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10月の花 秋明菊「名残の季節」戸田博さん連載・季節の茶花

2023.09.15

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谷松屋戸田商店 季節の茶花 谷松屋十三代目当主の戸田 博さんが、茶席の花について語ります。10月の花は「秋明菊」です。前回記事を読む>> 連載一覧>>

10月 秋明菊
名残の季節

語り/戸田 博

秋晴れのさわやかな季節になってきました。お茶の世界では10月は風炉の最後の月、いわゆる「名残」の時季になります。

初夏から夏、夏から秋へと向かう間、風炉の茶を楽しんできた末に風炉の終わりを侘びた風情でもってよろこぶ。道具も何度も使っていて割れましたとか、欠けましたとか、使った結果このような姿になり果てました、というようなやつれた道具が出てくる。


そういうことまで楽しんでいくのは、お茶の世界の独特の考え方じゃないかと思うのです。表現としてメッセージ性を持たせやすいので、お茶をするほうとしては面白い季節ですね。

花も夏の盛りを過ぎて少し小ぶりになったものとか、葉っぱに枯葉が混じったものとか、「残花(ざんか)」といわれるものがよく使われます。そういう夏草の名残というか、秋草というか、この季節の草花には籠が合います。

茶席の花入として活躍する籠には、いろいろな種類があります。利休が見立てた桂籠のようなものもあれば、唐物の籠もある。

竹籠に籐の手がついた宗全籠は茶席で長らく好まれてきた定番の花入
秋明菊(しゅうめいぎく)
宗全籠花入
秋明菊はこの季節に茶花として好まれる花の一つ。白や薄紅の花を咲かせるが、ここでは葉の面白さを生かすために蕾を入れている。

この宗全籠(そうぜんかご)は、お茶の中で生まれてきた籠です。江戸初期の千家の茶人、久田宗全が好んだ、いわゆる千家のお茶で重宝される籠花入の代表格です。台形の安定した形の籠に手がついていて、花が入れやすい。サマになりやすいのでしょうね、茶会などでよく出合います。

複数の花を入れることが多いようですが、ここでは葉の縁が焼けた秋明菊(しゅうめいぎく)のみを入れています。花の移ろいも面白いけれど、このように葉っぱの表情の変化でも、時の流れが感じられるのです。

今月も琵琶湖畔に移築された古民家の茶室で撮影をしています。もともと滋賀県の北部地方に160年ほど前に建てられていたという民家で、雪の多い地方独特の傾斜した大屋根が特徴的です。

滋賀県北部の余呉(よご)地方の古民家。雨風を防ぐために覆いをかけた大屋根の内側は茅葺きになっている(次の写真)。

迫力ある天井の木組と楚々とした白い木槿のコントラスト
白一重木槿(しろひとえむくげ)
青銅釣瓶 インドネシア・ジャワ島
茅葺きを支える木組が巡らされた古民家特有の屋根裏。自然の素材だけで組まれた日本古来の建築美と、インドネシアの生活道具だった青銅釣瓶の組み合わせ。広がりのある空間の中で木槿の白が際立つ。

茅葺き屋根の民家の質素な茶室空間には、さっぱりと残花1種というのがふさわしいように思います。名残の季節の侘び茶には、あまり華美な空間は似合わないでしょう。

暑かった夏の終わり、風炉の最後を惜しみ、また新たな季節へと向かう。過ぎし時を振り返り、来たる時へと思いを馳せる、なんとも味わい深いひとときなのです。


花留めのバリエーション細い木の幹と、幹についたしなやかな小枝を巧みに曲げて利用する
籠の中にある落としなどの内側に、2本の木の枝をクロスさせて花留めにすることは多いが、この場合は1本の枝を横に渡しながら、枝から出ているしなりのある小枝をそのまま丸めて縦向きに入れている。クロスした枝の花留めは、枝が落としの内側のサイズと合うように調整が必要だが、このように丸めたままの小枝を用いるとサイズを調整しやすく安定した花留めになる。花留めは見えても見えなくても、できるだけ自然であることが望ましく、使用する花材や手もとにあるほかの草木でどのような花留めが作れるか、常に考えていくことが大切。

撮影/本誌・坂本正行 取材・文/福井洋子

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