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8千万年前の大地に降り立つ。「天空の森」オーナーが構想する未知の旅とは

2023.10.02

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天空の森 ふるさとに築く「夢の王国」 ヘリコプターで旅をする醍醐味の一つは、飛行場のない小さな島にもひとっ飛びで行けること。「天空の森」オーナーの田島健夫さんが最初のデスティネーションに選んだのは、8千万年前の恐竜の化石が発掘されたことでも知られる鹿児島県薩摩川内(さつませんだい)市の甑島(こしきしま)です。太古の地球へのロマン溢れる地で、田島さんが構想中の未知の旅について伺いました。前回の記事はこちら>> 連載一覧はこちら>>

第11回 8千万年前の大地に降り立つ

空路でエメラルドの島、恐竜時代の世界にワープする
薩摩半島から西へ約30キロ、橋で結ばれた3島からなる甑島列島。九州本土との交通手段は通常は船のみ。多様な海岸景観などが評価され、2015年に国定公園に指定された。晴れた日にはエメラルドグリーンに輝く海を一望できる上甑島山上のヘリポートは、田島さんが新しい観光の拠点の一つに考えている場所。

「観光業とは、その土地にしかない自然と、暮らしの文化を継承すること」──田島健夫

僕が今力を入れている「3D観光」は、ハイグレードなヘリコプターを使った新しい観光です。でも、「観光業で地域を活性化する」という理念は昔から変わりません。ヘリコプターを使用する大きな利点は、交通手段が発達していない辺地や離島へ短時間で行けること。そうした場所には、手つかずの自然や伝統的な暮らしの文化が残っていて、非常に魅力的なんですね。だから、僕は3D観光でその価値を高め、地域の活性化につなげたいのです。

上甑島を代表する景勝地、長目の浜は長さ約4キロにも及ぶ砂州。東シナ海と3つの池(なまこ池、貝池、鍬崎=くわざき池)を隔てている。貝池は、20億~30億年前に出現し、世界でも数か所でしか発見されていないバクテリア、クロマチウムが生息している神秘の池。

僕が惚れ込んでいる甑島は、上甑島、中甑島、下甑島の3島を合わせた人口が約4千人で、日本の離島の大半と同じく、年々減少しています。九州本土と島を結ぶフェリーと高速船の定期便は、どちらも日に2往復のみ。観光地化が進んでいない分、まだあまり知られていない宝物が無数にあります。豊饒の海で獲れる特大のタカエビ、美しく香り高いカノコユリの群生地、東シナ海に沈む夕日……。

下甑島の長浜港で水揚げされたタカエビ。濃厚な甘みと流通量の少なさから「幻のアマエビ」とも呼ばれる名産品だ。

そして、最大の見どころが、8千万年前の地層から恐竜の化石がいくつも発掘されている断崖や巨岩、奇岩です。


巨岩や奇岩が連なる下甑島の鹿島断崖。約8千万年前、恐竜たちが跋扈(ばっこ)していた白亜紀から積み重なってきた地層は圧巻だ。奇岩の一つである鶴穴は、上部に木々が生え、お地蔵さんのような岩があるのもユニーク。

甑大明神橋から見た甑大明神のご神体である甑(せいろ)形の巨岩と鳥居。

「天空の森」から甑島までは車とフェリーを乗り継いで2時間半以上かかりますが、ヘリコプターならわずか30分。甑島で使用予定のヘリポートは見晴らしのいい山上にあり、特に夕焼けは最高です。島には絶景と呼べる観光名所がいくつもありますが、ここもその一つに入れたいほどです。

大宇宙(おおぞら)の無人島「天空の森」から東シナ海に浮かぶエメラルドの島、甑島へ飛び、チャーター船のクルージングで8千万年前の恐竜たちに思いを馳せる……ロマンがあるでしょう?

人間が誕生する遥か昔から積み重なってきた地層の一つ一つに何百年、何千年という歴史が詰まっていて、いずれ僕たちが生きているこの世界もその一部になる。そんなことを考えると胸がいっぱいになります。

甑島では2008年に恐竜の歯と肋骨が発見されて以来、下甑島の約8千万年前の地層と上甑島の約7千万年前の地層から数多くの恐竜化石が見つかっている。下甑島の「甑ミュージアム」は2025年のリニューアルオープンに向けて2023年9月から休館し、改修工事に入る。

下甑島で目にしたウニの化石。

クルージングに使うのは、地元の漁師さんが操縦する漁船です。小回りが利くので、断崖や奇岩を近くから眺められますし、途中で陸に上がって化石を探したり、釣りを楽しむこともできる。獲れたての魚を船長に捌いて刺身にしてもらって、船上で味わうのもおすすめです。鹿児島県産のオリーブオイルと甑島の塩でカルパッチョにしてもいいですね。

漁師の下野尚登さん(右)と田島さん。下野さんはタカエビの商品開発などで地域活性化に貢献している長浜漁業集落の代表。

甑島はウミネコ繁殖の南限の地としても知られ、11月~7月の飛来シーズンのクルージングでは、群れで飛ぶ姿を間近で見られる。

甑島を中心にしたこのプロジェクトは、初めてづくしで難しいことも多く、まだまだ発展途上。僕の頭のなかは、ああしたい、こうできたらというアイディアがひしめき合っています。幸い、漁業、観光業、恐竜化石関連事業のいずれにも、甑島の未来を真剣に考えて活動している人たちがいるので心強いです。

田島さんの秘書の久山いずみさん(左)は3D観光の開発になくてはならない存在。

僕は、観光業は“ストック産業”だと思っています。地層のように積み重ねていくのは、その土地の文化や知恵で、ダイヤモンドや純金より尊い。たくさんの人が長い時間をかけてつくり、育んできたもので、一度失われてしまったら、決して元通りにはなりません。僕ら観光に携わる人間は、土地の文化を伝えると同時に、守ることも使命なのです。

甑島でこの未知の旅を成功させられたら、日本中どこでも、観光業による地方創生が可能になるはずです。そうなったとき、やっと、日本は観光立国だと世界に胸を張れる気がしています。


「天空の森」オーナー
田島健夫(たじま・たてお)

1945年鹿児島県・妙見温泉の湯治旅館「田島本館」の次男として生まれる。東洋大学卒業後、銀行員を経て、1970年に茅葺きの温泉宿「忘れの里 雅叙苑」を、2004年に約60万平方メートルのリゾート「天空の森」を開業。類い稀なる発想力と行動力で日本の観光業界を牽引し、地方創生に尽力している。

この記事の掲載号

『家庭画報』2023年10月号

家庭画報 2023年10月号

撮影/小林廉宜 取材・文/清水千佳子

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