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【松岡修造の健康画報】武術研究者・甲野善紀先生に聞く、自由に生きることの大切さ

2023.09.11

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松岡修造の人生百年時代の“健やかに生きる”を応援する「健康画報」

古武術の達人、甲野善紀先生と松岡さんは、今回が約16年ぶり2度目のご対面。先生が柔和な笑みを浮かべながら技を繰り出すたび、取材現場は松岡さんの驚嘆の叫びと周囲の大歓声に包まれました。

古希を過ぎた今、「前と同じ方法でできなければ、違う方法を考えればいい」とこともなげに話す先生の笑顔は、常識にとらわれず、自由に生きることの大切さを教えてくれます。

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上背のある松岡さん相手に「斬込入身(きりこみいりみ)」の技を決める甲野善紀先生。顔の前で互いの手を交差させると、松岡さんはその体勢を崩さぬよう頑張りますが、一瞬でこの状態に。原理は「斬りの体捌き」。(松岡さん)シャツ、パンツ、スニーカー/ミズノ

武術研究者 甲野善紀先生

松岡さんが「日本のスポーツ界を変えられるかた。現役時代にお会いしたかった」と話す甲野先生。竹刀や丸紐を使って、取材スタッフにも貴重な体験をさせてくださいました。

甲野善紀先生(こうの・よしのり)
1949年東京都生まれ。20代の初めに「人間にとっての自然とは何か」を探求するため武の道に入り、1978年に松聲館道場を設立。以来、剣術、抜刀術、杖術、槍術、薙刀術、体術などを独自に研究している。その技と術理はスポーツや介護などの分野でも成果を上げている。海外で講習を行うことも。2007年から3年間は神戸女学院大学の客員教授を務めた。『古の武術から学ぶ 老境との向き合い方』など著書多数。月1回メールマガジンを配信中。http://yakan-hiko.com/kono.html

コロナ禍で見聞きした「醜い老人」に物申す

松岡 先生、ごぶさたしております。最近のご著書で、高齢者に対してかなり厳しいことを書かれていましたね。

甲野 コロナ禍で「醜い老人」の言動を見聞きして、情けなくなったんです。この感染症は高齢者は重症化しやすいが、若い人は重症化しにくいという話が出たとき、私が子どもの頃だったら、「よかった。我々はもう十分生きたから」といえる高齢者がたくさんいたと思うんです。ところが今は、「若い連中が出歩くせいで感染が拡大する。私たちを殺す気か!」となじる。

松岡 先生からすると、それは残念な話なのですね。

甲野 そうです。生物というのは老いた者から消えていくのが大原則。社会が続いていくためには、若い世代を大事にしなければいけません。本当は高齢者のほうから「我々に気遣いは無用だから」というべきなんですよ。そういうことをいえないさもしい老人が多すぎます。一つよかったのは、自分が70歳を過ぎていること。自分も立派な高齢者ですから、同世代に対して遠慮なく、醜いとか、さもしいとかいえます。松岡さんはいえないでしょう?

松岡 いえません(笑)。そういうふうになってしまった最大の要因は何だと思われますか?

甲野 我々団塊の世代の責任です。

松岡 団塊の世代のみなさんは、日本のために頑張ってくださったじゃないですか。

甲野 経済的には確かに頑張りました。でも、「人間はいかに生きるべきか」という、いちばん大切なことは、すっ飛ばしちゃった。

同世代の人たちに伝えたいこととは?──松岡さん

「醜い老人にならず、若い世代のため、覚悟を持って生きてほしい」──甲野先生

松岡 いかに生きるべきか。

甲野 私は武術の研究を始めて45年になりますが、それよりも年季が入っているのが、「いかに生きるべきか」を考えることなんです。コロナ禍になり、ツイッターに「こういうときこそ、人はいかに生きるべきか考えるべきでしょう」と書いたら、「そういうことはコロナ騒動が終わってから考えればいい」というコメントが寄せられて、愕然としました。現代では多くの人が、人生において最も大事なことを、ただの趣味みたいに思っている。これはゆゆしき問題ですが、学校でもどこでも、そういったことを学ぶ機会がまったくないからなんですね。

松岡 先生ご自身は、この大事な問いについて何十年も考えられてきて、何か答えは出たのでしょうか。

甲野 私は21歳の3月8日に「人間の運命は完璧に決まっていて、同時に完璧に自由である」ということを、どうしようもなく確信したんですね。以来、自分は一生、この気づきを体感していこうと思いながら生きてきました。それが一つの答えですね。

松岡 完璧に決まっていて自由とは、矛盾していませんか?

甲野 矛盾はしていますが、「完璧に決まっている」と「完璧に自由」は、一枚の紙の裏表のような関係なんですね。「自分の人生のシナリオはすでに書かれているので心配はいらない」という安心感と、「どうにでも自由に書いていける」という解放感が一つなのだということです。

松岡 なるほど。そう伺うと、とても前向きな気持ちになれますね。

「火焔(かえん)」と名づけた手の形をつくり、軽快に階段を上っていく。「この手をすると、体幹の一部が脚部を助け、階段の上り下りが楽になります」。

74歳、体は衰えても技の進歩は止まることなし

甲野 私は年々、若い頃にはできなかったことができるようになっています。50代の頃、プロボクサーに「この突きを払えますか」と挑んだら、全部払われてしまったでしょう。でも、今は1発も払われない自信がありますし、実際、払われません。

松岡 実に嬉しそうにおっしゃいますね! なぜ、70歳を過ぎても進歩し続けられるんですか。

甲野 文房具だって家電だって、歳月とともにどんどん進歩しているじゃないですか? 人間も同じです。

「体は衰えても、技は別。45年間、進歩し続けています」──甲野先生

松岡 道具の進歩はわかります。でも、体は衰えるじゃないですか?

甲野 もちろん、私も体の衰えは実感していますよ。特にもともと2.0あった視力については顕著です。でも、技に関しては違います。

松岡 先生は長年の経験や知識をもとに体の使い方を向上させ、技を進歩させていらっしゃる。それが、年齢による衰えを上回っているという捉え方でいいのでしょうか?

甲野 そうですね。40代の頃の私が現在の私に会ったら、感激して一晩中寝られないくらい興奮したと思います。

松岡 うわ、すごい人がいる!と。

甲野 なんでこんなことができるんだ⁉という感じですね。

潜在能力を引き出す「ヒモトレ」。4メートル程の丸紐を右肩から「四方ダスキ」の形に緩く巻きます。

先生を引き起こす松岡さん。紐なしでは無理だったのが、紐ありだと驚くほど楽々。「2000人程試して、全員効果がありました」と先生。

松岡 いいですね。でも、ほとんどの人は、年を重ねる中で、できていたことができなくなって、「昔はできたのに」と嘆くものです。逆をいっている先生は特別です。

甲野 私にもありますよ、昔できて、現在はできないこと。私は以前、垂直跳びで、バスケットボールのリングを叩けたんです。リングの高さは約3メートルですから、私の身長だと、90センチは跳べないと叩けません。助走なしで、乗用車の屋根に飛び乗れるくらい跳べていたわけです。

松岡 すごい身体能力ですね。

甲野 でも、もうできません。

松岡 できないとわかったときは、どんな気持ちになりました?

甲野 こんなにできないものかと、ちょっとショックでしたね。

松岡 それが一般的な高齢者がしばしば味わう気持ちです。

甲野 なるほど。でも、私は違う方法でできないかと考えているところで、諦めたわけではないんです。まだ希望は失っていませんよ。

松岡 さすがです。常識にとらわれず、何事も自由に考えられる先生だからこそいえるお言葉ですね。

「人間には本来、とてつもない能力が備わっているのですね」──松岡さん

発見が尽きない人間の心身は不思議

甲野 最近の発見は刀の使い方です。刀は両手で持ちますが、使うときは片方の手の存在を消す。左手が右手を手伝わないほうがうまくいくのです。

松岡 実際に体験して驚きました。どのようにして発見されたのですか。

甲野 長年親しくしている身体教育研究所所長の野口裕之先生から「刀を使うときは両手より、片手のほうがいいんじゃないですか」とアドバイスをいただいたのがきっかけです。忘れもしない、去年の11月6日のことでした。

松岡 僕の誕生日です! 本当に最近のことなのですね。

最近編み出した「右手主体で左手は添えるだけ」という刀法で松岡さんを翻弄。

甲野 ええ。ただ、常識的に考えると、両手のほうが楽ですから、なぜ片手がいいのか伺ったところ、先生は「父のある特殊な体の調整法は、両手を体に当てながら、実際には片方の手だけで行っていたからです」と教えてくださいました。先生のお父上は野口整体の創始者で、数々の伝説を残された野口晴哉(はるちか)先生です。このヒントがなかったら、私は一生気づけなかったでしょう。

松岡 先生のように武術や人間の体の動きに精通したかたでも、まだ新しい発見があるのですね。

甲野 人間というのは実に不思議で奥が深いです。私など素晴らしい先人たちには遠く及びませんが、何事も今あるものは「仮」と考え、自分が心から納得できるものを探しています。

松岡 今日はさまざまな体験をさせていただき、人間には本来とてつもない能力が備わっていることを実感できました。驚きとわくわくの時間をありがとうございました!
 

修造の健康エール

甲野先生は、世の中で当たり前とされていることに対して、常に疑いの目を持っていらっしゃる。だから、目の前のものを「仮」とし、常識にとらわれない自由な発想で自由に体を動かし、過去の自分を繰り返し超えながら、ここまで到達されたのだと思います。僕も年齢や何かを言い訳にしないで、自分らしく自由に考え、行動していきたいです。

先生の技は残念ながら、科学的に証明するのが困難なものばかり。科学的エビデンスが求められる時代にあって、歯がゆい思いもたくさんされていると思います。科学的に証明しきれないのが人間なのかもしれませんが、体験さえすれば、誰でもそのすごさがわかる。これからもっと、スポーツをはじめ、いろいろなジャンルで生かされることを願っています。


松岡 修造(まつおか・しゅうぞう)
1967年東京都生まれ。1986年にプロテニス選手に。1995年のウィンブルドンでベスト8入りを果たすなど世界で活躍。現在は日本テニス協会理事兼強化本部副本部長としてジュニア選手の育成・強化とテニス界の発展に尽力する一方、テレビ朝日『報道ステーション』、フジテレビ『くいしん坊!万才』などに出演中。『修造日めくり』はシリーズ累計210万部を突破。近著に『教えて、修造先生! 心が軽くなる87のことば』。ライフワークは応援。公式インスタグラム/@shuzo_dekiru

この記事の掲載号

『家庭画報』2023年09月号

家庭画報 2023年09月号

撮影/鍋島徳恭 スタイリング/中原正登〈FOURTEEN〉(松岡さん) ヘア&メイク/大和田一美〈APREA〉(松岡さん) 取材・文/清水千佳子

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