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【スーパー獣医 野村潤一郎先生の動物エッセイ】強者どもが夢の跡、大型熱帯魚の時代

2023.04.06

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日本において熱帯魚飼育が一般的になったのは第1回東京オリンピック以降のことで、諸外国に比べるとその歴史は意外と浅い。当初は大旦那様の屋敷に住み込みで働く女中さんたちが日夜交代で七輪の火を絶やさないように番をして、水槽の保温に努めたという。これが第1次熱帯魚ブームの始まりだった。

飼育される魚の種類はネオンテトラなどの南米産の小型魚が中心だったが、観賞魚といえば金魚が主流だった頃に遥か彼方のアマゾンからやってくる熱帯魚を手間暇かけて家庭で飼うなど、まだまだ敷居が高い趣味だった。

大型熱帯魚が主流の第2次ブームはそれから25年後に始まった。日本がバブルに沸いていたあの頃、日本の男たちはガンガン働いた。オスとして高性能であることを女性たちに示すのに言い訳は無用だった。高級住宅を手に入れ、大型犬を飼い、大排気量の外車を転がすことが、お目当ての女性を獲得する効率的な方法だった。


また、この時代の女性はあらゆる面で魅力的だったので、必死になって働く男性たちの競争心を焚き付けた。今では狂った時代など揶揄されることがあるものの、今思えば高等生物の進化には必要不可欠の正しい生態ではあった。しかもこの頃に成人した男性は「男だろ!」と鼓舞されて育っているので、その傾向は著しかった。

男性の勤労意欲や大型魚飼育のような豪快な趣味は、明らかに男性ホルモンの分泌量と比例する。さらにこの時代の男性は幼少期に怪獣ブームの洗礼を受けているため“デカい、強い、カッコいい”こそが自分の目指す到達点だった。特にウルトラセブンが使役するカプセル怪獣たちや、バビル2世の3つのしもべなどは“パワフルなモンスターを制御する”という男の夢の理想形でもあった。

つまりバブル時代に生きた動物好きの男性にとって、マッチョイズムのド真ん中たる大型魚に興味を持つのは当然であり、怪物的でパワーのあるそれに夢中になっても世間は許容した。それは「男の子なのだからリカちゃん人形より戦車が好きなのは当たり前でしょう」という時代感覚だ。

さて、生物飼育趣味における“大型熱帯魚の定義”には暗黙の了解がある。

実をいうと、熱帯産でなくてもこのカテゴリーに含まれるし、よりデカければエラいというものでもない。一番重要なのはやはり“怪物性”で、本能的に“ただものではない”と感じる外観と生態が求められる。そして、これらの魚は大抵“愛嬌”と見方によっては“美しさ”も兼ね備えているが、簡単にいえばウルトラ怪獣的な要素を持った大き目の淡水魚ということでよいと思う。

具体的にはメタリックな輝きのアロワナ類、何でも飲み込むナマズ類、色彩も楽しめるシクリッド類、牙が魅力のカラコロイド類、太古を彷彿させる古代魚類が主流でその全てが外国産だ。ちなみに日本三大怪魚は、淀川水系のビワコオオナマズ、北海道のイトウ、四万十川のアカメの三者だが、アカメだけは日本産の汽水魚であるにもかかわらず大型熱帯魚のカテゴリーに含まれる。

当時の男性は破天荒だったから飼育にまつわるエピソードも規格外なものが多い。「ハイギョが水中ヒーターを押し上げて火事になり新築の家が丸焼けだよ。ワッハッハ!」と建築業の社長さんが泣きながら大笑いしていた。

もう亡くなったし時効だから書くが、その後に続く話もスケールが大きかった。「実は3億円で手に入れたジャイアントパンダの子供がいたんだがね。焼きパンダになっちゃったんだよ……」絶句である。
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