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東京藝大で教わる西洋美術の見かた。「手紙を読むイーダ」北欧の不安な絵画を紐解く

2022.03.14

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東京藝大で教わる西洋美術の見かた 最終回 『東京藝大で教わる西洋美術の見かた』(世界文化社刊)から、泰西名画の魅力を紹介する連載。最終回はデンマークの画家、ヴィルヘルム・ハマスホイです。モノトーンで静寂な絵画に漂う「不安」「孤独」は、北欧の画家の多くが得意とする主題でもあったのです。前回の記事はこちら>>

6(最終回).手紙を読むイーダ


佐藤直樹(東京藝術大学准教授)

図1 ヴィルヘルム・ハマスホイ《手紙を読むイーダ》1899 年、油彩、カンヴァス、個人蔵

図1 ヴィルヘルム・ハマスホイ《手紙を読むイーダ》1899年、油彩、カンヴァス、個人蔵

北欧の不安な絵画


ヴィルヘルム・ハマスホイは、1864年にコペンハーゲンの商家に次男として生まれました。幼い頃から素描の才能を示し、8歳から定期的に素描の訓練を受け、15歳になるとコペンハーゲン王立美術アカデミーに入学を許可される早熟の画家でした。

美術アカデミーと同時に画塾「自由研究学校」にも通いました。この画塾は、パリのサロン画家レオン・ボナのアトリエを手本としたものです。パリのボナのアトリエは、北欧の画家たちの重要な拠点の一つでした。

そうしてパリの画風を学んだハマスホイは、美術アカデミー卒業後、その前衛的な活動によって自国よりも外国で高い評価を得ています。この頃の北欧の画家たちは、デンマークを代表する哲学者キルケゴールの『死に至る病』(1849年)で記された「死」によってもたらされる絶望を回避できないという考えに影響を受けていました。

その絶望への不安を、現代都市生活における孤独と不安に重ね合わせていったのです。ノルウェーの画家エドヴァルド・ムンク(1863—1944)やフィンランドの画家ヘレン・シャルフベック(1862—1946)は、現代社会における自分の心理的葛藤を捉えて「死」という主題にも向き合いました。

ハマスホイは、彼らのように「死」を主題としてはいないものの、「不安」や「孤独」という主題を後ろ姿の人物像や誰もいない室内をモノトーンの静寂な雰囲気にまとめあげることでデンマークを代表する画家となりました。

過去の名画からの引用


ハマスホイは、コペンハーゲンのストランゲーゼ30番地にある自宅で、妻のイーダをモデルにして多くの作品を残しました。家具は舞台装置のように最小限に抑え、実際の生活感を排除しています。

《手紙を読むイーダ》(上・図1)は、自宅の食堂を舞台に描かれましたが、食卓の上にコーヒーセットが置かれているものの椅子もなく、団欒とはいえない冷たさが特徴です。テーブルはその脚を3本しか見せておらず、しかも床に消え入ってしまいそうです。ここに、手紙を読むイーダの心境が不安定であることがほのめかされています。

ハマスホイは、同時代のフランスやベルギーの象徴派から影響を受けていますが、同時に過去の巨匠からも学びました。この作品をフェルメールの《手紙を読む青衣の女》(下・図2)と比較してみれば、ハマスホイが17世紀オランダ黄金期の画家を研究したことは明らかでしょう。

図2 ヨハネス・フェルメール《手紙を読む青衣の女》 1663-64 年、油彩、カンヴァス、アムステルダム国立美術館

図2 ヨハネス・フェルメール《手紙を読む青衣の女》 1663-64年、油彩、カンヴァス、アムステルダム国立美術館
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