カルチャー&ホビー

工藤美代子さん綴る【快楽(けらく)】第13回 不倫の恋は死語ですか?(後編)

2023.05.15

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多くの娘たちは達成したい人生の目的があって、ある時期にパパ活に励み、やがて卒業していく。このへんの曖昧さが私にはよくわからないのだが、パパ活が自分たちの生涯の汚点になるのではと、心配などはしていないそうだ。

それに比べると、熟年世代の不倫はどうも恨みがましい匂いがする。セックスはセックスと割り切ってのカラリとした付き合いはあまり聞かない。

以前、ミエさんの話を書いたことがある。80歳を過ぎてから恋をした。彼にご馳走するために、どんどん生活費を使ってしまっている女性だ。実は相手の木村氏に妻がいることを知って、彼女は大荒れに荒れた。


もちろん、独身だと噓をついた木村氏が悪いのだが、確か彼はミエさんと同じ83歳くらいだった。もうその年齢になっていたら、妻がいてもいなくても、どっちでもいいじゃないか。まして、木村氏の場合は、奥さんは身体が不自由で、車椅子の生活なので老人ホームに入居している。

一人暮らしの木村氏は独身みたいなものだ。今さら、籍を入れて結婚する気もないのなら、ショックを受ける方がおかしいと私は思った。ところが、共通の友人である久枝さんが語ったところでは、彼に妻がいると知った時のミエさんの行状は凄まじいものだった。

いつもミエさんの家に来て食事をする時に使っている木村氏のご飯茶碗から湯飲み、マグカップまで、床に叩きつけた上に金槌で叩いて粉みじんにした。それも彼の面前でやった。つまりはヒステリーである。それでも怒りは収まらず、木村氏がジャケットのポケットにさしていたお洒落な絹のハンカチーフをむしり取って、ハサミでじゃきじゃきに切り裂いたという。

この話を私が久枝さんから聞いたのは、つい最近のことである。初めは思わず笑ってしまった。恋人に騙されていたと怒る気持ちもわかるけれど、私だったら、泣き叫ぶエネルギーもないだろう。たとえば夫に秘密の愛人がいたとしても、怒りよりは心配の方が先にたつ。

相手がお小遣い目当てだったら、残念ながら夫は自分の自由になるお金なんて、ほとんどない。それではパパ活女子から断られるだろう。いずれにせよ、愛人となると費用が発生する。年金暮らしでは無理に決まっている。すべてあきらめて暮らすのが高齢者の生きる知恵だ。
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