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認知症により時間・場所・人が認識できなくなる「見当識障害」。サポートや介護の工夫をご紹介

2022.10.03

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長谷川父子が語る認知症との向き合い方・寄り添い方 第10回 認知症の中核症状には時間・場所・人を認識できなくなる「見当識障害」があります。これは脳の神経細胞が死滅し、認識力が失われることによって起こってきます。この障害を持つ人をサポートするうえで知っておきたい対応や工夫をご紹介します。前回の記事はこちら>>

場所がわからず迷子になる


長谷川 洋さん

長谷川 洋(はせがわ・ひろし)さん
長谷川診療所院長。1970年東京都生まれ。聖マリアンナ医科大学東横病院精神科主任医長を経て、2006年に長谷川診療所を開院。地域に生きる精神科医として小児から高齢者まで、さまざまな精神疾患の治療とケアに従事。聖マリアンナ医科大学非常勤講師、川崎市精神科医会理事、神奈川県精神神経科診療所協会副会長などを務める。長谷川和夫さんの長男。




写真提供/長谷川 洋さん

長谷川 和夫(はせがわ・かずお)さん
認知症介護研究・研修東京センター名誉センター長。1929年愛知県生まれ。1974年、認知症診断の指標となる「長谷川式認知症スケール」を開発。「パーソン・センタード・ケア」の普及に力を注ぎ、認知症ケアの第一人者としても知られる。「痴呆」から「認知症」への名称変更の際も尽力。2017年に自らの認知症を公表し、社会的反響を呼ぶ。2021年11月13日逝去。享年92。

対策グッズを活用することで見当識障害の介護が楽になる


アルツハイマー型認知症が進行してくると、外出したときに自分が今どこにいるのかわからなくなり、迷子になることがよくあります。そのまま行方不明になってしまうこともあり、警視庁の発表によると2020年に行方不明者として届けられた人のうち、認知症またはその疑いがあった人は1万7565人に上り、この数は年々増加しています。

こうした原因の多くは、記憶障害や見当識障害によるものです。これらは脳の神経細胞が死滅することで脳の機能が障害されて起こってくる「中核症状」に分類されます。なかでも見当識障害が進行すると「場所」の認識ができなくなり、迷子や行方不明のリスクが増大します。

アルツハイマー型認知症の場合、最初は日付、曜日、季節など「時間」にかかわる認識ができなくなり、曜日や時間を間違うだけでなく、季節に合った服装をするのが難しくなります。次に認識できなくなるのが「場所」です。家の中でもトイレの場所がわからず、トイレ以外の場所で排泄することも起こってきます。そして、最後に「人物」について認識できなくなり、家族の顔がわからなくなったり自分と他人の関係を間違えたりします(下表参照)。

アルツハイマー型認知症における見当識障害の特徴


ルツハイマー型認知症における見当識障害の特徴

『よくわかる高齢者の認知症とうつ病』(長谷川和夫・洋 著、中央法規)などを参考に作成

このような症状がいろいろ出てくると、家族や周りの人は振り回されてへとへとに疲れ、「どうしてこんなことをするの」と怒りたくなります。認知症専門医であった和夫さんは「見当識障害が出ると周りの人が大変になる」と家族にかかる負担の大きさをよく指摘していたそうです。

「見当識障害」が進行してくると今いる場所がわからなくなり、迷子になることがよくあります。認識力を失っていることを家族はまず理解したうえで失われた能力を補うための対応や工夫を考えていきましょう。──洋さん


見当識障害に対応する際には、脳の認識力が失われてしまっていることをまず理解することが大切です。そのうえで失われた能力を補うためにどのような対応や工夫をすればよいのかを考えていきましょう。例えば「時間」に対しては時計やカレンダーを使うことが有効です。

父も認知症になってからは日めくりカレンダーで日付と曜日を確認することから1日を始めていました。最近はスマートフォンやタブレットを活用する人も多く、若年性認知症の当事者として情報発信している佐藤雅彦さんは「タブレットは記憶の外付け装置だ」といい、指定時刻に音が鳴るアラーム機能なども上手に使って生活されています。

「場所」に対する見当識障害があると家族は迷子になることをおそれて認知症の人が出かけるのを止めることがしばしばみられますが、和夫さんは無理に止めないことだと説いています。周りには目的もなく出歩いているように見えても認知症の人には出かける理由が必ずあり、それを止められると激しく興奮することがあるからです。

こんな場合は「お茶を一杯飲んでから出かけませんか」とほかのことに注意を向けたり、「ご飯の後ではどう?」と引き留めたりするのもよいでしょう。それでも出かけようとするときは「私も用事があるから途中まで一緒に行きましょう」とついていくのも一案です。迷子になったり事故に遭ったりしないよう誰かが付き添い、見守ることが大切です。

また、人感センサーの設置、補助錠の取り付け、GPS(全地球測位システム)端末や見守りホルダーの携帯、スマートフォンと連動する見守りカメラの利用など徘徊対策グッズの活用は、家族が気づかないうちにフラッと出かけてしまう対策にも有効です。

グッズの中には介護保険の福祉用具貸与サービスの対象になっているものや、自治体が無料で配布しているものもあるので、利用したい場合は地域包括支援センターに問い合わせてみましょう。
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