カルチャー&ホビー

芦田愛菜さんと五木寛之さんが“超異世代”対談!「本は幸せの架け橋」

2023.12.18

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〔超異世代対談〕芦田愛菜さん × 五木寛之さん 「本は幸せの架け橋」(前編) 文壇の重鎮、五木寛之さん91歳と、俳優にして現役大学生の芦田愛菜さん19歳。ご本人たちも驚く超異世代対談は、活字中毒という共通項もあり、72歳の年齢差を感じさせないものに。和やかなやり取りから、お二人にとっての幸せはいつも、本とともにあることが伝わりました。

「本は没頭できるところが好き。活字中毒なんです」──芦田

五木 先日、寝るときに、これまでに何人と対談したか数えてみたんです。700人数えたところで寝てしまったんですが、55年間で1000人は超えているだろうと思います。そのなかで、今日が年齢差最高(笑)。

芦田 光栄です(笑)。

五木 あなたのご本『まなの本棚』は4年で6刷、10万部とは凄い。


芦田 知らなかったです。多くのかたに手に取っていただけて嬉しいです。

五木 丹念に読ませていただいたけれど、ちゃんとした内容の本で感心しました。全然年齢差を感じさせないね、書き手としては(笑)。

芦田 本当ですか? ありがとうございます。

五木 取り上げている本が一定の傾向に沿っていなくて、手あたり次第というか、雑ないい方をするとそうなるけど、よくいえば、ものすごく幅広くて、その偏見のなさに感動しました。『古事記』や『日本書紀』から始まって、『赤毛のアン』もあれば、村上春樹さん、百田尚樹さんの本もあり、古典も現代も、右も左も関係なく読んでらっしゃる。その幅の広さにはびっくり。

芦田 恐れ入ります。確かにやや手あたり次第に読んでいるようなところはあるかもしれません。

五木 今の学校教育だと、どうしても、読む本の傾向が決まってきてしまうものなんですけどね。遠藤周作さんが対談のとき、「自分がいちばん幸せだと思うのは、子どものときに、あれは読んじゃいけない、これはダメと、一切いわれなかったことだ」とおっしゃってましたけど、そういう意味で、芦田さんは自由にのびのびと、いろんな本を読んでらっしゃるから、ほんとに幸せだと思うな。

芦田 お芝居の仕事もそうなんですが、物語の世界で自分ではない誰かになったり、自分では体験しえないことを体験できるのが好きなのかなと思っています。文字を読むこと自体も大好きで、調味料の成分表示などもつい読んじゃうので、活字中毒なのかもしれません。

五木 僕も子どものとき、読むものがないと、薬の「大人は一日何服」なんていうのを読んでたなぁ(笑)。これは生まれつきの性格というか、「活字好きという星の下に生まれた」ということでしょうね。芦田さんも一生そうだと思う。

芦田 そうありたいです。ページをめくる感覚や、ハードカバーの本を最初に開いたときのメキメキッていう感じも好きなので、そういう星の下に生まれたのかもしれません。

五木 最近、相続とかが話題になってるけど、僕の一家は戦後、北朝鮮から裸一貫で引き揚げてきたので、親から相続したものなんて何もないんですよね。借金を背負わなかっただけラッキーだとずっと思っていた(笑)。教師だった父は、僕が座敷を歩いていて、ひょいと本をまたいだりすると、物差しでバシッと叩く。「本をまたぐなんて、とんでもない」とね。また、読みさしの本のページの端を折っていると、「イギリスのほうではドッグイヤーといって、読者人にとっていちばん恥ずべき行為なんだぞ」とたしなめられたことがある。思えば、僕は親からそういう形のないものを相続したのかもしれません。

芦田 私もページの端を折るのは好きじゃないです。理由はうまく説明できないんですけど。お風呂で読むのも、本がへなへなとなってしまうのがいやで苦手です。

五木 僕は風呂でよく本を読むんだ(笑)。いい気持ちで読んでいて寝ちゃうことがあって、そうすると、本をポチャッと湯舟に落とすので、うちにある文庫本はどれも水ぶくれ(笑)。2倍くらいの厚さになっています。

芦田 のぼせちゃいませんか。

五木 38度くらいのぬるいお湯なので、のぼせることはないです。3時間も5時間も入っていて、1冊丸々読んだり。

血を売って古本を買った大学時代

芦田 私は今大学生なのですが、先生はどんな大学生活を送られましたか。

五木 僕は1952年に大学に入ったんですが、当時の学生はみんな貧しくて、生活していくのが大変でね。親の援助がある人も、少ない仕送りのなかで1か月間、どうやりくりするか頭を悩ませていて。そういうフィジカルな問題で、みんな必死でした。当時、皇居近くに学生援護会という団体の建物があってね、朝の6時、7時に行くと、その日のアルバイトを斡旋してもらえたんです。でも、大勢集まるので、なかなか全員にはいきわたらない。あぶれると、製薬会社に血を売りに行ったこともある。200ccで400円くらいだったと思うけど、比重が足りないと断られることもあってね。血を買ってもらうのもダメかと肩を落として帰ったこともあって。

芦田 今の私たちには想像ができないです。

「学生時代は貧しかったので生きていくだけで必死でした」──五木

五木 そうでしょうね。僕はそんな毎日を送っていましたから、石原慎太郎さんが『太陽の季節』でデビューしたときは、こんな華麗な学生生活もあるのかとびっくり。こっちは、アルバイト料が入ると、大学近くの古本屋でバーゲンの本を買って、必死で読んでいました。当時は読むことで支えられていたのかなと思いますね。

芦田 私は本を開くと、別の世界にいける気がするというか、なんかこう、没頭できるところが好きで読んでいる気がします。よく、「悲しいときに読みたくなる本は何ですか」といった質問をされるんですが、あまり思いつかないんです。私はこういう気持ちのときはこの本を読む、といった見方で、本をとらえたことはないかもしれません。

五木 そう、本はそんなに便利な道具じゃないですからね。読んだことで、かえって気持ちが沈んだり、暗くなったりすることもあります。今、ドストエフスキーがすごく人気だけど、落ち込んでいるときに励ましてもらおうと思って読んだら、かえってつらくなる人もいるかも。

芦田 そうですね。ただ、テーマが重い本でも、「自分はこのテーマをどう思うだろう」と考えながら読むと、落ち込むことはないので、それが本の不思議なところだとも思います。私にとって読書は、用意された食事を食べるのではなく、材料だけ用意されていて、好きに調理していいよ、といわれている感覚なんですね。だから、その本の世界に浸ることもありますが、それ以上に、自分が本の内容について考えることで満たされる気がします。

(次回へ続く。12月20日公開予定)

対談が行われた「山王スイート」は、ザ・キャピトルホテル 東急を代表するスイートルームの1つ。障子と襖が和を感じさせる。五木さんは「坊主頭にして、最初の取材です」とやや照れた表情でおっしゃりながらご登場。村上春樹さんの本が好きな芦田さんのため、村上さんとの対談が収録されている自著『作家のおしごと』を進呈された。ワンピース(参考商品)/ディオール (クリスチャン ディオール)

芦田愛菜(俳優)
2004年兵庫県生まれ。5歳でドラマ『Mother』に出演し、脚光を浴びる。『マルモのおきて』で連続ドラマ初主演。現在、映画、TV、CM等で幅広く活躍中。第34回日本アカデミー賞新人俳優賞、第54回ブルーリボン賞新人賞ほか受賞歴多数。15歳で初の著書『まなの本棚』を上梓。

五木寛之(作家)
1932年福岡県生まれ。早稲田大学文学部ロシア文学科中退。1966年『さらばモスクワ愚連隊』でデビュー。1967年『蒼ざめた馬を見よ』で直木賞受賞。代表作に『青春の門』『大河の一滴』『親鸞』など。『七〇歳年下の君たちへ』は高校生、大学生との対話集。近著に『新・地図のない旅』(全3巻)。

この記事の掲載号

『家庭画報』2024年01月号

家庭画報 2024年01月号

撮影/笹口悦民〈SIGNO〉 文/清水千佳子 スタイリング/浜松あゆみ(芦田さん) ヘア&メイク/太田瑛絵〈ヌーデ〉(芦田さん) 撮影協力/ザ・キャピトルホテル 東急

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