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究極のリゾート・天空の森で出会う“雑木”の美。客室や家具の温かみの秘密とは

2023.02.15

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天空の森 ふるさとに築く「夢の王国」 究極のリゾートとも称される鹿児島の「天空の森」を訪れると、曲がった木を生かした天井の梁や柱、家具の持つ温かみに心が和みます。木材は、オーナーの田島健夫さんらが土地を開拓する際に伐ったクリの木などすべて敷地内にある「雑木」です。職人にとって扱いが容易ではない木をあえて使い続ける理由は、その強さと素朴な美しさ。一番は「自分の手もと、足もとにあるもので精一杯のおもてなしをして、地元の生活文化に触れていただくのが観光」という田島さんの信念にあります。前回の記事はこちら>>

第3回 雑木(ざつぼく)の美を見出す


雑木(ざつぼく)の美を見出す

この敷地で育った木で家具をつくる
いつもは客室にある上の家具は地元の職人の手作り。枝ぶりを生かしたタオルかけや椅子など、すべてが唯一無二だ。田島さんは「同じものをつくりたくても無理ですね。でも、(スイスの時計師)フランク・ミュラーさんも気に入ってくれました」と嬉しそうに教えてくれた。

「客室のモデルは馬屋。曲がった木を組み合わせて、地元の個性を表現する」──田島健夫



このあたりでは昔から、お金になる木は売って、お金にならない木で自分たちの家をつくってきました。前者はヒノキやマツなど建材になる木で、後者はクリやコガノキなどの雑木(ざつぼく)。一般的には扱いにくく、利用価値が低いとされている木です。鹿児島は台風常襲地帯であるうえに、作物が育ちにくいシラス台地が総面積の約6割を占める、いわゆる貧しい土地でしたから、そうせざるを得なかったんでしょう。

ワイングラスラック

世界的なワイングラスメーカー「リーデル」創業家10代目当主、ゲオルグ・リーデルさんの来訪に合わせてつくったラック。ゲストを喜ばせるための田島さんの情熱とアイディアは無尽蔵。

でも、地元の人たちはクリの曲がった木が強いことや、組み合わせるとさらに強度が増すといったことを知っていましたし、その特性を生かす技術も持っていました。ですから、どんな台風がきてもびくともしない家をつくれたんです。青森の三内丸山遺跡にはクリの木の柱の化石が残っていますから、そうした知恵や技術は縄文時代から受け継がれたもので、日本のほかの地域にも残っているのだろうと思います。

椅子

椅子はクリの木や埋没木で製作。

「天空の森」の客室のモデルが馬屋だというと驚かれますが、牛馬は田畑を耕したり、伐採した木を運ぶのに役立つ大事な存在。一家で一番の稼ぎ頭であり、宝である彼らを風水害から守るため、ことさらに念を入れてつくるのが馬屋でした。ちなみに以前は、その馬屋と人間の住まいは同じ建物内にあったんですよ。

敷地内の作業場で出番を待つ木材

敷地内の作業場で出番を待つ木材。撮影/本誌・大見謝星斗

先人の知恵がつまった水瓶

先人の知恵がつまった水瓶。上から下へ水が流れる仕組みで、上段で豆腐、中段で野菜、下段で瓶ものというふうに分けて冷やす。撮影/本誌・大見謝星斗

曲がった木で家屋を建てるときに難しいのが、柱や壁に中心線を書き出す「芯出し」などの作業で、僕は若い大工が見事にやってのける様子を見ると感動します。ただ、今の職人でその技術を持っている人はわずか。まっすぐな木であれば、工事はもっと早く進むでしょう。

曲がった木を巧みに組み合わせた梁

曲がった木を巧みに組み合わせた梁は頑丈で安心。

それでも、僕が地元の雑木にこだわるのは、「観光とは、その土地の生活文化に触れること」という信念があるからです。おかげさまで、うちの客室は非常に耐久性がいいですし、地元の個性を表現できているという自負もある。そして何より、僕は美しいと思っています。

家具の製作とメンテナンスを行う大保(おおぼ)健一さん

家具の製作とメンテナンスを行う大保(おおぼ)健一さん。撮影/本誌・大見謝星斗

雑木の建物に合うのは雑木の家具であり、灯り。家具はもっぱら、うちの作業場で地元の職人たちが、灯りは電設会社の中森一己さんがつくってくれています。

中森さんは開業前から一緒にこのリゾートをつくってきた同志ともいえる存在で、僕の求めるものがわかっている人。ただ部屋を明るくする「照明」ではなく、心を温める「灯り」をつくってくれます。中森さんには、ぜひ、次の世代にもその技術を引き継いでほしい。そう願っています。

中森一己さん

サルスベリの枝で新しい灯りを制作中の中森一己さんは「天空の森」の電気工事を一手に担う会社の会長。田島さんの依頼でこれまでに手がけた灯りは「数えきれない」と笑う。

中森さん作のシャンデリア

中森さん作のシャンデリアは木造の建物にぴったり。独創的なフォルムと豆電球の放つ優しい光が魅力だ。

現在も、敷地内の雑木で建物や家具をつくるとともに、補修や改良も重ねています。全面的に改築中の客室「碧海(みどり)の浮舟」もその一つ。

ヴィラ「碧海の浮舟」

ヴィラ「碧海の浮舟」。まだ未完成ながら、木をふんだんに使った空間は抜群に心地よい。

この客室と敷地内のヘリポートとをつなぐ専用の橋を建設中のみなさん

この客室と敷地内のヘリポートとをつなぐ専用の橋を建設中のみなさん。田島さんが信頼を置く“地元のおっちゃんたち”だ。

僕は常々「壊す勇気がなかったら、つくらない」とスタッフに話していますが、完成してからでも、改良が必要だと思ったら、躊躇なく壊して、つくり直します。100パーセント満足できるレベルのものをつくらなければ、次から妥協してしまう。いつだって“今できる完璧”を追求しないと、と自分にいいきかせています。

「天空の森」オーナー 田島健夫(たじま・たてお)

田島健夫(たじま・たてお)さん

1945年、鹿児島県・妙見温泉の湯治旅館「田島本館」の次男として生まれる。東洋大学卒業後、銀行員を経て1970年に茅葺きの温泉宿「忘れの里雅叙苑」を、2004年に約60万平方メートルのリゾート「天空の森」を開業。豊かな知識と知恵、類い
稀なる実行力で、日本の観光業界を牽引する。
〔連載〕天空の森 ふるさとに築く「夢の王国」
撮影/本誌・西山 航 取材・文/清水千佳子

『家庭画報』2023年2月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。
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