野村萬斎さん、裕基さん親子が挑む『ハムレット』。現代の狂言師のあり方とは

父でもある師匠が実体験した現代の狂言師のあり方
「タイトルロールとして私にある目指す形を託したいです」── 野村萬斎

「猿に始まり、狐で終わる」という言葉にあるように、狂言の世界では『靭猿』で初舞台を踏み、『釣狐』が卒業論文とされている。


2022年に『釣狐』を披いた裕基さんは狂言の芸の継承と同様にシェイクスピア作品も受け継ぐ。萬斎さんが演者としてのレールを用意したことには、どんな意図があったのか。

「『釣狐』を演じたことで狂言修業の1段階目が終わったので、狂言や能を演ればいいのですが、私からすると私自身のいろんな意味での後継者にもなっているんです。狂言や能で蓄積したものが、いろいろなことに使えるということを我々は示していかなければならない。これからの能楽師としてのスタイルを私自身が実体験的に生きてきたので、そういう風に生きていこうとすることが大事なのではないかと思います。演じるということでは共通ですので、同年代の岡本圭人さんや藤間爽子さん、一方で若村麻由美さんといった現代劇のプロフェッショナルなかたがたと出会うことで、自分がどういうアイデンティティーを持っているのか、そして何が足りて何が足りていないのかを知って欲しいと思います」

「指導されたとおりに演じるのが今の僕の目標です」── 野村裕基

そして裕基さんはリーディング公演を経た今、大切にしていることを語った。

「父や他のかたが演じたハムレットの過去の作品は見ないほうがいいといわれているので、全く見ていません。リーディング公演では渡された台本を読んでから、“ここは緩急をつけろ”とか“ここはこの言葉が大事だから強調して”といったことを教わって、何もないところからスタートしました。このときに指導されたとおりに演じることが、今の僕の目標だと思います。朗読劇を脱して動きをつけることでどれだけ表現力が増すのかは稽古をしてみないとわかりませんが、それがリーディングとの違いなので頑張りたいと思います」

2人が親子でいられる時はあるのか？

「仕事の時間のほうが多いですから、家族らしい会話はあまりしていないです。LINEでも敬語を使っています（笑）」と裕基さん。

萬斎さんは「僕自身も経験していますが、師弟関係のほうが強くなっていくんです。家族という集合体になるのは妻と娘が一緒のときですね」。