エンターテインメント

歌舞伎、新たなる挑戦。若手ホープの中村壱太郎、市川團子が見出す希望〔対談〕

2023.11.10

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古典歌舞伎と新作歌舞伎の役の作り方。歌舞伎役者なら誰もが通る“道”を辿る



團子 『新・水滸伝』のお夜叉というお役はどんなふうに作られたんですか。

壱太郎 お夜叉は河合雪之丞さんが市川春猿を名乗っていらしたときに初演から演じてこられたお役なので、そのイメージを踏襲しつつも、今回の座組の雰囲気をみて“自分の思うお夜叉らしさ”を出せたらと、本をしっかり読もうというところから始めたんだよ。台詞まわしも春猿さんに当てて書かれているだろうと思ったから。


そこで演出の横内謙介さんや杉原邦生さんに「言葉尻とかを変えていいですか?」って相談して、自分で作っていったのと、僕なりにいろんな経験をして今があるから、これまで培ったものを引き出しから出して出来上がったという感じかな。

今お夜叉を演じることで、今の等身大の僕が見える世界というのがあるはずだから、33歳の僕が演じるお夜叉でいいと思ったんだよ。まだまだ欠けているものはたくさんあるだろうけれど、少し冒険ができるようになったかな。

團子 冒険した場面を教えてください。

壱太郎 名乗りをするところとか。

團子 たしかに、印象的ですね。

壱太郎 こんなことをしたら怒られるだろうなと思うことに挑戦できるようになったんだよね。でもいちばん怖いのは、演ってみたときに誰からも反応がないときだと思う。正解か、不正解かもわからない。それでもやり続ける精神力が身についたのかもしれないね。

團子 役作りは古典のほうが真似から始まるので入りやすいです。教えていただく事柄も確立されているからです。でも新作だと壱太郎さんがおっしゃるように演じる人の“仁(にん=役者が備える芸の持ち味)”に左右されると思うんです。

僕が演じた彭玘(ほうき)は初演時には(市川)青虎さんが演じられたお役で、映像を参考にさせていただいたときに、そこをひとつ重要な点として研究しました。でも新作に近いので自由に演じることはできるんですが、自分には引き出しが本当にないので一辺倒になってしまいます。

そんな中で少し嬉しかったのは、自分なりにイメージを作ってみて、それを自分で味付けして煮詰める作業をしてみたら“こういうことなのかな”と思えたことがあったんです。まだまだ浅はかで、手応えを得るにはしっかり時間をかけて考えないとダメだなとも思いましたし、より自然な演技に近づくためには、今以上に作り込みが必要なのだと気づきました。

壱太郎 ダメなことはないよ。すごく的を射ているし、僕も同じだよ。自分の中で作り込めるようになって、相手の芝居を受けて生まれるものもあるよね。あっちがこう来たなら、こうしてみようという余裕も持てるから。

『神霊矢口渡』のお舟。2019年6月、国立劇場の楽屋にて。

『神霊矢口渡』のお舟。2019年6月、国立劇場の楽屋にて。

2017年4月『桂川連理柵 帯屋』のお半の化粧をしているところ。

2017年4月『桂川連理柵 帯屋』のお半の化粧をしているところ。

團子 ところで、壱太郎さんの役者人生のターニングポイントっていつですか?

壱太郎 僕は祖父の襲名が大きかったかな。70歳を超えていたし、もう一度新たな気持ちで演じていこうとする姿を見たときに、歌舞伎って一生をかけてやれる仕事なんだなと思った。名実ともにそれを体現してくれて、それから祖父に役を教わるようになったんだよ。でも祖父は台本に書き込みをする人ではなかったから、頭の中にあったものを全部持って行っちゃった。こうだったのかなと想像しなくちゃいけない。そう思うと、猿翁さんは会報誌に書いておられるからいいよね。

團子 はい。祖父の後援会の会報があって、本当にありがたいことに「どういう気持ちで歩いていたか」といった演じる上での細かいことが「吃又(どもまた=『傾城反魂香』の通称)」などの芸談として載っているんです。だから、予想ではなくて確証になるんです。

壱太郎 それは大きいことだろうね。

團子 ビデオと書かれたものがあれば、実際に本人から学ぶのと同じ雰囲気で学べるのかなと思って、それは嬉しい点ですね。

壱太郎 でも僕たちって、これから生きていくとともに、公演記録のビデオって増えていくじゃない? だからあえて“これだ!”と思うものを1本に絞って、それを徹底的に研究すれば、次に観たものが変わってくる。本当に、論文研究の感覚だよね。それで紐解けることもあるし、一度演じてから観ると、また違った視点から見出すことができるから。

團子 本当にビデオってありがたいです。

壱太郎 書物から学ぶこともあるよね。

團子 そうですね。「吉野山(『道行初音旅』の通称)」についても祖父の会報誌の21号と22号に書かれていたので、今朝慌ててそれを読みました(笑)。この会報誌は全部で70号くらいまであって、かなり分厚いんです。少しずつ読み進めてラストまで読破したいです。

「吉野山」については静御前と忠信が主従関係であることが大前提だけど、色気がなさすぎても違うし、ただ色気があるだけでは恋になってしまう。また物語のところは、狐の化身であることよりも忠信の気持ちで語るのが大事なところだと書かれていました。

『義経千本桜』の佐藤忠信。2023年7月に歌舞伎座の稽古場にて。

『義経千本桜』の佐藤忠信。2023年7月に歌舞伎座の稽古場にて。

2023年7月、初めて忠信の化粧をする様子。

2023年7月、初めて忠信の化粧をする様子。

壱太郎 僕は何度も「吉野山」を勤めさせていただいたけれど、今回團子くんと演ることや團子くんが初役で勤めることに“何か”があるだろうと思う。今話してくれたように、役の気持ち、性根を意識するだけでそれが自ずと出てくるよ。

「吉野山」は単独の演目でも踊りの作品として素敵だけど、今回は「(伏見稲荷)鳥居前」と「四の切(『川連法眼館』の通称)」も上演するから、場面ごとに忠信と静御前の気持ちがしっかりと表れないといけないと思うんだ。そして未来に歌舞伎を残すために、何が正解かはわからないけれど、あれをやっておけばよかったと思わないようにすることを目指してる。

團子 僕も“今”を一生懸命頑張ります。

この記事の掲載号

『家庭画報』2023年11月号

家庭画報 2023年11月号

撮影/石田 航、本誌・坂本正行、岡積千可 協力/松竹 構成・文/山下シオン ヘア&メイク/AKANE、林摩規子

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