エンターテインメント

阿部寛さん「難しい役柄を与えられてこそ刺激的で、燃えるんです」

2018.03.27

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挑戦しがいのある作品を


阿部寛

阿部さんがそう語るのには、若い頃の演技に対しての逡巡がある。常に挑戦できる、難しい現場ばかりをあえて選んできたという。

「自分が面白いと思える、これをやったら面白いんじゃないかっていう、挑戦しがいのある作品を求めてきました。『テルマエ・ロマエ』の話が来たときは、は? これが来るかって(笑)、青い目にしなくちゃいけないかなとか、ワクワクしました。


同じような役が続いてしまうと、役者としても、自分自身に対しても飽きるし、限界を感じてしまうといいますか。今回の仲麻呂も難しかったですが、難しければ難しいほど刺激されて面白い。僕はまだ犯罪者の役とかはあまりやっていないんですけど、ぜひやってみたいですね。

『加賀恭一郎シリーズ』では、刑事役に8年取り組んで、ついこの間の映画で完結しましたけど、そういう振り幅が楽しいんです。自分の中で想像力を搔き立てながら、役を埋めていく作業が好きですし、表現できたときはすごくうれしい」

モデル出身の阿部さんは、俳優の仕事を始めた当時、注目されたものの、「モデルのイメージのようなカッコいい好青年の役ばかりがきて」身動きがとれなくなり苦しんだという。「どうすりゃいいんだと、すごく悔しかったですね」。

そんなとき、つかこうへいさんから舞台『熱海殺人事件 モンテカルロ・イリュージョン』(93年)のオファーがあった。「それまでの僕にとっては、突拍子もない役でしたけど、このチャンスは絶対に成立させなければならないぞと、覚悟しました」

バイセクシャルの刑事部長役。稽古場で連日、つかさんから厳しい檄が飛んだ。そして舞台は高評価を受けた。

「初めて役者として評価されて、本当にうれしかったです。それからは映像でも舞台でも、トンだ役、変わった役、難しい役を、喜んで受けてきました。特に舞台は“自分いじめ”の場所だと、僕は思っているんです。

さっき蜷川さんのことをいいましたけど、シェイクスピアなどは相当な課題で、舞台の真ん中にさらされるのは、もう恐怖でした。だけどそこでやらなかったら前に進まない。難しければ難しいほど、一生懸命になるしかなくて。きっと……僕は、無器用なんでしょうね。

映画も同じです。監督の狙いと自分の演技がどこで合致するか。本当に合致する状態が100だとしたら、合わさるのは1か2です。その差をどうやって拾っていって、合わせて完成させていくかを夢中でやります」

熱く語る口調に、役者の道をひたむきに歩んできた人の真っすぐさが感じられる。

「だから『素のままの阿部さんでいってください』とかいわれたりすると、どうやっていいのかわからないし、途端につまらなくなって、あるときは、もう稽古場に行きたくないなと思ったこともあるんですよ。やっぱり演出家からは難題を与えてもらいたい、てんやわんやしたいんですよ」

いまや日本映画界を牽引する俳優の1人。そういうと、「いや、まったく違いますよ」と首を振る。

「連ドラはたくさんの本数をやってきましたけど、いろいろ映画をやれるようになったのは45歳すぎてからですから。成功した? いや、そんな感覚は僕自身、まったくないです。やりたいことはたくさんあるんですが、そうこうしているうちに、だんだん役柄が絞られるというか、狭まってくる年齢になってきましたしね」

とはいえ「53歳でチェン・カイコーの作品に出られる。こんなことが起こるとは思わなかった」と笑う。

「世界上映される作品ですから、これが何かチャンスにつながればいいななんていうことは、ちょっとだけ思いますね(笑)。インドの映画会社さんからお話が来ないかなとか。インド映画って祭りみたいで、かなり面白いでしょう? どんな撮影なのかすごく知りたい。現場でとんでもない目に遭いそうじゃないですか(笑)」

男優として、いよいよ脂がのっていく時期である。

「いや、それはどうだろう。でも、まだまだ挑戦し続けていきたい、そう思いますね」

まなざしに強い闘志が宿った。

阿部 寛/Hiroshi Abe

阿部 寛/Hiroshi Abe

1964年、神奈川県出身。87年、俳優デビュー。
代表的ドラマに『TRICK』 シリーズ、『下町ロケット』。映画に『海よりもまだ深く』ほか。
『テルマエ・ロマエ』で第36回日本アカデミー賞最優秀主演男優賞を受賞。主演男優賞を受賞。映画『のみとり侍』の公開を控える。
空海-KU-KAI-美しき王妃の謎

©2017New Classics Media,Kadokawa Corporation,Emperor Motion Pictures,Shengkai Film

『空海-KU-KAI-美しき王妃の謎』
原作:夢枕 獏『沙門空海唐の国にて鬼と宴す』(角川文庫/徳間文庫)

監督/チェン・カイコー
出演/染谷将太 ホアン・シュアン、チャン・ロンロン、火野正平、松坂慶子、キティ・チャン、チン・ハオ、リウ・ハオラン、チャン・ルーイー、阿部 寛 ほか
声の出演:高橋一生、吉田 羊、東出昌大、イッセー尾形
※全国東宝系にて公開中
撮影/平岩 享/取材・文/水田静子 ヘア&メイク/丸山 良/ スタイリング/土屋詩童

「家庭画報」2018年4月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。
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