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金剛龍謹さんが語る、新作能『沖宮』に託されたもの。能だからこそできる表現とは

2022.08.05

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2018年に初演された新作能『沖宮』

2018年に初演された新作能『沖宮』より。緋色の衣を手に持ち、天青の衣を着た天草四郎(金剛龍謹)。撮影/上杉 遥

作者の意図に寄り添いつつさらなる境地を目指す


金剛 初演では最後に登場する役として竜神を設定していましたが、2021年の再演では配役を変更しました。人身御供のあやという少女を包み込むような母性、海の凪ぎに包まれるような表現ができないかと考えて生命の神で母性を象徴する女神・大妣君(おおははぎみ)にし、宝生流宗家の宝生和英さんに演じていただきました。現行の古典の演目の魅力は先人たちの数多の工夫によるもので、石牟礼先生のご遺志をより深く伝えるために『沖宮』という演目を練り上げるべく、こうした試行錯誤が必要だと思ったのです。


志村 竜神ですとあやが生贄になった犠牲的なイメージが強かったのですが、大妣君にしたことで作品に対するイメージが大きく変わりました。再演時の演出変更によって『沖宮』に新たな選択肢が生まれたように思います。

金剛 『沖宮』をよりよい形に創り上げていくことが今後の展望の一つです。例えば囃子は笛、小鼓、大鼓、太鼓という本来の能の楽器で演奏していたのですが、石牟礼先生の原作にオルガンの演奏を取り入れるという記述がありました。そのご遺志を尊重したいと考えています。竹製のオルガンというものがあるので、新しい能の表現を探していきたいと考えています。天草四郎は江戸初期のキリシタンですし、キリスト教と日本古来の神話の神々の融合という意味合いを深く表現できるのではないでしょうか。

志村 17世紀頃に実際に日本で竹のパイプオルガンが製作されていたようです。「天草コレジヨ館」に復元されたものがあります。オルガンと囃子方のコラボレーションはなかなか難しいのですが、やりがいのある挑戦だと思います。

金剛 能管がいちばんはっきりわかりますが、西洋音楽の音階から外れて音楽を作るというのが日本的な感覚だと思います。笛というものは等間隔に穴があればドレミファソラシドという音階が出るのですが、能管は吹き口のところに喉という部分を作って、わざとその音階から音を外していくんです。高音の「ヒシギ」という音を出すための工夫ですが、日本古来の不完全性を愛する美意識が影響しているのかもしれません。西洋音楽的な要素によって、どのような反応が起こるかは予想もつかないです。

志村 私もお能をこれから学ばせていただきますが、やってみないとわからないことってあると思うんです。これは染織の仕事も同じです。自分が体感することで根本的な部分での理解が深まるのではないかと思い、お稽古を始めることにしました。

金剛 歴史上の人物を見ても、豊臣秀吉や徳川家康は鑑賞するだけでなく、自分で演じることも楽しみにしていました。最近は稽古をされているかたの大半は女性でして、女流の能楽師のかたもますます増えるように思います。『沖宮』にもあやという女の子が登場しますが、今後、女性が演じるための演目が増えるのではないでしょうか。女性が参加することで能にも変化が起こると思います。

公演情報
「金剛定期能」
2022年9月25日 13時30分開演
会場:金剛能楽堂
演目:能『山姥 白頭』ほか

「アートキャラバン長崎 ~島原に息づく能~」
2023年1月22日 14時開演
会場:島原文化会館 大ホール
演目:能『沖宮』
金剛能楽堂:075(441)7222

※その他の公演スケジュールは金剛龍謹公式ウェブサイトでご確認ください。
公式サイト:http://www.kongou-net.com/ryumonnokai/

〔特集〕能の世界へ導く「金剛流の魅力」(全3回)

撮影/本誌・坂本正行 構成・文/山下シオン 企画協力/金剛能楽堂、アトリエシムラ、岩崎アキ子

『家庭画報』2022年8月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。
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