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年末の風物詩「サントリー1万人の第九」。総監督、指揮者・佐渡裕さんが語る想い

2022.11.16

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佐渡 裕の誌上「第九」白熱教室 「第九」をもっと楽しむ 第1回(全5回) 年末が近づくと聴こえてくるベートーヴェンの「第九(交響曲第9番ニ短調作品125)」。欧米では歴史的な日に演奏されるなど、世界においても特別な楽曲です。コロナ禍やウクライナの戦争などが起こった、このような時だからこそ、「こんな世の中ではない!」「すべての人が一つに」という第九のメッセージがますます心に響いてきます。
指揮者・佐渡 裕さんが語る「第九」への思い

コロナ禍前の2019年12月1日。令和初となる「サントリー1万人の第九」を指揮した佐渡 裕さん。いろいろな想いを胸に抱いて全国から集まった1万人。その迫力の大合唱が大阪城ホールに響いた。©毎日放送/サントリー1万人の第九

「サントリー1万人の第九」の総監督、指揮者・佐渡 裕さんが語る「第九」への思い


世界的に活躍する指揮者・佐渡 裕さんが総監督を務める、「サントリー1万人の第九」は、年末の風物詩として広く愛され続けています。佐渡さんはどのような想いで、第九に向き合っているのでしょうか。


指揮者・佐渡 裕さんが語る「第九」への思い

佐渡 裕さん
(さど・ゆたか) 1961年京都府生まれ。故レナード・バーンスタイン、小澤征爾に師事。現在オーストリアのトーンキュンストラ―管弦楽団音楽監督、国内では兵庫県立芸術文化センター芸術監督、シエナ・ウインド・オーケストラの首席指揮者。2023年4月に、新日本フィルハーモニー交響楽団第5代音楽監督に就任する。「世界でも類を見ない『1万人の第九』。この奇跡と感動をつなげていきたい」(佐渡さん)©毎日放送/サントリー1万人の第九

なぜ我々は音楽をするのか、その根本的な理由が第九にあるのです


僕たちはなぜ音楽をしているのか。神様が僕らになぜ音楽を与えたのか。そう問いかける時、第九はいつも答えをくれる気がします。さまざまな土地、文化、言葉、環境も違う中で育った人々が、第九によって共振することができる。そして一緒に生きていることを喜びと感じられる。「こんな世の中を求めていたのではない、もっと歓びに満ちた世界を創ろうではないか」──第九は、我々が音楽をする根本的な理由に行き着くのです。

ベートーヴェンが第九を作曲してから約200年経ちますが、どれほど平和を祈っても、いまだに戦争や紛争はなくなりません。「人類が皆兄弟になる」とシラーの詩で歌われているような、すべての人が一つになる世界はまだ難しいかもしれませんが、僕は第九を演奏するたびに「人間捨てたものではないな」と思うのです。

第九は200回以上指揮していますが、毎年世界情勢だけでなく、僕自身や参加者の人生においても、少なからず変化があります。家族の誕生や死、病気、仕事のこと……我々の日常にはさまざまな出来事が起こります。その中で、演奏を重ねるたびにシラーの詩のドイツ語が深く読み取れるようになり、自分に届いてくるメッセージが変わってくるようになりました。

たとえば「不思議な力(Deine Zauber)」という言葉があります(「その不思議な力は、時流が苛酷にも引き裂いていたものを再び結び合わせる」佐渡さん訳)。今はこの意味を「演奏する人一人一人の不思議な力ですよ」と伝えていますが、おそらく最初はそう思っていなかった。詩と音楽に何度も接するうちに、この言葉の深みに気がつきました。

皆それぞれが「不思議な力」を駆使し、70分間でともに創造的なものを創ることにこそ意味があるのではないか。それがもっと大きなところで「歓喜(Freude)」につながっていくのではないか、今はそう思っています。

ベートーヴェンが第九で描こうとしたのは、理想郷(楽園)の世界でした。何が理想かは、人それぞれ違うと思います。僕にとっての楽園は、家族と一緒に過ごせて、皆が元気でいられる普通の生活です。皆さんそれぞれの喜びや理想を描きながら、第九を聴いたり、歌っていただきたいなと思います。

「国も言葉も環境も違うそれぞれ違う人々が、『第九』によって共振することができる」(佐渡さん)


指揮者・佐渡 裕さんが語る「第九」への思い

2020年のコロナ禍の折、悩み抜いた末に実現した、1万以上の投稿動画に音を合わせながら指揮をしたという奇跡の“リモート演奏”。一人一人の熱い想いがスクリーンからも伝わってくる。真ん中のスクリーンは、皆の顔が集まってできたベートーヴェン。©毎日放送/サントリー1万人の第九

今年は大合唱が復活。震災、コロナ禍でも続けた「サントリー1万人の第九」


1999年から「1万人の第九」を指揮していますが、毎年さまざまなドラマがあります。「恋人同士や職場の同僚と歌いたい」「結婚前に父との思い出を作りたい」「闘病中や介護中だけど練習に参加したい」など、1万通りの想いが込められています。

第九という作品を「年末に歌う」ことは、1年を振り返って来年の祈願をする機会でもありますが、それ以上の意味があると思っていました。平和を祈ったり、未来を決心したり、皆でともに時間を過ごすことは、まさにシラーが描こうとしていた世界です。

2011年の東日本大震災が起こった年は、東北の人たちと心をつなげたいと思い、宮城・福島・岩手の被災地三県から特別合唱団を募集し、大阪会場と東北会場を中継で結んで1万1000人の第九を指揮しました。だからコロナ禍でもやめるべきではないと思ったんです。2020年は1万を超える投稿動画を通して、皆さんと“リモート”共演し、熱狂と奇跡を皆さんと共有することができました。今後世界中に展開していきたいと思います。

「サントリー1万人の第九 2022」リモート合唱を募集

投稿したご自身の歌声が、大阪城ホールの生合唱と合わさり、世界中に発信されます。

募集期間:11月20日(日)まで
収録と投稿:ご自身のパソコンやスマートフォンで簡単に収録と投稿ができます。収録・投稿の方法は、「サントリー1万人の第九」公式サイトの動画投稿ページをご覧ください。

公式サイト
https://www.mbs.jp/daiku/remote-ensemble/





「サントリー1万人の第九」



2022年12月4日(日)15時開演
大阪城ホール
演奏:兵庫芸術文化センター管弦楽団
ソプラノ/高野百合絵 メゾソプラノ/清水華澄 テノール/西村 悟 バリトン/甲斐栄次郎
合唱:1万人の第九合唱団(2000人予定+動画投稿)
※コンサートの模様は、12月17日(土)16時 毎日放送系全国ネットでテレビ放送予定





「サントリー1万人の第九」のドキュメンタリー動画をこちらのURLからご覧いただけます。



新型コロナウイルスの影響で、1万人が集まることができなかった2020年。1万以上の投稿動画とオーケストラの生演奏を融合させた奇跡のコンサート実現までのドキュメンタリー。佐渡さんの涙も必見です。

「サントリー1万人の第九」ドキュメンタリー






〔特集〕「第九」をもっと楽しむ



01 「第九」をもっと楽しむ





この特集の掲載号
『家庭画報』2022年12月号



『家庭画報』2022年12月号


撮影/本誌・大見謝星斗(佐渡さん譜面) 取材・文/菅野恵理子 編集協力/三宅 暁
『家庭画報』2022年12月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。
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