クラシックソムリエが語る「名曲物語365」 難しいイメージのあるクラシック音楽も、作品に秘められた思いやエピソードを知ればぐっと身近な存在に。人生を豊かに彩る音楽の世界を、クラシックソムリエの田中 泰さんが案内します。記事の最後では楽曲を試聴することができます。
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第218回 ベートーヴェン『ピアノ協奏曲第3番』
イラスト/なめきみほ
即興演奏の名手ベートーヴェンが本領を発揮!?
今日4月5日は、ベートーヴェン(1770~1827)の『ピアノ協奏曲第3番』の初演日です。
第1番と2番のピアノ協奏曲を世に送り出したベートーヴェンが、いよいよ本領を発揮、自信を持って臨んだ作品が第3番のピアノ協奏曲でした。出版社に宛てた手紙には、「これまでの協奏曲は最上ではありません。さらに良い作品を次の演奏会のためにとっておきます」などと書いていましたが、思うように作曲が進まないまま本番を迎えたようでした。
そして迎えた1803年4月5日。アン・デア・ウィーン劇場で行われた初演において譜めくりをしたザイフリートの手記によれば、「独奏ピアノの譜面はほとんど白紙で、理解不能のエジプトの象形文字のようなものがところどころにあっただけ」というのですからびっくりです。
つまり、独奏者ベートーヴェンが、即興演奏で乗り切ったというわけです。いやはや凄い。この日はベートーヴェン作品のみのコンサートで、『交響曲第2番』やオラトリオ『オリーブ山のキリスト』も同時に初演されています。
田中 泰/Yasushi Tanaka一般財団法人日本クラシックソムリエ協会代表理事。ラジオや飛行機の機内チャンネルのほか、さまざまなメディアでの執筆や講演を通してクラシック音楽の魅力を発信している。