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連載・季節の賞翫(しょうがん)飾り花 白玉椿──不老長寿の花で新年を寿ぐ

2023.12.28

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季節の賞翫 飾り花
造花工藝作家の岡田 歩さんが綴る、四季折々の行事と草花の物語を月に1回、12か月紹介する連載です。一点一点丁寧に、創意工夫を凝らして作った飾り花を賞翫しましょう。
※賞翫/良い物を珍重し、もてはやすこと。物の美を愛し味わうこと。

1月 一陽来復の兆しを告げる冬の花

文=岡田 歩(造花工藝作家)

寒さも一段と深まり凍える空気のなか、堅く結ばれた椿の蕾が次第に膨らみほころび始めました。冬至も過ぎ、一陽来復の兆しを感じます。陰極まりて陽となす。日脚が徐々に伸びはじめ、気の早い私は、もう少し先の春の訪れが楽しみで、今から胸を高鳴らせています。


2024年は、世の中の人々のもとにたくさんの良いことが訪れる一年になりますように……と願いを込めて、新年を寿ぐ白玉椿と松の飾り花をこしらえました。

季節の賞翫 白玉椿

花びらの枚数が少ない椿の花は、美しいフォルムに仕上げるのに骨を折ります。花びらの形状や配置がほんの少し変わるだけでも、花の姿が著しく崩れてしまうからです。微妙に異なる細工を施した花びらを余分に準備し、細心の注意を払いながら仕上げます。春の予感を感じさせてくれる、大きく膨らみほころびかけた蕾の姿が引き立つように、松を控えめに添えました。細い筒形の花入は手染めした和紙を用いて制作しています。

樹齢が長く常緑の松は青々と清々しく、不老長寿の象徴なのはご存じのとおり。縁起の良い神聖な植物とされていて、民間では、古くからお正月に松を飾る風習があったと伝えられています。

また、松と同様に、冬の間も枯れることなく緑の葉を保ち、厳しい寒さを耐え抜き美しく咲き誇る椿の姿は、雅趣に富み、咲く花の種類が少ないこの時季に、いけばなの花材としても愛されています。蕾の状態から三分咲き、五分咲き、七分咲き……と移り変わる姿だけでなく、添える枝の種類によっても花の表情が多様に変化するのも、椿をいける楽しみの一つです。

格調高く、艶やかさと慎ましさを併せ持つ椿。花や種子は薬効があるため、不老長寿や繁栄の象徴とされ、古くは神聖な花木として大切にされていたといわれています。また、江戸時代の園芸ブームに伴い、日本各地で改良された数多の品種が生み出されたとのこと。現在では2000種以上あるといわれていおり、ひと冬の間に、花の時期を迎える椿の種類もそれぞれ移り変わります。

季節の賞翫 白玉椿

松と椿の美しさは、一年の始まりを慎ましく迎えるにふさわしく、凛とした力強さには、何事があっても気持ちを引き締めて過ごすよう、励まされているような気がします。松の枝の質感を表現するために、花蕊(かずい)に使う材料の粒子を砕いて着彩したあと、ピンセットを用いて一粒一粒付着させ、仕上げました。

私が制作依頼をいただく花の中で多いものの一つに椿の花があります。作品を制作する過程で、花の持つ印象や特徴を捉えるには視覚的要素は欠かせませんが、時として“香り”が重要になることも。というのも、私は花の代用品としてではなく、「花の心」を作品で表現することを大切にしているからです。「生きている花の美しさに勝るものはない」という思いがあるからこそ、香りや花のまとう空気感など目に見えない要素を、頭の中でイメージが鮮明に描けるようになるまで考察を深め、自己のフィルターを通し、感じるままに表現しています。

中でも嗅覚とは不思議なもので、香りによって、実物が存在しなくてもあたかも目の前にそれがあるように感じたり、記憶が鮮明に蘇り、心が満たされることがあります。ところが椿は、芳しい花の香りが漂うことを期待してしまうような佇まいですが、ほとんどの品種がわずかにしか香らず、やんわりはぐらかされているような気持ちになるのです。

椿の香りは記憶を辿ることができません。だからこそ私の中では切望感や渇望感が募り、花としての印象がとても強く残ります。もし、椿にはっきりとした香りがあったならば、その花の扱いや格付けはどうなっていたことでしょう……。そんな私の空想をよそに、椿の花は圧倒的な存在感で多くの日本人から愛され続けています。

さて、今回の白玉椿と松の飾り花が、連載「季節の賞翫」の最後の作品となります。この1年間、私の連載に寄り添ってくださいまして、心より感謝申し上げます。またいつかどこかでお目にかかれることを楽しみにしております。
岡田 歩(おかだ・あゆみ) 岡田 歩(造花工藝作家) 造花工藝作家
物を作る環境で育ち幼少期より緻密で繊細な手仕事を好む。“テキスタイルの表現”という観点により、独自の色彩感覚と感性を活かし造花作品の制作に取り組む。花びら一枚一枚を作り出すための裁断、染色、成形などの作業工程は、すべて手作業によるもの。
URL:https://www.ayumi-okada.com

撮影協力/六雁

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撮影/大見謝星斗 スタイリング/阿部美恵

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