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日本のヴェルディ研究者が語り合う。ヴェルディは「オペラの変革者」

2023.01.10

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「ヴェルディ」の魅力 第3回(全8回) イタリアの作曲家、ジュゼッペ・ヴェルディ。アニバーサリーイヤーを祝し、不世出の奇才の深い魅力に迫ります。前回の記事はこちら>>
ヴェルディの音楽に魅せられ、追究し続ける小畑恒夫さんと加藤浩子さんに、イタリアオペラにおける彼の魅力とその位置づけについて語っていただきました。

日本のヴェルディ研究者が語り合う

小畑 実は私は学生時代はヴェルディよりプッチーニや、ヴェリズモ・オペラ的なものに魅力を感じていたんです。ところがイタリアに行って考え方が180度変わってしまった。


特に感じたのは、イタリア語の言葉の重要さなんです。ヴェルディが書いたのはその言葉を生かしたすごいオペラなんだということで腑に落ちたんですよね。言葉やドラマの人間性がイタリア的で、でもそれが世界中の人の心を打つところにすごく惹かれました。

日本のヴェルディ研究者が語り合う

日本ヴェルディ協会理事長 小畑恒夫さん
(おばた・つねお)東京藝術大学声楽科卒業。昭和音楽大学客員教授。オペラ評論と翻訳でも活躍。また日本ヴェルディ協会理事長として、ヴェルディ作品の普及と芸術文化の発展に力を尽くしている。

「才能があり努力を惜しまない。だからあれだけの作品ができたんです」(小畑さん)

加藤 私も最初はやっぱりプッチーニでした。世話物的で話がわかりやすく親しみやすい。ヴェルディはとっつきにくい印象があったのですが、『イル・トロヴァトーレ』を観て、旋律がそのままドラマになっているところにすごく惹かれたんです。さらに作品を辿ると『ドン・カルロ』のようなスケールが大きい世界がある。やっぱりその壮大な世界がすごいと思いました。

だからいつもいうのですが、プッチーニがルノワールで、ヴェルディがミケランジェロだって。ルノワールは甘くてふわふわしてだれにも好かれる。ヴェルディは人間の真髄に迫るメッセージ性があって壮大。そこがミケランジェロだと思うところです。

日本のヴェルディ研究者が語り合う

音楽評論家 加藤浩子さん
(かとう・ひろこ)慶應義塾大学大学院で音楽史を専攻。“音楽物書き”として執筆や講演を行う。『ヴェルディ』をはじめオペラ関係の著書多数。最新刊『16人16曲でわかるオペラの歴史』。

「プッチーニがルノワールならヴェルディはミケランジェロですね」(加藤さん)

小畑 『ドン・カルロ』や『オテロ』には私も圧倒されましたが、でも次第に『ラ・トラヴィアータ(椿姫)』や『リゴレット』など、少人数の人間の世界を掘り下げた作品にも魅力を感じるようになったんです。未完成でもがむしゃらに何かをつかもうとする作曲家のエネルギーを感じるからです。

加藤 幅が広いんですよね。後期の壮大で複雑な作品と、中期のまとまりよく、人物の心理を描いた作品、それから初期。やはりヴェルディは半世紀も現役だったので、その進化の過程が辿れるところが面白いですね。初期の『ナブッコ』と最後の『ファルスタッフ』はまるで別人です。

小畑 今までのオペラとは違うものを作りたいという理由で、台本の作者を自分で選び、他の作曲家の手法もどんどん取り入れて、新しい異様なオペラが次々とできてくる。頭がよくて、才能もあって努力を惜しまない。だからあれだけの作品ができたと思うんですよね。一つ一つの作品がみんな新しくて二つとして同じ作品がない。

特徴は洗練されたドラマのクライマックス


小畑 ヴェルディはオペラの変革者でした。たとえばグルックのように今までのオペラとは違う理念を掲げて理論的にやる「改革」とは違って、ヴェルディの場合は長い時間をかけて「変革」をなし遂げていった。晩年『アイーダ』を書いたとき、彼は自分でもうこれ以上やることがないと思った。ところがどっこい、今度はワーグナー的な要素を入れて『オテロ』を書いた。で、やっと気楽になって『ファルスタッフ』を書いた。見事な人生ですよね。

加藤 ヴェルディとプッチーニはどうしても並列に語られるのですが、プッチーニとヴェルディでは音楽の作りはどう違うと思われますか。

小畑 ヴェルディは伝統から出発していますよね。つまり昔ながらの台本作者がいて、アリア、重唱、アンサンブルがあるという音楽的伝統が基礎にあり、その上で工夫をし、少しずつ変えていった。音楽的には古いベルカントの伝統的な歌手を想定しながら、プラス演劇の役者のような表現を要求する。

プッチーニの時代には演劇性ありきから出発しますね。ヴェルディは古さの中に歌舞伎の見栄のような、ここぞという洗練されたクライマックスがあるのが一つの特徴かなと思います。それは後期の『オテロ』や『ファルスタッフ』にはない。本当にヴェルディらしいものっていうのは中期ですね。

加藤 よくそういいますよね。『仮面舞踏会』とか、あのあたりがいちばんイタリアオペラのヴェルディらしい。

小畑 『仮面舞踏会』や『アイーダ』はイタリア人がイタリア語の輝かしい語感で歌うと全然違う。ヴェルディ魂が言葉とつながっているようなんです。プッチーニは音楽は美しいですが、本質をつかむようなパワーが声の中に希薄なんですよ。よくメロディを先に作るので言葉の強さがないんですね。だから歌手はメロディに負けないよう言葉を独自に表現しなくてはならないという苦労があります。

ヴェルディの音楽は人間へのリスペクト


小畑 『ラ・トラヴィアータ』とジュゼッピーナ・ストレッポーニ(ヴェルディの妻)との関係についてはどう思われますか。

加藤 ないとはいえないと思うんです。やっぱり作曲したときに彼女は横にいて、彼女は歌っているわけですね。ただ『ラ・トラヴィアータ』は私小説ではなく、もっと普遍的なものをヴェルディは書いたと思います。

小畑 作品の中で彼女をリスペクトしている。ヴェルディはすごいフェミニストですよね。『アッティラ』のオダベッラも『イル・トロヴァトーレ』のレオノーラも素晴らしい主人公です。女性がいかに本気で生きようとしたか、彼女たちの勇気や意志に心から共感しないとああいうものは書けない。登場人物が運命の中でひたむきに完全な生を全うしようとする。そういうところがやっぱり人を感動させるんじゃないかな。ドラマの筋というよりはヴェルディ自身がそう考え、そういう音楽を作っている。人間に対するリスペクトですよね。

加藤 私はヴェルディの音楽にすごくメッセージ性を感じます。人間って何だろう。人間はこういうものではないだろうかという。

小畑 イタリア人はそこに誇りを感じると思うんです。プッチーニは素晴らしいオペラを書くけれど、やはり立派な作曲家としてヴェルディは本当に尊敬される存在なのだなと思います。

日本のヴェルディ研究者が語り合う
『リゴレット』『アイーダ』『椿姫』『ファルスタッフ』など、ヴェルディ・オペラの代表作の楽譜。人間の喜怒哀楽、人生の紆余曲折を見事に楽曲に投影した彼の作品は、時代を超えて音楽家や研究者、聴衆の心を揺さぶる。
撮影/鈴木一彦 構成・取材・文/三宅 暁(編輯舎)
『家庭画報』2023年1月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。
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