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紙の「本」ならではの魅力が隅々に。 五木寛之さん初のテーマ別作品集

2022.12.13

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〔今月の本/対談解説つき〕
『五木寛之 セレクション Ⅰ 国際ミステリー集』五木寛之 著

五木寛之

撮影/石岡瑛子(1973年)

五木寛之(いつき・ひろゆき)
1932年福岡県生まれ。生後まもなく朝鮮半島に渡る。戦後、平壌より引き揚げ、1952年早稲田大学ロシア文学科入学。1957年中退後、PR誌編集者、作詞家、ルポライターなどを経て1966年「さらばモスクワ愚連隊」で第6回小説現代新人賞を受賞。1967年『蒼ざめた馬を見よ』で第56回直木賞受賞。著作多数。

紙の「本」ならではの魅力が隅々に。
五木寛之さん初のテーマ別作品集


2022年9月に90歳を迎えた五木寛之さん。同月、自身初のテーマ別作品集の刊行がスタートした。“テーマ別”の作品集を刊行する意義について、五木さんはこう記している。

「大抵の作家には、読み始めるとすぐに情景が浮かび、読者がすっと入っていける固有の世界があります。しかし僕の場合は、描いている世界が5通りくらいあって、バラバラです。恋愛をテーマにした小説を気に入ってくださったかたが次作を読んで、ともすればがっかりされてしまうこともあります。ですからこのへんで一度、読者がご自身の好みで作品を選ぶことができるように整理してみようと思ったんです」

第1弾のテーマは「国際ミステリー集」。第56回直木賞を受賞した「蒼ざめた馬を見よ」(1966年)、「夜の斧」(1968年)、「深夜美術館」(1975年)の3作が収められている。いずれも旧ソ連や韓国と日本を結ぶ物語だ。

「まさに、現代の世界情勢を予見する作品だと、ひそかに自負しています」と五木さん。

時代と心中する気構えで“時分の花”を目指したという五木さんだが、50年以上前に書かれた作品が、今なお現代を照らしている。

巻末に収められた作家の佐藤 優さんとの実に50ページに及ぶ“対談解説”という新しいスタイルの解説によって作品はさらに現代性を帯び、今の世界情勢への理解を深める足がかりとなる。

圧倒的なボリュームの“対談解説”に加えて、「作家の部屋から」と題された挟み込みの月報も読者を喜ばせるだろう。

五木さんのエッセイに加えて、同時代評論が2本と編集室からのメッセージが掲載されている。

なかでも上の肖像写真を撮影した、アートディレクター石岡瑛子さん(1938〜2012年)による、この写真が世に出た際の顛末を描いた同時代評論が面白い。月報を読むまで、この写真が掲げられた帯はゆめゆめ紛失することなきよう気をつけられたい。

仮フランス装の瀟洒な造本で、368ページという大著ながらとても軽く、文字も大きく読みやすい。また、表紙のイラストにごく小さな文字で描かれたロシア語の意味を調べると、なるほどとうなずける仕掛けもあり、著者と編集者が、並々ならぬ愛情を注いで作り上げた本だということがわかる。

紙の本を手に取り、読むことの楽しさや喜びを、改めて実感することができる。

今後も、「音楽・芸能」、「恋愛小説」、「ユーモア・幻想」、「ノンフィクション小説」など、テーマはフリースタイルで刊行が続く予定。

著者自身の心入れによる作品集の次巻を待つことができるのは、同時代に生きる読者の特権。楽しみに読み続けたい。

『五木寛之 セレクション Ⅰ 国際ミステリー集』

カバーイラスト/ナガノチサト 装幀/長谷川 理

『五木寛之 セレクション Ⅰ 国際ミステリー集』
五木寛之 著/東京書籍


「蒼ざめた馬を見よ」、「夜の斧」、「深夜美術館」の3作を収録したシリーズ第1弾。表紙イラストにはごく小さな文字で“「蒼ざめた馬」 B.ロープシン(革命家ボリス・サヴィンコフの別名)”と書かれている。

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構成・文/安藤菜穂子

『家庭画報』2022年12月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。
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