですけど、やっぱり人と語り合うってすごく大事なんですよね。読書体験をひとりじめするのではなく、一生懸命議論し合える仲間を見つけることもすごく大事。そういう人がいるといいですね。

芦田 本の好きな友達はいます。小学生の頃はみんな「ハリー・ポッター」シリーズが好きで、友達と、どのキャラクターが好きかとか、私はここまで読んだんだけど、こんな考察があるんじゃないかとか、そういう話をしている時間がとても楽しかったです。読書体験を共有できるのはいいですね。

五木 最後に、長い人生のなかで、芦田さんも悩むことがあると思うので、そのときのためにひと言。僕はあえてネガティブな言葉を憶えておくことをすすめますね。たとえば、「人生は徒労である」という言葉を心に持っておくと、「そのわりには自分は報われているじゃないか」と反対の感情が湧いてくることがあるものですから。ネガティブな言葉のおかげで、ちょっといいことがあっただけで幸せだと思える。ですから、そういう言葉が持つ力というものを味方につけて、生きていってほしいと思いますね。そして、繰り返しになりますが、ぜひ、将来、書き手になってください。楽しみにしていますから。

芦田 プレッシャーですが、なれるよう、いろいろなものを吸収していきたいと思います。

五木 期待と予感を胸に、本日の対談を打ち上げにしたいと思います。

芦田 ありがとうございました。


取材日の翌日が五木さんの誕生日だったため、ケーキとお花でお祝い。芦田さんからは眼鏡スタンドが贈られ、五木さんも嬉しそう。


対談が行われた「山王スイート」は、ザ・キャピトルホテル 東急を代表するスイートルームの1つ。障子と襖が和を感じさせる。五木さんは「坊主頭にして、最初の取材です」とやや照れた表情でおっしゃりながらご登場。村上春樹さんの本が好きな芦田さんのため、村上さんとの対談が収録されている自著『作家のおしごと』を進呈された。ワンピース(参考商品)/ディオール (クリスチャン ディオール)

芦田愛菜(俳優)
2004年兵庫県生まれ。5歳でドラマ『Mother』に出演し、脚光を浴びる。『マルモのおきて』で連続ドラマ初主演。現在、映画、TV、CM等で幅広く活躍中。第34回日本アカデミー賞新人俳優賞、第54回ブルーリボン賞新人賞ほか受賞歴多数。15歳で初の著書『まなの本棚』を上梓。

五木寛之(作家)
1932年福岡県生まれ。早稲田大学文学部ロシア文学科中退。1966年『さらばモスクワ愚連隊』でデビュー。1967年『蒼ざめた馬を見よ』で直木賞受賞。代表作に『青春の門』『大河の一滴』『親鸞』など。『七〇歳年下の君たちへ』は高校生、大学生との対話集。近著に『新・地図のない旅』(全3巻)。

この記事の掲載号

『家庭画報』2024年01月号

家庭画報 2024年01月号

撮影/笹口悦民〈SIGNO〉 文/清水千佳子 スタイリング/浜松あゆみ(芦田さん) ヘア&メイク/太田瑛絵〈ヌーデ〉(芦田さん) 撮影協力/ザ・キャピトルホテル 東急

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