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【松岡修造の健康画報】「辛いとき、どうすれば乗り越えられますか?」聖心会シスター鈴木秀子先生に聞く

2023.10.11

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松岡修造の人生百年時代の“健やかに生きる”を応援する「健康画報」

聖心会シスターとして、50万人以上もの人々の悩みに耳を傾けてきた鈴木秀子先生。辛く苦しいとき、人はどうすればいいのか、明快に力強く答えてくださいました。

話題はお2人自身の悩みにも及び、先生が思わず、「こんな話、初めてします」と微笑む場面も。松岡さんの心を震わせた、慈愛に満ちたインタビューをお届けします。

前回の記事はこちら>> 連載一覧はこちら>>


鈴木秀子先生が日々礼拝をされている聖心女子大学の聖堂にて。背筋が伸びた美しい立ち姿は91歳という年齢を感じさせません。(松岡さん)スーツ、シャツ、ネクタイ、チーフ、靴/コナカ

聖心会シスター、文学博士 鈴木秀子先生

開口一番、「どうしてそんなに健康的で爽やかなんですか?」と質問し、松岡さんをどきまぎさせた鈴木先生。笑顔でストレートな質問をするところは、松岡さんに似ています。

鈴木秀子先生(すずき・ひでこ)
1932年静岡県生まれ。東京大学大学院人文科学研究科博士課程修了。文学博士。フランス、イタリアに留学後、ハワイ大学、スタンフォード大学で教鞭を執る。聖心女子大学教授(日本近代文学)を経て、現在は国際コミュニオン学会名誉会長、聖心女子大学キリスト教文化研究所学外所員・聖心会会員。国内外で「人生の意味」を考える講演会を開催。上梓した著書は150冊以上。近著に『悲しまないで、そして生きて〜愛する死者からのメッセージ〜』。

辛い経験の中に「意味のある何か」を見出す

松岡 鈴木先生は50年以上も悩める人たちに寄り添っていらっしゃいます。救いを求めてくる人に、どのようなお話をされるのですか。

鈴木 世の中はすべてバランスでできていて、人間はみな、いいところと悪いところがあり、人生は嬉しいことと辛いことがある。生きるコツは、辛いことの中に「意味のある何か」を見出すことだとお話しします。

松岡 意味のある何かとは、どのようなものでしょうか。

鈴木 たとえば、病気は悪いことばかりのように見えますが、病気になったからこそ気づけることもたくさんあるでしょう? 手足があたりまえに動くことがどれだけ幸せか、人の親切がどれだけありがたいか。ですから、辛いときは「この経験もきっと何か意味がある」と受け止めて、自分を成長させてくれたり、のちの人生で助けとなる何かを見出すことが大切なのです。人間のたった一つの使命は、死ぬまで成長することですからね。松岡さんはご自分のこれまでを振り返って、「あの辛い経験があって、今がある」と思うことはありませんか?

松岡 そうですね。僕はプロテニス選手になるまでずっと、「背が低い、太っている、才能がない」といわれていたので、劣等感が強かったんです。

鈴木 とても想像できませんね。

松岡 でも、そういう時期が長かったからこそ、僕は今、うまくいっていない人やネガティブな人の話を親身に聞けるのかなと思っています。

鈴木 それは素敵なことですね。

辛いとき、どうすれば乗り越えられますか?──松岡さん

「心の中のもやもやを吐き出すこと。すべきことが見えてきます」──鈴木先生

心の中のもやもやは動いて、話して吐き出す

松岡 でも、辛いことの真っただ中にいる人にとって、その経験を前向きに捉えるのはなかなか難しいように思います。そういう人は、どうすればいいのでしょう?

鈴木 まず、心の中のもやもや──人や環境、運命に対する恨みや怒りなど──をできるだけ吐き出すことです。それには運動が有効なので、私はときどき、悩んでいる人に「外に出て、息が切れるまで、早足で一周していらっしゃい」とすすめるんです。そうすると、すっきりした顔で戻ってきますよ。でも、いちばんいいのは、安心安全の場で、誰かに話を聞いてもらうことですね。このとき、聞く側はただ聞くこと。いろいろいいません。

松岡 アドバイスや励ましは口にせず、聞き役に徹するのですね。

鈴木 そう、「辛いんだね」で終わりです。もやもやを吐き出したら、みなさん、おのずとすべきことが見えてきますから。話を聞くということについて、私がよく思い出すのは、死期の迫ったお母さんを看病していた息子さんのことです。その人はお母さんが苦しいと訴えると、「お母さん、苦しいか、苦しいか」と返していたので、私はそうじゃなくて、「お母さん、苦しいよね、苦しいよね」といってごらんなさいといったんです。それで息子さんが「苦しいよね」と返すようにしたら、お母さんはうなずいて静かになって、苦しみも治まったんですよ。

松岡 共感してもらえたことが、それほど大きかったということですね。

些細に見える出来事がコンプレックスの源に

松岡 先生にも悩みやコンプレックスはおありですか?

鈴木 いっぱいありますよ。理想像と自分がかけ離れていることに悩みますし、音楽が下手なこともそうですね。

松岡 音程がはずれてしまうということですか?

鈴木 そう。小学校2、3年のとき、学芸会の練習で私が大きな声でうぐいすの歌を歌っていたら、先生が「あなたは歌わないで」といったんです。「みんなが歌い終えたら、『ホウホケキョ』といいなさい」と。

松岡 ええ!? それは傷つきます。

鈴木 ああ、自分は歌っちゃいけないんだとショックで、それ以来、一切歌わなくなったんです。教会でも、本を開いて歌っているふりをしていました。誰かに聞かれたら困ると思って。

松岡 大人になってからも、ずっと、歌わなかったのですね。

「自分をあるがまま受け入れることが大切なのですね」──松岡さん

鈴木 たいした悩みじゃないと思うかもしれませんが、私には大きなことだったんです。アメリカに住んでいたときは「英語が上達しないのは歌えないせいだ」と思ったり、自分が話すのを聞いて、みんなおかしいと思っているに違いないと卑下したり。些細に見える出来事が根深いコンプレックスを生んでしまっていたんです。

松岡 お辛かったですね。どうやって乗り越えられたんですか?

鈴木 50代の頃、健康な体づくりのためにと誘われて、オペラ歌手で音大の先生をしている友人のもとへ通うようになったんです。彼女は歌うための体づくりの指導をしていて、胸を開く体操をしたり、丹田に力を入れたりといったことを教わっていたのですが、ある日、「せっかく歌える体になったことだし、一緒に歌ってみない?」と提案されたんですね。もちろん、最初は、歌うなんて、とんでもない!と拒否しました。でも、彼女が「荒城の月」や「花」といった、小さい頃から慣れ親しんできた曲をピアノを弾きながら歌い始めたら、それがあまりに素敵な歌声だったので、思わず、私もつられて歌ってしまったんです。そうしたら、結構気持ちがよくて。

松岡 気持ちよかったですか!

鈴木 声を出すのは楽しいことなんだと思えたんです。そうしたら、何曲か歌ったあとで友人が、「とってもよく歌えましたね。あなた、音痴なんかじゃありませんよ」って。

松岡 おお!

鈴木 その言葉が自信になり、歌えるようになりました。ですから、実はもう歌は悩みの種ではないんです。

松岡 小学校の先生のひと言から生まれたコンプレックスが、ご友人のひと言で解消されたのですね。よかったと思うのと同時に、言葉の持つ影響力の大きさを嚙み締めています。

「どんな辛さや苦しみも永遠には続かない。いつか必ず解放されます」──鈴木先生

「妻の出産時、僕は病院の教会で子どもが無事に生まれるよう何度も祈ったんです。信心深くないのに虫がいいですよね」と松岡さんがいうと、「神様との絆を求めるのは人間の本性です」と先生。

完璧になろうと思わず、自分の弱点も受け入れる

松岡 先生の場合は、音痴だと思い込んでいたけれど実際には違って、コンプレックスにする必要もなかったということですよね? もし、実際に何かが下手だったり、苦手だったりして、努力しても克服できないような場合は、どうすればいいでしょうか。

鈴木 受け入れることですね。人は完璧になろうとすると自分を責め、それが辛くなると、今度は人を責めてしまう。でも、人間はもともと弱い存在で、弱点のない人間なんていません。そして、神様はそういう私たちを無条件で愛してくださっているのです。

松岡 完璧を目指すから、苦しくなるのですね。それにしても、今日は、いつも人々を導いてくださっている先生にも悩みがおありだったと知り、驚くとともに親近感が湧きました。

鈴木 いちばん辛かったのは、やはり、教会で歌っているふりをしていたときですね。歌うことは祈りを捧げることですから。でも、今はみんなと一緒に歌えるから幸せです。最後に一つお伝えしたいのは、どんな辛さや苦しみも永遠には続かないということ。いつか必ず解放されるときが訪れます。

松岡 その言葉は多くの人にとって救いになると思います。今日は心に染みるお話をありがとうございました。


修造の健康エール

鈴木先生は「『自分はダメ』といってはいけません」とおっしゃいます。神様は一人一人のありのままを喜び、愛してくださっている。それなのに自分はダメだというのは、神様より自分のほうがわかっているといっているのに等しく傲慢である、というのです。それを聞いて、僕は自分の傲慢さを反省するとともに、先生に「今の自分でいいんですよ。もっと自信を持ちなさい」と励ましていただいた気持ちになりました。

先生の愛情深いお話にふさわしく、筆文字には「愛」を入れようと考えたとき、「受」と「心」の2字を合わせると「愛」の字に限りなく近くなることに気づき、はっとしました。自分も他人もあるがまま受け入れる心こそ、愛なのですね。先生をお手本に、実践していきたいです。


松岡 修造(まつおか・しゅうぞう)
1967年東京都生まれ。1986年にプロテニス選手に。1995年のウィンブルドンでベスト8入りを果たすなど世界で活躍。現在は日本テニス協会理事兼強化本部副本部長としてジュニア選手の育成・強化とテニス界の発展に尽力する一方、テレビ朝日『報道ステーション』、フジテレビ『くいしん坊!万才』などに出演中。『修造日めくり』はシリーズ累計210万部を突破。近著に『教えて、修造先生! 心が軽くなる87のことば』。ライフワークは応援。公式インスタグラム/@shuzo_dekiru

この記事の掲載号

『家庭画報』2023年10月号

家庭画報 2023年10月号

撮影/猪俣晃一朗 スタイリング/中原正登〈FOURTEEN〉(松岡さん) ヘア&メイク/大和田一美〈APREA〉(松岡さん) 取材・文/清水千佳子

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