モダン肥前磁器のあるテーブル 第1回（全4回） 肥前磁器とは、江戸時代に肥前国だった地で作られる器のことで、そのエリアは現在の佐賀県、長崎県にまたがっています。空間コーディネーターの佐藤由美子さんと、手持ちの器と組み合わせて使える器を制作。伝統の陶技に、新しい時代の感性を取り入れた器を、特別に誌上販売します。
★のついている器は誌上販売対象商品です。価格には送料が含まれています。手作りの品のため、サイズや色、形、仕上がりなどが写真や説明と異なる場合があります。取り扱い商品一覧はこちら＞＞ 
緑に囲まれたテラスで、肥前磁器をメインにコーディネートした夏のテーブル。ガラスのアンダープレートの上には染付の色が涼やかな平戸松山窯のプラチナ彩瓔よう珞らく文様プレートと、皮革のような質感が特徴の、畑萬陶苑のキュイール 銀彩 リム付きプレートを互い違いにのせて。中央の平戸松山窯の白磁大鉢にはカエルが2匹。サーモンの前菜から夏のおもてなしが始まる。肥前磁器とは──その歴史を辿り、新たな魅力を探る
14代今泉今右衛門
かつて肥前国だった地で磁器を作っていたのは、有田や伊万里がある鍋島藩、波佐見のある大村藩、三川内がある平戸藩。その3つの藩の境界には「三領石」という三角柱の石が18世紀中頃に立てられ、それは今でも残っているのですが、そこを越えて薪をとってはならないとされていたようです。藩境を越えての人の出入りはあったはずで、その中で多様な焼物が作られ、現在まで続いています。
この地の焼物の特徴は、100の窯元があると100通りの違うものが作られていること、また時代の要請に応じて作るものを自在に変えてきたことです。後世に何かを残そうという意識ではなく、時代が求めるものを作るという考え方です。
手前から、色絵吹墨墨はじき雪文額皿、色絵薄墨墨はじき雪文額皿。墨はじきとは、白抜きする箇所を墨で描いた後、絵の具を吹き付けて素焼きすると、墨が焼き飛び、白抜きの文様が現れる技法。コロナ禍により家で過ごす時間が長くなり、日々の暮らしを見つめ直す人が増えたのを実感しています。もともと日本人は暮らしの中で美的なものを愛でながら使うという感性があると思っています。西洋で絵画や彫刻を室内に飾って鑑賞するというのとは違う感覚です。
例えば屛風や襖は間仕切りになる実用品であり、美術品でもあります。そうした日本人本来の気質が呼び戻されたのではないでしょうか。
私自身も暮らしの中でいろいろな作家の器を使いますが、作り手が真剣に作ったものを使うときには、使い手にも覚悟が必要になると感じています。同時に、器は使うと割れる可能性があるもので、緊張感を伴います。器を使うとき、そうした覚悟や緊張感が、暮らしの質を上げてくれるのだと思います。
作家はいい器を作ることが目的ではなくて、その器が人々の暮らしの中に入って、その暮らしが少しでもよくなってくれるのが目的であると、私は常々考えています。
14代今右衛門 作の日常使いの器で、一献を楽しむ。白木の膳に色絵薄墨墨はじき四季花文皿を取り合わせて酒肴を盛り、石盃を通い盆にのせて好みのものを選ぶ趣向も楽しい。愛らしい椿文の香炉には小さな花を入れて。膳の右上の杯は「クリスタルを通して見える色絵磁器の美」をテーマに、フランス「バカラ」と共同制作した「Baccarat meetsIMAEMON」コレクションより、雪文グラス&色絵墨色墨はじき四季花文皿。16万5000円／バカラショップ 丸の内ここのところ、有田の実家に戻ってきたり、新たに入ってきたりする30代の人たちが増えていて、皆さんとても優秀です。時代に向き合い、それぞれのテーマで器作りに取り組んでいるのを見ていると、彼らによって肥前磁器はこれから変わっていくのかな、と感じています。（談）
14代今泉今右衛門（いまいずみ・いまえもん）さん
1962年、かつて鍋島藩の御用赤絵師を務めていた今泉家に生まれる。90年に今右衛門窯に入り、父である13代今右衛門に師事。2002年に14代今泉今右衛門を襲名、14年に重要無形文化財「色絵磁器」保持者（人間国宝）に認定される。日本陶芸美術協会会長、日本工芸会副理事長など要職を務める。撮影／石井宏明表示価格はすべて税込みです。 撮影／久間昌史 コーディネート・料理／佐藤由美子
『家庭画報』2023年8月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。
