ノスタルジックな感情を刺激する美しい楽曲を生んだ大作曲家で、ピアニストとして超絶技巧の名手でもあったセルゲイ・ラフマニノフ。2023年は生誕150年、没後80年の節目であり、音楽シーンでいつも以上に彼の作品が取り上げられた。その記念年に、ユジャ・ワンをソリストとして、ラフマニノフ全5曲の協奏的作品を収録したアルバムがリリースされた。
ピアノブームの中国で生まれ、アジア人女性としてスターダムに上り詰めた彼女。古い業界が何をいおうと自身が好む衣装を身にまとい、豊かな表現力で聴き手を圧倒する特別なピアニストだ。身長が2メートル近くあったラフマニノフの作品を弾くには大きな手を持つほうが有利だが、ワンは小柄な体軀で軽々と鮮やかな音を鳴らす。類い稀な身体能力と技巧の持ち主でもある。
指揮は、貧困問題を抱えるベネズエラで確立された音楽教育システム、エル・システマから世界に羽ばたいたカリスマ、グスターボ・ドゥダメル。同世代でたびたび共演する彼らが、その場で生まれる情熱と作曲家への敬愛の念を交わらせ、感情をうねらせ爆発させる。ユニバーサルな価値観や多様性がますます当たり前のものとなった現代を象徴する、輝かしいアルバムだ。
© Craig Mathew
Yuja Wang(ユジャ・ワン)
ピアニスト。1987年北京生まれ。北京の中央音楽学院ののち、12歳からカナダのカルガリー、15歳からアメリカのフィラデルフィアで学んだ。2005年のカナダでの本格デビュー以来、一流オーケストラとの共演等が激増。音楽性に加え、カリスマ的な存在感で注目される。
編集部おすすめ
[CD]
ユジャ・ワン『ラフマニノフ:ピアノ協奏曲全集 他』
UCCG-45076/7 3850円
2023年2月、ロサンゼルスのウォルト・ディズニー・コンサートホールで2週に分けて披露し、大喝采を浴びた演奏のライヴ録音。ラフマニノフによるピアノとオーケストラのための作品、全5曲が収録されている。ユジャ・ワンと、ベネズエラが生んだスター指揮者でロサンゼルス・フィル音楽監督のドゥダメルが、息の合った共演でラフマニノフの壮大な世界を描く。
[曲目]
ラフマニノフ:
〈CD1〉ピアノ協奏曲第1番、第4番、パガニーニの主題による狂詩曲
〈CD2〉ピアノ協奏曲第2番、第3番
ユジャ・ワン(ピアノ) 、グスターボ・ドゥダメル(指揮)、ロサンゼルス・フィルハーモニック