三谷幸喜が弥生に放つ新作舞台は、江戸開城をめぐる群像喜劇

笑いに助けられてきたから喜劇にこだわりたい

そこにはやはり、三谷さんの笑いに対するこだわりが見える。なぜそんなに喜劇が好きなのだろう？

「それはやっぱり、自分が笑いに助けられてきたから。悲しい話を観て生きようと思ったことはないですが、笑えるものを観て元気づけられたり、気分転換になったことはたくさんあります。たとえば、映画『エレファントマン』を観ても、今日も頑張ろうという気持ちには、なかなかならないですよね。だから僕は『Mr．ビーン』のほうが好きなんです」


そもそも、観客が笑いながらも何かを考えさせられたり、心に何か引っかかるものを残して、持って帰らせるような作品は好きではないという。

「もちろん、そういう作品もあっていいと思いますが、僕がつくるものは極力そうではないものにしたい。特に今回は、観た後に何も残らない、心の底から“ああ、面白かった！”と思えるものをつくろうと思います。まあ、苦労はしていますが（苦笑）」

というのも、人を笑わせることは、泣かせることよりも難しいから。

「人が泣く要素はそう多くありませんが、笑うツボは人によっても、時代によっても違いますし、まだ発掘されていないものもたくさんある気がする。いつの時代でも、ダンボール箱に入れられた子犬が川に流されてるのを見たら泣けますよね。でも笑いは10年経つと、もう笑えなくなったりする。そんな中で、なるべくどの世代の人が観ても面白いと思えるようなものを探っていくのは、本当に難しい」

それでもやりたい話が尽きないのは、俳優との出会いがあるからだ。昨年夏に上演した、小学校の放課後の教室を舞台に、10歳の子どもに扮した出演者たちが展開するコメディ『子供の事情』も、実は天海祐希さんが発想の源だったのだそう。

「天海さんでどんなものができるだろう？　現代劇で誰も見たことのない天海さんって何だろう？と考えたときに、これはもう、子どもしかないなと（笑）。僕は本当に俳優さんに助けられているというか、俳優さんありきの人間なんです。面白い俳優さんや芸人さんを見つけると、今度この人と仕事をしたいなと思ったり。そういう流れで、今後も作品づくりが続いていくんだろうなと思います」

だとすれば、俳優との出会いがあるかぎり、新作のアイディアも無尽蔵なのでは？

「まあ、そういうことになりますね（笑）。そろそろ、人生のまとめに入らなければいけないのかなとは思いますが、どうまとめていいかわからないし、やってみたいことはまだまだあります。ドラマも舞台も、映画も大好きなので、やれるものは全部やりたいですし。

ただ、もともと早くない筆が、さらに年々遅くなっていて。昔は闇雲に書いていた部分がありましたが、今は作品をイメージすれば、なんとなく頭の中に完成品が浮かぶ。神様が書いた、僕にとっての完璧なゴールが見える。それだけに、自分がいかにそこに届いていないかもわかってしまう。もう少しゴールに近いものをと思うと、自ずと遅れてしまうんです（苦笑）」

今回の『江戸は燃えているか』の脚本も、すでに頭の中に完成品は浮かんでいるという。ただただ笑える喜劇の幕が開くのを、楽しみに待ちたい。