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「天空の森」オーナー田島健夫さんが未来を担う子どもたちに伝えたいこととは【連載「夢の王国」最終回】

2023.11.06

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天空の森 ふるさとに築く「夢の王国」 ふるさと鹿児島に広大な未墾地を購入し、自ら木を伐り、道を造り、夢の王国「天空の森」を築いた田島健夫さん。その道程や理念、進行中のプロジェクトについて語っていただいた本連載の最終回は、今につながる子ども時代がテーマです。往復2時間の通学路で田島さんが学んだこととは?未来を担う子どもたちへのメッセージとともに伺いました。前回の記事はこちら>> 連載一覧はこちら>>

最終回 寄り道をしながら学ぶ

自然と戯れながら、真に生きることを学んだ学校の行き帰り
黄金色に輝く田んぼの中を散歩する田島さん。「昔は、稲穂が頭を垂れる頃になると、山太郎がに(もくずがに)と太ったうなぎが獲れたんです。あの頃はみんな貧しくて、いつもおなかを空かせていたから、嬉しくてね。生きる知恵や何かはみんな、寄り道をしながら学びました」。

「大切なのは、仲間と夢、自分を信じて諦めないこと」──田島健夫

僕の生家から小学校までは片道4~5キロ、子どもの足で約1時間。学校は絶対でしたから、頭が痛かろうが、雪が降ろうが、山道を歩いて通ってね。その行き帰りの道が僕にとっては学校以上に学校で、自然や仲間から、生きていくうえで大切なことをたくさん学びました。僕の人格のほとんどは、その頃に形成されたといってもいいかもしれません。

登校時には欄干のない橋を渡りながら眺め、下校時には魚獲りに興じた中津川。

祖父、田島休次郎が初代社掌(のちに社司)を務めた和氣神社も寄り道先の1つだった。

通学路の途中には景勝地、犬飼滝(いぬかいのたき)も。雄大な自然が田島少年の心身を育んだ。撮影/小林廉宜

木に登ってムベやアケビを採ったり、川でうなぎを捕まえたり。当時の思い出の多くが食べ物を得ることと結びついているのは、ひもじかったからですね。おかげで、エゴノキの実は魚には毒だが、人間は大丈夫といったことや、どの山の何がいつ旬を迎えるか、どうやって食べたらおいしいかといったことなど、周囲の自然や生きものについて、非常に詳しくなりました。五感に刻まれた知識や知恵は、「忘れの里 雅叙苑」や「天空の森」のおもてなしを考えるうえで役立っています。

出身校、中津川小学校の正門。「授業が終わると、みんなでここに集まって、『何して遊ぶ?』と相談したなぁ」。

集団登校していた仲間にはいろんな学年の子がいて、いわば小さな社会。家がとても貧しい子もいたけれど、誰もいじめたりしないし、「助ける」なんていう意識もなく、普通に手をつないでいましたね。鳥を罠にかけるのが上手だったり、天気を読むのが得意だったり、誰もが1つは仲間から一目置かれる特技を持っていて、自分の居場所があると感じられたのがよかったのでしょう。


中学校時代の写真。上から3列目、右から3番目の田島さんは、小柄ながら精悍だ。

ある子が「そろそろ雨が降るから帰るぞ」というと、じきに本当に降ってくる。風に雨の匂いがすると聞いて、僕らも上を向いてくんくん嗅いだものです。木登りも鮎釣りも、年上の上手な子に教わって、それをまた下の子に教えていく。知っている者が知らない者に教えるのが当たり前で、全員が家族のようでした。僕がかけ算の九九ができなくて、放課後に居残りをさせられたとき、集落のみんなが校庭で待っていてくれたのは嬉しかったですね。

勉強が苦手だったという田島さんの座右の書。

2022年、鹿児島市教育委員会の依頼で、「かごしま創志塾」の中学・高校生に講話をした際、「田島さんは何を大事にされていますか」と質問されて、「絶対に相手を裏切らないこと」と即答したのですが、これは僕が常日頃、心に留めていること。どんなときにも信じられる仲間がいることの幸せが身に染みているからです。

鹿児島市教育委員会が2015年度より実施している「かごしま創志塾」は、次世代を切り拓く青少年を育成する事業。田島さんは開始当初から「起業家に学ぶ」というプログラムの講師を務めている。その第8期生が2022年10月に「天空の森」を訪問。鹿児島が世界に誇るリゾートで貴重な時間を過ごした。

また、別の機会には、塾生の女子中学生2人から「お金をたくさん集めたい」と聞かされました。集めて何をやりたいと思ってるの?と尋ねたら、自分が通っている学校に、満足に食事ができていない子がいる。そういう子どもたちのために使いたい、というので、僕は「その気持ち、忘れないでね」と話しました。

こういう素敵な夢を持った人たちが1人でも2人でもいれば、同世代に伝播していきますよね。彼女たちのキラキラした瞳を見ていると、人は死んでも人類の鎖はつながる、日本の未来はきっと大丈夫、という明るい気持ちになります。

風が吹き抜ける丘の上で、田島さんの話に耳を傾ける塾生たち。質疑応答の時間には、次々に手を挙げ、郷土の大先輩に質問を行った。

「天空の森」のスタッフが運転する車で、川の中をミニドライブ。大きな歓声が上がった。

子どもたちに伝えたいのは、仲間と夢を大切にすること。夢の実現に、お金がないとか、勉強ができないとか、一切関係ありません。僕自身の経験から断言できます。必要なのは、勇気を持って、微に入り細に入り夢を描き、絶対できると信じて努力すること。僕もまだまだ夢の途中。一緒に叶えていきましょう!


「天空の森」オーナー
田島健夫(たじま・たてお)

塾生たちに語りかける田島さんは、心の底から楽しそう。

1945年鹿児島県・妙見温泉の湯治旅館「田島本館」の次男として生まれる。東洋大学卒業後、銀行員を経て、1970年に茅葺きの温泉宿「忘れの里 雅叙苑」を、2004年に約60万平方メートルのリゾート「天空の森」を開業。類い稀なる発想力と行動力で日本の観光業界を牽引し、地方創生に尽力している。

この記事の掲載号

『家庭画報』2023年11月号

家庭画報 2023年11月号

撮影/本誌・大見謝星斗 取材・文/清水千佳子

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