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建築史家・建築家 藤森照信先生と訪ねる、受け継がれたチューダー様式の洋館

2023.05.11

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建築史家・建築家 藤森照信先生と訪ねる── 受け継がれたチューダー様式の洋館【旧渡辺甚吉邸】(前編) 昭和9年、東京都港区白金台の閑静な住宅街に建てられた一軒の洋館住宅。取り壊しの危機に直面したこの歴史的建造物が、多くの人々の熱意と、前田建設工業の賛同により、ほぼ完全な形で2022年、移築復原工事が完了し、登録有形文化財に今年、登録されることになった。歴史的建造物の保存への意識が高まる中、民間企業による活用保存の貴重な成功実例を、家庭画報本誌でおなじみの建築史家、藤森照信先生と訪ねた。
旧渡辺甚吉邸旧渡辺甚吉邸は、「我が国のチューダー様式住宅の傑作」として2023年2月27日、正式に国の登録有形文化財に登録された。アーツ・アンド・クラフツ流のチャペル風の応接室。手の込んだ室内制作は三越家具部による。今 和次郎(こん・わじろう)デザインによる照明など、細部装飾は圧巻。戦後、旧ラオス大使公邸や旧スリランカ大使公邸などとして利用されていたが、築90年近い旧渡辺甚吉邸の保存状態が極めてよいのは、建物の価値を知る渡辺家がワンオーナーとして愛着を持って管理していたことが大きい。椅子は、渡辺家親族から寄贈されたもの。

私が発見した芸術性高き洋館住宅
── 藤森照信(建築史家・建築家)


藤森照信旧渡辺甚吉邸の第一発見者は藤森先生。1970年代半ば頃、建築探偵団の活動の一環として、「港区の南をつぶす」過程で当時スリランカ大使公邸だったこの洋館に出会った。

藤森照信(ふじもり・てるのぶ)

建築史家・建築家。1946年長野県生まれ。東京大学名誉教授。東京都江戸東京博物館館長。旧渡辺甚吉邸名誉館長。家庭画報本誌連載をまとめた『日本の木造遺産』(世界文化社刊)など著書多数。

耳慣れない言葉かもしれないが、今回取り上げる洋館の形式のことを、“チューダー様式”と建築史学では呼ぶ。

ヨーロッパ中世のキリスト教大聖堂を晴れ舞台に花開いたゴシック様式の、そのイギリス住宅版とでもいうべき性格を持ち、中世が終わると作られなくなったが、19世紀になってふたたびイギリスで復活した。

日本が明治になってヨーロッパ建築を受け容れたのはまさにその時で、日本に本格的洋館をもたらした建築家コンドルが、手持ちの各種様式の一つとして、初めて実現している。

木の柱や梁を表現として前面に押し出す点が日本人の好みに合ったのか、明治・大正そして昭和戦前いっぱい続いている。戦後、本格的チューダーは作られなくなるが、軽井沢の別荘地などには近年、モドキを見かけるから、日本人好みの洋館といっていい。

竣工記念誌『渡辺邸』(竣工記念誌『渡辺邸』(1934年)より

〈甚吉邸〉と歯切れよく呼ぶが、この元の名は〈渡辺甚吉邸〉といい、岐阜の資産家の跡取り息子であった甚吉青年が、東京で新婚生活を送るため港区の白金に昭和9年に作り、その後、戦後の有為転変の中で取り壊しの危機に立ったが、幸い前田建設工業の手で茨城県取手市に移され、この度、再建された。

1973年、大学院生だった私が東京建築探偵団を結成し、世間から忘れられ埋もれた洋館を探し始めた当初に出会ったのがこの家だが、それからちょうど50年、時代は変わり、さいわいこうした洋館への世の関心も高まっている。

チューダーの特徴【ハーフチンバー風「玄関ポーチ」】1階が石造、2階は木造のハーフチンバー(半木造)に見える玄関。

チューダーの特徴から述べよう。全体の姿を見ると、1階が石造、2階が木造で作られこうした半々の作りをハーフチンバー(半木造)といい、イギリスはじめヨーロッパの木造の一つの特徴となる。

二階の出窓【忠実なチューダー様式】出窓の下端の木造の間に赤煉瓦を埋め、半木造の構造を示そうとした。

2階の出窓の下端を見ると木材の間に赤煉瓦をわざわざ詰めているのが分かるだろう。これもチューダーが半木造の構造であることを明示するための設計者の工夫。

2階の柱の立ち並び方を見ると、日本の木造より本数が多いのは、垂直性を強調するためで、チューダー様式が垂直性を強調するゴシック様式の住宅版だからの多柱化に他ならない。

2階の木造の立ち上がりをしげしげ見ると、一階の石造より外に張り出すという日本の木造では危険極まりない作りが一部に見つかるが、これもチューダーの特徴で、街道沿いの住宅(店舗)が、道まで迫り出して公共の空中を私的に使うための便法だったという。

街灯【今 和次郎(こん・わじろう)デザインによる外構照明】この家はただものではないと藤森先生を確信させた上品な外灯。

屋根【波状の文様「バージボード」】破風板に波状の装飾文様。腐朽の激しい部分は3D技術を使って再現。

屋根も2点でチューダーらしさを示す。1つは傾斜の強さで、多柱化と並んでゴシックの垂直性を示す。もう1つは、破風の軒先の板に波状の装飾文様が刻まれている点で、これをバージボードという。

外回りはこれくらいにして中に入ろう。(続きは5/12公開予定の記事にてご紹介します。)

旧渡辺甚吉邸移築復原

旧渡辺甚吉邸移築復原

2018年より、学術研究と並行しながら約半年かけて丁寧に解体。2022年3月、前田建設工業により、同社が茨城県取手市に構えるICI総合センターに移築復原工事を完了。可能な限りオリジナルの部材や技術を生かしつつ、3Dデータなど同社が持つ最新技術を使って、忠実な復原が行われた。

〔特集〕建築史家・建築家 藤森照信先生と訪ねる── 受け継がれたチューダー様式の洋館

文/藤森照信 撮影/本誌・西山航

『家庭画報』2023年5月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。
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