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米倉涼子さんの「気になる医学」。吉村紳一先生に聞く、外科医の魅力から脳卒中のカテーテル治療まで

2023.11.06

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今、会いたい名医に聞く 米倉涼子の「気になる医学」 現在、全国で174万人近くの患者さんがいる脳卒中(脳血管疾患)。脳卒中とは脳の血管が詰まる“脳梗塞”、血管から出血する“脳出血”と“くも膜下出血”の3つを指し、治療法がそれぞれ異なります。外科手術とカテーテル治療の“二刀流”で有名な脳神経外科医・吉村紳一先生を米倉涼子さんが訪問。外科医の魅力からカテーテル治療まで幅広く語り合いました。記事一覧はこちら>>>


2022年7月にリニューアルされた横浜新都市脳神経外科病院のカテーテル室にて。吉村先生は約ひと月に一度こちらで手術、外来診療を行っている。脳血管撮影装置は「シーメンス」社製。シャツ6万9300円 ベスト15万7300円/ともにhache パンツ7万5900円/フォルテフォルテ(すべてコロネット) 靴11万5500円/セルジオ ロッシ(セルジオ ロッシ カスタマーサービス) ピアス56万1000円(参考商品) ネックレス55万円 リング126万5000円/すべてメシカ(メシカ ジャパン)

吉村紳一先生(脳神経外科医、兵庫医科大学脳神経外科主任教授・脳卒中センター長)


吉村 紳一(よしむら・しんいち)
1963年5月23日生まれ。岐阜県出身。89年岐阜大学卒業、同大学脳神経外科学教室入局。国立循環器病センター勤務、ハーバード大学マサチューセッツ総合病院、スイス・チューリヒ大学留学後、2004年岐阜大学脳神経外科助教授、08年同臨床教授、13年兵庫医科大学脳神経外科主任教授就任。14年より同大学脳卒中センター長兼任。後進の育成や情報の発信にも熱心で、わかりやすく綴られたブログ「脳卒中をやっつけろ!」が好評。お嬢さん2人も医師の道に。●座右の銘/「人を大切にせよ」(岐阜大学脳神経外科学初代教授の故・山田 弘先生からいただいた言葉) 米倉さんから見た吉村先生の印象→「穏やかなかたが多い印象の脳神経外科医ですが、まさにそのとおり! 患者さんに寄り添う人間味溢れる先生でした」

外科手術とカテーテルの二刀流で脳卒中に挑む

米倉涼子さん(以下Y) 初めまして。今日は脳卒中についていろいろ教えてください。よろしくお願いいたします。


吉村紳一先生(以下S) よろしくお願いいたします。何でもお尋ねください。

Y 吉村先生は外科手術と、切らない治療といわれるカテーテル治療(血管内治療)の二刀流で有名ですが、カテーテル治療を推進されてきたうえでターニングポイントはありましたか?

S はい。1回目の転換期は2002年でした。国立循環器病センターでの勤務、ハーバード大学とスイスのチューリヒ大学への留学を経て、岐阜大学医学部の脳神経外科にいた頃、破裂脳動脈瘤の患者さん約2000人を調べた海外の研究結果が報告されて、開頭手術よりカテーテル治療のほうが結果がよかったんです。でも当時、外科系の学会はその結果に猛反発で。血管内治療の発表には、罵声を浴びることもありました(苦笑)。

Y 学会での罵声、凹みませんか?

S 凹みますよ。でも毎回そうだったので、学会というのは発表したら野次が飛ぶものなのかな、と思っていたんです(笑)。

Y その結果を受けて、脳卒中の治療法は大きく変わったんですか?

S 海外ではそれによってカテーテル治療へのシフトが進んだのですが、日本は劇的には変わらなかったんです。でも、それが起点となり、少しずつ破裂動脈瘤のカテーテル治療が増えていったことは間違いありません。

次の転機は2015年。私が今も情熱を燃やす、脳梗塞に対するカテーテル治療の有効性がこの年、証明されたんです。世界中で進行していた臨床研究が4つ同時に報告されて、薬剤だけよりもカテーテルで血の塊を取ったほうがいいという結果が出ました。その有効性が世界的に完全に証明されたことで、外科手術のみで対応していた病院も含めて、それ以降カテーテルは必須の、学ぶべき技術に変わったのです。


吉村先生から見た米倉さんの印象→「溌剌としたかた。気さくに話しかけていただけて嬉しかったです。『エンジェルフライト』を観て泣きました」

カテーテル治療の原体験は母の脳梗塞治療

Y その間、カテーテル治療への信頼が揺らぐことはなかったんですか?

S 揺らがなかったですね。今から27〜28年前のことになりますが、自分の母をカテーテル治療で救えた経験があるんです。母は当時、60歳くらい。目の前で私の子どもをあやしていたのですが、後ろから見ていたら片手で抱っこしていたんです。「片手だと危ないよ」と回り込んで見てみると、右半身と顔の半分が麻痺していて。言葉も出にくくなっていました。脳卒中だと思い、すぐに救急車で運びCTを撮ったら、やはり脳梗塞を起こしていたんですね。

当時はまだ高性能のカテーテルがなくて、科学的データも揃っていなかったので、「カテーテル治療はやらないほうがいいのでは?」という意見もありました。でもほかに有効な手がなく、一命を取り留めたとしても今やらなければ一生、麻痺と言語障害が残る。それまでの経験から、治療手技には自信があったので、責任を負うべく自ら執刀することにしました。詰まったところまで管を入れて溶かす薬を注入したり、つついたり。麻痺は治ったものの、術後すぐは言葉が出なかったんです。言語障害は残ってしまうのかと落胆していたら、3日目くらいから話し始めて。母はデザインの仕事をしていたのですが、1か月で職場復帰し、88歳の今も現役で働いています。僕より、よく喋りますよ(笑)。

Y ご親族の手術の執刀では、やはり何かしら違う感情を抱くものですか?

S はい。独特のプレッシャーがかかりますよね。結果がよかったから、今は美談のように話せますが、もしうまくいかなかったら、特に深く残る一生の心の傷になっていたかもしれないし。やはり身内を執刀するのは怖いです。

脳ドックを受けたことで病気が判明。必要性を実感しました


「脳卒中は予防できますか?」との米倉さんの問いに、「脳卒中は生活習慣病なので、“糖、脂肪、血圧”に注意すればある程度コントロールできます。40代以上で不安要素があるかたは脳ドックもぜひ」と吉村先生。ワンピース4万7300円/MURRAL カーディガン5万600円/Punto D’oro(ブランドニュース) 靴11万5500円/セルジオ ロッシ(セルジオ ロッシ カスタマーサービス) ピアス1万4300円/ヴァンドームブティック(ヴァンドームブティック伊勢丹新宿店) ネックレス1万6500円/VERMILLION(ヴァンドームヤマダ)

突然の激しい頭痛は決して我慢せず近くの脳外科医へ

Y 怖いですよね……。成功されてよかったです。発作が起きたときはすぐ病院へ行くべきなのはわかるのですが、どういった症状で脳との関連を疑って、どのタイミングで病院へ行くべきか、やや悩ましいですよね。

実は私の母が、ベッドから落ちたときの打ちどころが悪く脳内血腫になってしまったことがあったんです。気になって病院へ行ったからよかったものの、「もし放置していたら、数日後に亡くなっていたかもしれない」と。外見的には出血はしていないけれど、中で血が出ていることもあるわけですよね。

S お母さま、適切な処置で何よりでした。頭をぶつけたときは、念のため検査しておくと安心ですよね。一般的に、脳卒中で見逃してはいけないサインに突発性の頭痛があります。突然、耐え難い頭痛に襲われた場合は危険性が高いことも多いので、まず近くにあってすぐに検査をしてもらえる病院、クリニックへ急ぐ。

そして“顔と手と言葉”のチェック。顔が歪んでいないか、手や足が動かしにくくないか、呂律が回らなくなっていないか。そんなときは早く、脳神経外科の専門医のいる病院を受診することが重要です。

Y 脳卒中全般をみられているなか、最近、吉村先生のところで多いのはどのような治療なのでしょうか?

S 未破裂脳動脈瘤のカテーテル治療です。未破裂脳動脈瘤はくも膜下出血の最大の原因で、成人の2〜5パーセントにあるといわれるほど、非常に多い。MRIで容易に見つかるようになったのですが、放置しておいてもいいのか、治療するべきかが悩みどころなんです。

Y 治療自体も、決してリスクゼロではないですしね。

S そうなんです。全国平均だと治療することで3〜5パーセントになんらかの後遺症、命を落とす可能性が1パーセント未満ある。兵庫医科大学ではチーム力の向上もあり、後遺症の可能性が1パーセント台に抑えられてはいますが、ゼロではないんです。でも破裂したら3分の1は死亡、3分の1は後遺症、社会復帰できるのは3分の1。精密検査の結果や場所、サイズ、形、年齢、血圧、持病などを鑑みてご説明をしたうえで、治療を希望されるかたには対応しています。

Y 全体的にはやはり、切らないカテーテル治療の希望が多いんですか?

S はい、当院では約8割が切らない治療になっています。でも、カテーテル治療より開頭手術のほうが安全性が高い場合もあるんですよ。今朝行ったのも、カテーテル治療ではなく開頭手術でした。欧米のドクターたちとは、「いずれ脳血管疾患では、カテーテル治療が9割を占めるのではないか」と話しているのですが、1割は開頭手術が適している症例が残るわけです。患者さんのことを思うと、両方できるに越したことはない。それが、今も二刀流を続けている理由です。

何遍、人生があってもまた医者、外科医になりたい。心から思う


兵庫医科大学病院にて脳動脈瘤のカテーテル治療に臨む吉村先生。男性患者の未破裂脳動脈瘤に対する手術で所要時間は約1時間半。5日ほどで退院の見込み。開頭で行う場合は手術約5時間、入院10日前後が目安。「常識を疑え」は吉村先生が好きな言葉。「“本当にそこが限界なのか? 本当にそれをやったほうがいいのか?”と常に問うことで、医療、医学は進歩していくのだと思う」。

責任は重いが、患者を直接治せるのが外科医の魅力

Y 医師になりたいと思われたきっかけは何かあったのですか?

S 僕が小学生の頃、父が胃がんと診断されたんです。壁越しに母が号泣しているのが聞こえてきて、子どもながら何かよくないことが起きているのは感じていました。僕を心配させまいと親や親戚は核心には触れませんでしたが、親たちの話を聞きかじった近所の子どもから、学校で「お前のお父さん、病気で死んじゃうんでしょ」といわれて初めて状況を知りました。

その後、父親がいなくなる夢を見たり、親戚に預けられたりもした当時の経験があまりに強烈で、今でもリアルに覚えています。結果的には良性腫瘍だったのですが、術後、手術の執刀医を崇めるように見つめていた母の姿も忘れられません。そのとき、母からいわれた「あなたも人の役に立つ人になりなさい」という言葉。それ以降、漠然と医者になりたいと思うようになりました。

もう一つ、僕が中学生の頃、叔母が乳がんになって亡くなったことも大きかった。転移してしまったんです。今の医療技術なら助かったかもしれないのですが……。僕は医者の家系ではないですし、もともと患者側にいた人間なんです。患者の家族目線が、今も医師としての自分のベースにある。生死にかかわる大きな出来事が身近にあったので、頭の中で将来の選択肢は医者しかありませんでした。

Y 吉村先生は生まれ変わっても、医師になりたいですか?

S 何遍、人生があっても医者になりたいです。しかも外科。大門未知子先生と同じですね(笑)。責任も重いし、本当に大変なのですが、より直接的に病気を治す作業ができる。他院から紹介された難易度の高いケースも多いし、命を預かるので厳しい部分はありますが、自分たちを頼ってくれた患者さんが元気になって帰られていく、ただただそれだけを励みにやっています。

Y 挑戦者であり続ける姿勢が素晴らしいです。とても参考になりました。


「ドラマでの米倉さんの手技のうまさに感嘆しました。相当練習しましたよね」、「好きなんです(笑)」と米倉さん。MRIの性能にも興味津々で「検査では何テスラ(磁場強度の単位)以上がおすすめですか?」。「さすが大門未知子先生! 3テスラあったらかなり美しい画像ですよ」と会話が弾む。ジャケット シャツ ベスト パンツ/すべてスタイリスト私物 靴9万3500円/ジャンビト ロッシ(ジャンビト ロッシ ジャパン) ピアス56万1000円(参考商品) リング126万5000円/ともにメシカ(メシカ ジャパン)

手術がうまくいき、患者さんと話す瞬間は格別に嬉しいです──吉村先生

頼りになる先生で、患者さんたちは幸せですね──米倉さん


兵庫医科大学病院・脳卒中センター


1972年創立の兵庫医科大学病院。近隣の阪神間はもとより日本全国から、吉村先生をはじめとする医師により提供される高度な医療を求め、多くの患者さんたちが訪れる。脳神経外科、循環器内科、眼科、血液内科ほか、35の診療科がある。

兵庫県西宮市武庫川町1-1
TEL:0798(45)6111(代表)
外来受付/月曜〜金曜8時30分〜16時45分 第1・第3土曜8時30分〜12時30分(初診受け付けは全日11時まで)


横浜新都市脳神経外科病院


脳神経外科専門病院である横浜新都市脳神経外科病院。24時間常勤医による救急医療体制を敷き、脳卒中疾患が起きたら駆け込める砦として地域密着医療を提供している。森本将史病院長とのご縁で、吉村先生の外来診療日(予約制、HPなどで要確認)が月に1回程度ある。

神奈川県横浜市青葉区荏田町433
TEL:045(911)2011
外来受付/月曜〜金曜8時〜11時30分、13時〜16時 土曜8時〜11時30分

米倉 涼子(よねくら・りょうこ)

1975年8月1日生まれ。神奈川県出身。B型。5歳から15年間クラシックバレエを習う。2012年に開始された『ドクターX 〜外科医・大門未知子〜』(テレビ朝日系)21年秋放映の第7期ではパンデミックをテーマに取り入れ、平均視聴率、個人視聴率、全民放連続ドラマの年間1位を獲得。12年ミュージカル『CHICAGO』にてNYブロードウェイデビュー。23年3月17日より世界同時配信のAmazon Originalドラマ『エンジェルフライト 国際霊柩送還士』にて主人公・伊沢那美役を熱演。感動作と反響を呼んでいる。●特技/クラシックバレエ ●趣味/舞台鑑賞。英語、スペイン語の勉強 ●座右の銘/「万里一空」

この記事の掲載号

『家庭画報』2023年11月号

家庭画報 2023年11月号

撮影/鍋島徳恭 スタイリング/野村昌司(米倉さん) ヘア&メイク/奥原清一(米倉さん) 取材・文/小松庸子

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