クラシックソムリエが語る「名曲物語365」 難しいイメージのあるクラシック音楽も、作品に秘められた思いやエピソードを知ればぐっと身近な存在に。人生を豊かに彩る音楽の世界を、クラシックソムリエの田中 泰さんが案内します。記事の最後では楽曲を試聴することができます。
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第35回 グルック オペラ『オルフェオとエウリディーチェ』
イラスト/なめきみほ
地上に出るまで決してうしろを振り返ってはならない
今日10月5日は、グルック(1714~87)のオペラ『オルフェオとエウリディーチェ』の 初演日(1762年)です。
神話を題材にした作品が数多いクラシック音楽の中でも、もっとも名高いテーマが、『ギリシャ神話』に登場する天才的音楽家オルフェオにまつわる物語です。その内容は、毒蛇に噛まれて死んでしまった愛妻エウリディーチェを冥界まで迎えに行くというオルフェオの冒険譚。“地上に出るまで決してエウリディーチェの顔を見てはならない”という約束に反して思わず振り返ってしまうことにより、愛する妻は地獄の闇に消え去るという悲しい物語です。
それにしても、このストーリーが日本最古の歴史書『古事記』に描かれた「イザナキとイザナミの物語」にそっくりなことに愕然です。その接点やどこに⁉ 何はともあれ、夫婦の強い絆を描いたオルフェオの物語は、モンテヴェルディのオペラ『オルフェオ』や、オッフェンバックのオペレッタ『天国と地獄』など、さまざまな名曲を生み出す原動力となったようです。
田中 泰/Yasushi Tanaka
一般財団法人日本クラシックソムリエ協会代表理事。ラジオや飛行機の機内チャンネルのほか、さまざまなメディアでの執筆や講演を通してクラシック音楽の魅力を発信している。