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5月の花 武蔵鐙「遠州忌と戸田露吟(ろぎん)」戸田博さん連載・季節の茶花

2023.04.20

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谷松屋戸田商店 季節の茶花 谷松屋十三代目当主の戸田 博さんが、茶席の花について語ります。5月の花は「武蔵鐙(むさしあぶみ)」です。前回記事を読む>>

5月 武蔵鐙(むさしあぶみ)
遠州忌と戸田露吟(ろぎん)


語り/戸田 博


茶会には追善の茶というものがあります。釜を懸けるというと、一般的にはおめでたい印象があるかもしれませんが、実際には遠忌など仏事に関わるものも多いのです。

たとえば東の大師会、西の光悦会というような会の名前をお聞きになったかたもあるでしょう。いずれも歴史ある大寄せ茶会の名称ですが、大師会は弘法大師を、光悦会は本阿弥光悦を偲ぶ追善茶会なのです。ただ長い時を経てなお故人の遺徳を偲び、供養を重ねてゆくことは、仏事とはいえむしろおめでたいといえるかもしれません。


毎年5月に大徳寺塔頭の孤篷庵(こほうあん)で行われる遠州忌茶会もまた追善の茶です。京都紫野にある孤篷庵は、小堀遠州の菩提寺。戦国時代から江戸時代にかけての大名であり、文化人でもあった遠州の法要を営むとともに、遠州茶道宗家の供茶があり、遠州を偲ぶ茶会が行われます。昨年2022年の遠州忌では谷松屋が薄茶席の席主を務めました。

孤篷庵と戸田家には、実はいにしえより深いご縁があります。それは後ほどお話しするとして、遠州忌の薄茶席の取り合わせと呼応させながら、当家の小間でも遠州公を偲ぶ濃茶の床をしつらえました。

布袋図
胡直夫(こちょくふ)筆の「布袋図」。胡直夫は中国宋代の画家で、その生涯については定かではないが、国宝「夏景山水図」をはじめ伝称作品が多く伝わる。賛を記した愚極智慧は、中国の南宋末から元のはじめに活動した臨済宗の僧。

雲州蔵帳に記載のある画賛「布袋図(ほていず) 」を掛け、平安時代の経筒に武蔵鐙を入れます。経筒はもとは経典を中に入れて土中に埋めるための金属の容器で、一種のタイムカプセルのようなもの。茶人たちがそれを花器に見立て、蓮を入れることが多く、道具としても重みがあり、濃茶の席にふさわしいものです。

坐禅草
格調高い経筒花入を用いた遠州公の追善の茶、濃茶席の床の間
武蔵鐙
鍍経筒花入金(ときんきょうづつはないれ)
経筒花入に武蔵鐙を入れた濃茶の床の間。経筒は平安時代の名品で、男爵家團家に伝来し、のちに近代数寄者の益田鈍翁が所持した。細部までゆきとどいた造形で、当初の蓋も一緒に伝わる。


ここで用いた武蔵鐙は、花部分を護る葉のような仏炎苞(ぶつえんほう)が特徴的な山野草。仏炎苞は、仏像の光背の炎形に似ていることから、この名があるそうです。一枝で存在感があり、経筒とも床の画賛とも釣り合う品格を具えています。

先に述べたように経筒といえば蓮が定石ですが、それを知った上で道具も花もどう用いるかは亭主の思い次第。

ことのついでに申し上げれば、経筒は風炉に用いることが多いとはいえ、このように力強い経筒であれば、炉の季節で使っても差し支えのないということもお伝えしておきます。
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