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「感謝できることを数えましょう。人生はトントンです」美輪明宏さんと五木寛之さんが対談

2022.12.22

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歌手・俳優・演出家 美輪明宏さん × 作家 五木寛之さん「豊かに生きるヒント」(後編) 五木寛之さんの新年号での対談も3年目を迎えました。今回は、九州の同胞で、奇しくも上京した年も同じだという美輪明宏さんにご登場いただきました。初めての出会いのお話から始まり現代を生き抜くヒントまで語り合っていただきました。前回の記事はこちら>>
美輪明宏さん、五木寛之さん

美輪明宏
歌手・俳優・演出家。長崎県に生まれ、小学生の頃から声楽を習い16歳でプロの歌手としてデビュー。1957年「メケ・メケ」、1966年「ヨイトマケの唄」が大ヒット。俳優・作家としても活躍し、著書の最新作は『天声美語』(講談社)。2018年秋には東京都より多方面での功績をたたえられ、平成30年度「名誉都民」の称号を贈られた。

五木寛之

作家。福岡県に生まれ、生後まもなく外地にわたり、1947年に北朝鮮より引き揚げる。1967年『蒼ざめた馬を見よ』で直木賞受賞後、数々の賞を受賞。英文版『TARIKI』は2001年度、ダ・ヴィンチ「BOOK OF THE YEAR」(スピリチュアル部門)に選ばれた。最新刊に『五木寛之セレクション』東京書籍刊、中国語版『大河の一滴』など

期待しすぎず、感謝の心を忘れない


五木 現代の人たちも、どう生きていけばいいかということを結構悩んでいるんじゃないでしょうか。それに対して美輪さんがいろんな形で、応答されているでしょう。それは問答なんだよね。講演は説教で、対談が問答。そういう意味では、美輪さんは自分では宗教的活動をしていないと思っているだろうけれど、同じことなんですよ。だって仏教っていうのは、そもそも生き方の問題ですから。

美輪 そうですね。形式の問題じゃないですからね。それにしても、問題が増えすぎていますね。食糧事情でしょう、金銭的なものから経済、政治、異常気象まで。一度に来たでしょう。誰か遠慮してくれればいいんだけれど(笑)。全部一度にこれでもかって。こんなこと初めてじゃないでしょうか。

五木 特にこの一年はね。コロナに始まってウクライナ問題があり、元首相の暗殺事件があり、大変な年でした。

美輪 これらを何とかくぐり抜けていく発想を、どうにか見つけようと思っても、どこにも答えが見つからない時代になってきました。

「戦後の経験から学んだひとつが、期待値を下げておくこと。心が静まる。」(五木さん)


五木 今は、人生100年時代とか言って、人生50年の時代とはもう全然違ってきてるでしょう。あとの50年が今は余計な付録じゃないんですよ。これから数年で100歳以上の人たちが大幅に増えるって言われています。今は65歳以上の高齢者が28パーセントぐらい。国民の3分の1ですからね、もう高齢者とか言っちゃ駄目なんですよ。そういう人たちが社会の中心なんだから。ですから60歳から先をどう生きるか真剣に考えなきゃいけない。

美輪 五木さんは90歳になられていかがですか。何か変化はおありでしょうか。

五木 90の壁を超えると、見えるものがあるかと思ったけど全然見えないね(笑)。それでも幾つになっても自分の中で変わらないのは、あまりいろいろ期待しすぎないということです。これは、敗戦後、外地から引き揚げてくる中で見つけた知恵なんですよ。とにかく希望は外れると考える。そういう感覚があって。だから期待しない。期待しないで、少しでも何かいいことがあったらものすごく嬉しい。僕は人生にあんまり期待しないで、これまで生きてきたんです。

美輪 だって、裏切られて裏切られてきたんですよ。

五木 国に裏切られ、時代に裏切られ、敗戦後の引き揚げというのは、本当にひどいものでした。まだどれだけの人が向こうに残っているかわからないけれど、とにかく子どもたちを連れて行けないっていう状態ですから。その時の経験は、今でもずっと生きている。地方講演とか文化事業で出かけることがありますよね。その時にバスルームも付いてないようなホテルに泊まることがあるじゃないですか。一瞬むっとするけれど、すぐにあの時に比べれば、と思い直せるんだよね。電話も付いている、部屋もちゃんと片付いてベッドにシーツまでかかってるのに、これ以上何の文句があるかって、すぐにこう思えるのは有難いです。

「不平不満を並べ立てず感謝できることを数えましょう。人生はトントンです。」(美輪さん)


美輪明宏さん

美輪 私は、戦後に家が破産しましてね、貧乏になってしまうんです。当然、長崎に帰れなくなっちゃうんです。それで、新宿駅に寝泊まりしていたこともあるんですよ。階段で座っていたら、蹴飛ばされたこともあります。トランペットを吹いていた先輩に紹介されて、立川とかにある進駐軍のキャンプで歌っていました。電車で知り合った大学生を、初台まで訪ねていって。どうぞと通されて玄関入った途端に気を失ったこともあるんですね。朝目が覚めたら、七輪で私のために目玉焼きを作ってくれていたんです。おかゆも作ってくれましてね、こんなに美味しいものが世の中にあるかしらと思いました。あの美味しさは一生忘れられませんね。私は、まだ自分がアップアップしちゃって、どうやって生きるべきかというお題は、大先輩の五木さんの言葉に耳を傾けます。ただ、言えるのは最近は感謝の気持ちを忘れている人が多いことですね。人間って、不平不満を数えることは山ほどするでしょう。感謝することは忘れている。感謝する内容がわからないという人もいらっしゃいますが、歩けるでしょう、見えるでしょう、聞こえるでしょう、喋れるでしょう、動けるじゃありませんか。それを数えるとね。結構トントンになる場合があるんですよ。

五木 美輪さんの、言葉の一言一言はとても含蓄のある言葉なんだけど、そこまで来るまでには七転八倒しているんですね。少年期から青年期を、そうやって過ごしてきたからこそ今があるんだと思います。

自分で選んだ道を続けることの大切さ


五木 「豊かに生きる」ということを言葉で伝えるのはなかなか難しいし、期待をしすぎないということも、美輪さんのような経験がある人にはわかるんですよ。だけど体験してないと、言葉で言ってもなかなか通じないと思いますよ。僕は言葉を使う仕事なんだけれども、言葉の無力をしばしば感じることがあります。どんなに言葉を尽くして語っても、その人が実際に体験してないことはなかなか通じない。

美輪 そうですね、だからこういうふうにしたらいいと言うときには、曖昧な表現になることもありますね。

五木 言葉ひとつで世の中が変わるなら何の苦労もないです。確かに何かのきっかけで、ダムで言うと水圧が上がってるときに、ちょっとした亀裂から水がほとばしり出て、ダムが決壊するような変化が起こることはあります。それでも、言葉とか本とかそんなものひとつで、人生が変わるってものじゃない。戦後、初めて日本に外国のジャズバンドが来たときに、ジーン・クルーパという世界的に有名なドラマーが来日したんです。日本のジャズプレイヤーの中で一生懸命ジャズをやってはいるけれども、やっぱりブルースは日本人では難しいんじゃないかとか、そんな悩みを持っている若者がいたんですよ。その若者が楽屋にこっそり忍び込んで、ひと言アドバイスくださいと頼み込んだそうです。その時に、クルーパはただひと言、「キープ・オン」と言ったっていうんですね。「キープ・オン」。つまり続けなさい、長くやりなさい。「キープ・オン・ユア・ウエイ」とか、そんな表現があるじゃないですか。そのひと言だけ。その日本人プレイヤーは、その言葉がきっかけで続けることになったそうです。物事はね、続けることが本当に大事。長くやることです。日本人にはぱっと咲いて、ぱっと散るという美学がありますが、続ける大切さは何にも勝ります。美輪さんも、昭和27年に上京してから今日まで歌を続けているわけですよね。自分のことで恥ずかしいけど、僕は、ある夕刊新聞の連載が45年目になりますが、毎日締め切りがあるので嫌になることがあっても、とにかくその時に「キープ・オン」だ。とにかく続けるっていうことは大事だと言い聞かせながらやってます。とにかく自信がなかろうが、迷いがあろうと、とにかくやってることを続ける。やろうと思ってることを長くやる。長くやることに何か意味があると思いますよね。僕の感じでは。
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