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7月の花 白蓮「伊豆の山居にて」戸田博さん連載・季節の茶花

2023.06.19

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緑深き伊豆の山居での暮らし
自然との対話を欠かさない稲葉 京さんの日課は花を入れること


語り/小林 厚


蓮は、入れるのが結構難しい花です。まっすぐに伸びた花だけでは工夫のしようもなく、葉をどのように添えて使うかが一つのポイント。新芽や開いた葉などで変化をつけたり、その高低差でどのようにその空間を生かすかなどを考えます。

小さな白蓮を入れた2例


花器とバランスをとりながら小さな白蓮を入れた2例。右・背の高い白磁瓶(黒田泰蔵作)に、短く整えた花と葉を入れ、古木を添える。左・インドネシアの古い青銅製ブレスレットを花器に見立て、葉の曲線を生かしつつ、花の蕾に高さを持たせている。

花器との相性は意外に幅広く、中国の陶磁器、常滑など平安時代からの六古窯の壺、または現代物の白磁など、いずれにも合います。

白蓮

時を経て枯れ始めた白蓮 生命のうつろいを映す花の容(すがた)
白蓮
青銅器 インドネシア
前ページで入れた蓮の花の2日後の姿。白い花弁が徐々に変色してゆく様をも味わう。敢えて葉も何も添えずに青銅の瓶にひと花を入れ、背後に置いた白磁壺とのコントラストで、さらに花を際立たせる。


今回、白蓮をいくつか入れましたが、なかでも面白かったのは、蓮池から採ったひと花を2日後に花器を替えてふたたび入れたもの。茶席の花のいのちは短時間ですが、今回日常の空間で入れたこともあり、もう少し長い時のうつろいを味わえました。咲いてゆくときの美しさと、枯れてゆくときの美しさ、どちらも本当に魅力的です。

庭の小花

テーブルの上にもさりげなく庭の小花が入る。稲葉 京さんの日課は何か花を入れること。コップに小さな草花や葉を入れるだけでよい、常に花と会話をすることが大事だという。

空間をお借りした稲葉 京さんは、伊豆の玉峰館という旅館のオーナーだった人。私は戸田商店に入る前のまだ20代の頃に住み込みで、毎日館内の花を入れる稲葉さんから、花とのつきあい方を教わりました。

稲葉さん(左)と小林さん

庭では水を張った石臼の前で、稲葉さん(左)と小林さんが花談議を繰り広げていた。

のちに茶花を入れるようになっても、そのときに学んだことが、自身の花を支える思想になっています。

たとえば花と器が内包する時間のバランス。切ったばかりの花の存在は「今」ですが、「古い」器を用いることで、両者に時間の隔たりが生じる。その振り幅が大きいほど味わいが深くなる。

一方、現代作家の器を用いる場合に時間の隔たりはないから魅力がないかといえば、そう単純なことでもない。たとえば黒田泰蔵さんの白磁には現代の造形美がある。しかし、そこに古木など年数のたった花材を合わせると、また時間の隔たりが生まれてくる。

茶花にしても、日常の花にしても、入れる行為を通して、実は時間を表現していると知ったのです。そういう意味では茶花も日常の花も同一線上に存在しているのです。
撮影/本誌・坂本正行 取材・文/福井洋子

『家庭画報』2023年7月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。
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