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岸惠子さん特別取材「人生、凜として生きる」。5月にまつわる物語

2022.05.27

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太平洋戦争の悲惨を知る私は今、心から祈る


鬱々とした日々に北京オリンピックが始まった。TV画面で、カーリングの日本女性とスイスとの準決勝がたけなわだった。私は見惚れ聞き惚れてしまった。北海道の小さな村から参加したという若い女性たちのなんという明るさ、大声を挙げて氷と格闘する力いっぱいの姿の好さ! えッ? 私はカーリングに恨みがあったはず……。それは娘が9歳の頃、例年通りアルプスのスキー場に行ったのだった。このスキー場には、素晴らしいスケート場やカーリング場があった。雲一つない青空の下、ゲレンデは輝いているのに、娘も夫もカーリングに夢中。スキー板をはく気配もない。

「ママン! 何故やらないの? カーリングは頭脳プレーなのよ」

《頭脳プレー? 9歳の子供が言う言葉かョ》


私は二人を見限って、身の程知らずに危ない山スキーに参加した。

当時のフランスで、山スキーと言えば、スキーの達人数名が1人の指導員のもとに、朝から日暮れまで、ゲレンデを使わず雪深い山に腰までつかって登り、断崖絶壁のような急斜面を滑り降りるのだった。私は最初の絶壁でへなへなと腰が抜けた。30代後半の若かった私はチョットばかりきれいだった。達人たちの私を見る目にあったよそよそしさが、私のへなちょこのスキー術を見てからかいの笑みに変わった。私はだらしなくも、筋肉隆々2メートル近い山男の指導員に、軽々と小脇に抱えられて滑り降りた。このみっともなさのお蔭で、超達人のスキーヤーたちと親しくなれた。

横道にそれた山スキーはめでたく終わり、カーリングに話を戻す。

北京オリンピックの表彰台の上で跳び上がって喜ぶ素敵な日本カーリング選手たちに拍手しながら、「ママン、これは頭脳プレーなのよ」と笑った9歳の娘が懐かしく重なる。その娘が5月には日本へ来たいと言う。またあの書類集めをやるの? やれやれと思うが娘には会いたい。

この原稿を書いている今日2月24日、プーチン露大統領がウクライナに侵攻した。

何たること! 31年前、ウクライナが旧ソヴィエト連邦から独立した1991年に、私はモスクワで、旧ソ連外務大臣のシュワルナゼをインタヴューした。その朝の新聞で、ウクライナが「ソ連邦」から離脱すると知り、話題になったが、番組ではその部分はカットされていた。

露軍ウクライナ侵入という暴挙に、米国やEU、日本はどういう関り方をするのだろうか……。ねがわくは世界を巻き込む戦争という大惨事を招かないように、太平洋戦争の悲惨を知った私は心から祈る。

※『家庭画報』2022年6月号(2022年4月末発売)掲載。この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。


“ 新しい時代の中で、
私は今現在89歳 ”


[特別取材]岸 惠子 人生、凜として生きる

「中東やアフリカの秘境も含め、世界中でいろいろなものを見てきたけれど、これからは祖国ニッポンを巡りたい。知床や屋久島はぜひもう一度行きたいわ」。若い頃と変わらぬ旺盛な好奇心が、岸さんを新たな旅へとかき立てます。




Chronologie

1945年5月29日 12歳
横浜大空襲で被災。“今日で子供はやめる”と決意。

1957年5月1日 24歳
フランス人の映画監督イヴ・シァンピ氏との結婚のため、フランスに到着。

1963年5月23日 30歳
一人娘のデルフィーヌ・麻衣子さん誕生。

1975年5月1日 42歳
イヴ・シァンピ氏と別居。

2000年5月28日 67歳
初孫のロスコー・エリスくん誕生。



初孫のロスコーくんを抱いて。

2021年5月1日 88歳
『岸惠子自伝 卵を割らなければ、オムレツは食べられない』発売(岩波書店)。



家庭画報2011年1月号より、右からデルフィーヌさん、小学生だった孫のジャクソンくん、ロスコーくん。撮影/富田眞光〈vale.〉

岸 惠子(きし・けいこ)

女優、作家。1932年横浜市生まれ。51年映画デビュー。『君の名は』『雪国』『おとうと』などの名作に出演。43年間のパリ生活ではジャーナリストとしても活動。著書に『ベラルーシの林檎』『風が見ていた』『わりなき恋』『愛のかたち』など。2011年にフランス政府より芸術文化勲章コマンドゥールを受勲。17年に菊池寛賞受賞。21年に上梓した『岸惠子自伝』は「映画女優として」「孤独を生きる」など全5部構成で、川端康成や市川 崑らとの交流についても綴られている。

『岸惠子自伝』Amazon販売ページはこちら>>





スペシャルトークショー
『岸 惠子 いまを生きる』開催決定!



「心に浮かぶさまざまを、誕生日を迎える8月に舞台で語りたいと思っています──岸 惠子」
2022年8月12日 神奈川県立音楽堂
2022年8月30日 新宿文化センター 大ホール
6500円(全席指定)

サンライズプロモーション東京
TEL:0570-00-3337(平日12時~15時)





この特集の掲載号
『家庭画報』2022年6月号



『家庭画報』2022年6月号


撮影/KEI OGATA スタイリング/坂本久仁子 ヘア/宮部まさる メイク/石田 伸〈アーツ〉 取材・文/清水千佳子 構成/小松庸子
『家庭画報』2022年6月号掲載。この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。

 
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