クラシックソムリエが語る「名曲物語365」 難しいイメージのあるクラシック音楽も、作品に秘められた思いやエピソードを知ればぐっと身近な存在に。人生を豊かに彩る音楽の世界を、クラシックソムリエの田中 泰さんが案内します。記事の最後では楽曲を試聴することができます。
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第33回 ハイドン 弦楽四重奏曲第77番『皇帝』
イラスト/なめきみほ
現ドイツ国歌の旋律を取り入れたハイドンの弦楽四重奏曲とは
今日10月3日は、東西ドイツ統一の日です。1989年のベルリンの壁崩壊に端を発するこの出来事は、翌1990年10月3日に決着し、第二次世界大戦後40年以上にわたった東西分断が終わりを告げたのです。
そこでの課題が新たな国歌の制定でした。1964年の東京オリンピックに東西ドイツ統一選手団が出場した際には、ベートーヴェンの「第九」が歌われたのですが、どうもしっくりこなかったのでしょう。統一に際しては、ハイドン(1732~1809)の『皇帝讃歌』が選ばれて現在に至ります。
作品の成り立ちは、国歌を歌って結束を固めるイギリス人の姿に感動したハイドンが、当時ナポレオン軍の攻撃によって危機にさらされていた故国を憂い、自信と誇りを取り戻すための「オーストリア国歌」制定を提唱。こうして生まれたオーストリア国歌『皇帝賛歌』が、巡り巡ってドイツ国歌となったのです。
この旋律をとても気に入っていたハイドンは、自らの作品にも流用します。それが、弦楽四重奏曲第77番『皇帝』です。
田中 泰/Yasushi Tanaka
一般財団法人日本クラシックソムリエ協会代表理事。ラジオや飛行機の機内チャンネルのほか、さまざまなメディアでの執筆や講演を通してクラシック音楽の魅力を発信している。