• TOP
  • 国内
  • 池坊専宗さんと観る、己と向き合う「禅の庭」。京都・西芳寺にて

国内

池坊専宗さんと観る、己と向き合う「禅の庭」。京都・西芳寺にて

2023.09.20

  • facebook
  • line
  • twitter

【本堂で写経を終えてから心静かに庭を巡る】写経を終え、下段の庭を歩く池坊さん(左)と藤田さん。「禅では庭を歩くことも修行とされ、今も随所に坐禅石があります」( 藤田さん)。庭内には千 利休の次男、千 少庵が建てた茶室「湘南亭」(重要文化財)がある。

〔特集〕今秋、感動の体験旅へ 京都・奈良 日本が世界に誇る2大古都、京都と奈良。世界文化遺産にも登録されている、この2つの都市の文化的価値と魅力を、料亭、庭園、建築などに焦点を当てて紐解いていきます。さらに美味処、話題のスポットの情報もお届けします。前回の記事はこちら>>


西芳寺(西山)

【夢窓国師が造った修行の場としての庭】1339年、夢窓国師は西芳寺を中興開山し、この庭の原形を造り、禅の修行の場とした。庭は上段、下段に分かれ、上段(非公開)は世界最古ともされる枯山水の石組、下段は黄金池(おうごんち)を中心にした池泉回遊式で、秋には紅葉がことのほか美しい。撮影/中田 昭

荒廃の歴史から生まれた奇跡の“苔の庭”

かつて聖徳太子の別荘があったとされるこの土地に、聖武天皇の詔を受け、行基菩薩が法相(ほっそう)宗の寺として西芳寺(当時は西方寺)を開山したのは731年のこと。鎌倉時代初期には法然上人により浄土宗に改宗、その後兵乱により荒廃した寺に招かれ、臨済宗の禅寺として再興したのが、高僧であり、作庭の名手でもあった夢窓国師(むそうこくし)でした。

当初は現在の姿とは異なる白砂青松の庭で、後に金閣を造営する室町三代将軍足利義満、銀閣を造営する八代将軍義政も、この庭を手本にするべく参禅したと伝えられています。

その後、応仁の乱や、度重なる河川の氾濫による土砂の流入で、寺は荒廃。谷の湧水と適度な湿度が生育に適していたためか、土砂の上に苔が長い年月をかけて繁茂しました。歴代の住持によるたゆまぬ手入れによってその苔は大切に守られ、やがて「苔寺」と呼ばれて多くの参拝者を集めるようになります。1994年にはユネスコの世界文化遺産「古都京都の文化財」に登録されました。

訪ねるたびに変化する苔の表情を見る

かつて1日1万人を超える観光客が訪れていたという西芳寺では、車の排気ガスや騒音、交通渋滞などの“観光公害”が発生。そのため1977年に往復ハガキによる事前申し込みが必要な少人数参拝制としました。当時としては先駆的な取り組みで、そのおかげで今も寺院本来の静かな雰囲気が守られています。


初秋の一日、この庭を訪れたのは、華道の家に生まれ育った池坊専宗さん。この日、まず本堂で参拝後、「延命十句観音経」を写経しました。「仏さまの言葉を筆で一文字一文字、丁寧に意味を汲み取りながら書くことで、心が静かになり、無心の状態になった気がします」と池坊さん。

「文字を書き進めるうちに、心が落ち着いてきた、あるいは集中が途切れてきたなど、自身の心の波を繊細に感じ取ることができます」と西芳寺執事長の藤田隆浩さん。

その後、藤田さんの案内で苔の庭を巡ります。「前回来たときよりも苔の表情がよく見えるように感じます。仏教と結びつきのある池坊の花は、緑をとても大切にしていて、光の差し込み方や風の通り道を考えて花を生けます。この庭にはさまざまな緑があって、その表情に生命を感じます」との池坊さんの言葉に、「庭の表情は訪れるたびに変わります。ぜひとも“行きつけのお寺”として繰り返しお参りください」と答える藤田さん。

西芳寺は、今秋から会員組織「Saihokai」を発足させ、この庭を後世に受け継ぐために、人とお寺の新たな関係作りを始めます。

池坊専宗さん(左)(いけのぼう・せんしゅう)

華道家、写真家。1992年京都市生まれ。祖父は華道家元四十五世家元池坊専永、母は次期家元池坊専好。講座やインスタレーション、文筆などの形でいけばなの心と技を伝え、展覧会に自身の花を出瓶。

藤田隆浩さん(右)(ふじた・りゅうこう)

僧侶、西芳寺執事長。1990年京都市生まれ。大学卒業後、商社に勤めるも、自身に与えられた使命に悩み、退職。世界を一周して見聞を広めた後、仏道に入る。人とお寺との新しい関係を日々模索している。

【苔の緑の表情を見て自分と向き合い、心を調える】庭を巡る合間に苔を見る池坊さん。「浅い緑、深い緑など、苔の緑を見ながら自分の心と向き合っているうちに、次第に心が平穏になり、調っていくのを感じます」。西芳寺には120種余りの苔が育っているという。

延命十句観音経の写経をする池坊さん。薄く印字された文字をなぞるスタイルなので安心。椅子席も用意されている。

池の畔に生えているホソバオキナゴケの群落。ここまで大きいものは他では見られないという。

中門から中参道へ至る道は、かつて多くの拝観者で賑わっていたが、現在は庭師が入るのみとなった。50年余り経って苔に覆われるようになった。

西芳寺(さいほうじ)
京都市西京区松尾神ケ谷町56
TEL:075(391)3631
参拝は事前申し込み制
往復ハガキの場合は参拝冥加料1名3000円以上、公式HPからの場合は1名4000円日時や申し込み方法など詳細はhttps://saihoji-kokedera.com
2023年11月1日参拝分より一部改定あり

※次回に続く

特集「今秋、感動の体験旅へ 京都・奈良」の記事一覧はこちら>>>

この記事の掲載号

『家庭画報』2023年10月号

家庭画報 2023年10月号

※施設・店舗は臨時休業の場合があります。事前にご確認のうえお出かけください。撮影/本誌・坂本正行 『家庭画報』2023年10月号掲載。この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。

  • facebook
  • line
  • twitter

12星座占い今日のわたし

全体ランキング&仕事、お金、愛情…
今日のあなたの運勢は?

2024 / 05 / 16

他の星座を見る

12星座占い今日のわたし

全体ランキング&仕事、お金、愛情…
今日のあなたの運勢は?

2024 / 05 / 16

他の星座を見る

Keyword

注目キーワード

Pick up

注目記事