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六雁が大切にしているオリジナルスイーツ「白いマカロン」。秘伝のレシピを教えます

2022.02.05

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プロよりおいしく作れる 野菜料理の“ちょっとしたコツ”365 身近な野菜で、プロよりおいしい野菜料理を作ってみませんか? 銀座の日本料理店「六雁(むつかり)」の店主・榎園豊治(えのきぞの・とよはる)さんに、家庭だからこそ実践できる“ちょっとしたコツ”を毎日教わります。一覧はこちら>>

ふきのとう味噌マカロン・最中、アイスクリーム


ふきのとう味噌マカロン・最中、アイスクリーム

ふきのとうとりんごを使った白いマカロンを紹介します。白いマカロンは銀座のお土産1位に選ばれたり、テレビや雑誌などでも頻繁に紹介される六雁の名物です。派手な色や強いフレーバーの印象が強いマカロンですが、六雁のマカロンは真っ白で白味噌をベースにした和の風味で、茶席でのご用命も頻繁に承っています。

白いマカロンの誕生には物語があります。今日はそれをお話しさせてください。これまでで最長の文章量になるかもしれません。料理でもなんでもそうですが、最終的には誰がどんな想いで作ったかということに尽きると思います。『プロよりおいしく作れる野菜料理』と銘打った連載ですが、想いと愛が高まれば技術だけが優れたプロを本当に凌ぐものができるという話です。最後までお付き合いいただければ幸いです。


ある日、1人の女の子からメールが届きました。当時、私が書いていたブログを見て六雁に興味を持ち、通っていた自由学園という学校と六雁の空気感が似ていると感じたそうです。何回かメールのやり取りをしているうちに、彼女は六雁で料理の勉強がしたいと言いだし、六雁にやってきました。自分の想いを伝えようと一生懸命に話をしてくれました。光を放つ人でしたが、私は正直、無理だと思いました。料理人の仕事は体力と根性勝負で、男性でも逃げ出す人が多いのです。

私は彼女があきらめるような方向で話をしました。仕事の厳しさやつらさ、女性だからといって手加減できないことなど、手を替え品を替え話をしましたが、「全力で頑張ります」と笑顔で答えます。口先だけで言っているのではないことは十分伝わってきます。

私はう~んと息を吐き、「いったい、君は何がしたいの? 君が体力の限界まで頑張ったとしても、多分、一人前にはなれないと思う。その可能性のほうが高いと、私はさっきから正直に伝えている。だけど、君はそれでもいいからやりたいって言う。君は若いし、器量もいい。今の君の目の前には無限の可能性があるんだよ。つらいと最初からわかっている世界に何も自ら入って、ボロボロにならなくても……。それでもこの世界に入らなければならない理由でもあるの?」

彼女ははっきりと答えました。「私は人を喜ばせたいんです! 料理ができるようになったら“人を喜ばせる”ことができます。もし、一人前の料理人になれなかったとしても、私は日に3度、料理を作って家族を喜ばせることができるようになれます」

私は言葉が出ませんでした。一流の料理人になりたい、自分の店を持ちたい、面接では聞き飽きたフレーズです。しかし、“人を喜ばせたい”は初めて聞く言葉でした。私の心を打ちました。若い頃の私は、自分が一番になるために修業に励みました。自分のために料理をしていました。自分のためですからどんな苦労でもできました。ところが、目の前にいる当時の私と同じくらいの年齢の女の子は“人を喜ばせたい”、そのために苦労したいと言っているのです。衝撃でした。私は、しばらくして、「わかった。今日は君に勉強させてもらった。長い間、忘れていた感情が蘇ってきたよ。ありがとう」。彼女は、こうして六雁の仲間になったのです。

彼女は先輩たちに支えられながらも、朝早くから晩遅くまで本当によく頑張りました。出勤前に先輩に築地に連れて行ってもらい、魚の勉強もしていました。休みの日も自主練習で朝から出てきて、かつらむきや魚の下処理の練習、まかないの準備をしていました。

しかし、やはり続きませんでした。体が悲鳴を上げ出しました。気力で体を支えていましたがとうとう立っていられなくなりました。病院に通い、なんとか急場をしのいだかに見えましたが、それを何度も繰り返してしまいます。

そして、とうとう、ドクターストップがかかりました。私は彼女を辞めさせるつもりでした。彼女のために。彼女の人生全体に関わる問題です。仕事は他にいくらでもありますし、その仕事で人を喜ばせることもできるはずです。彼女が私の前に座り、私は切り出しました。「どうする?」何も答えません。「君は本当によく頑張ったと思うよ。見上げたもんだ。君がごま豆腐用のごまをすり鉢ですっているときに、私に言った言葉一生忘れないよ。ごまをすりながらぶつぶつ言ってるから、『何か不満でもあるの?』と聞いたら、『私は腕がないから、おいしくなれ、おいしくなれって言いながら、念を込めてるんです』って答えたよね。俺にとっては電撃が走るような言葉だったよ。そう言えば、俺も昔は……ってね。料理がわかってきて、腕がつき始めると、気持ちではなく、腕で料理を作っちゃうんだよ。一生懸命やってはいるんだけど、最初の頃ほどの想いが入っていない。君はいつも私に大事なことを思い出させてくれる素晴らしい仲間だったよ」

彼女は私の意図を汲み取り、ボロボロと涙を流し始めました。「この仕事だけがすべてじゃないよ。君はまだ若いし……。まずは体だよ。大事にしなきゃ。自分の体を、人生を……」。私の言葉をさえぎるように、彼女は泣きながら口を開きました。「嫌です。辞めません」「君の気持ちはわかるけど、体が…」「嫌です! 私はまだ誰も喜ばせていない。自分の料理で誰も喜ばせていない」。もう声になりません。号泣し始めました。

感情の高ぶりが鎮まるのを待っていると、さらに続けます。「それだけじゃないんです。先輩たちが皆、私を支えてくれたのに……。だから、頑張るって約束したのに……、約束も果たしてない」「でも、体を大事にしなきゃ。六雁を辞めても、皆、君の仲間だよ。いつでも来れるじゃん。皆もわかってくれるし、君が元気になることを望んでるんだよ」

彼女は首を振り泣き続けます。私は泣いている彼女をしばらく見つめていました。私が何かを求められている。私の役割は? 私がなすべきことは? 師として、人生の先輩として、縁をいただいた人間として。

どれくらい時間がたったでしょう。彼女のすすり泣きが止まりました。私のほうを見た真っ赤に腫(は)れたその目からは気が抜けていました。私に何かを伝えるつもりなのか、口を開こうとしました。その言葉を言わせていいのか? 一瞬の判断でした。先に私が口を開きます。「君は一人前の料理人にはなれないと思う。日本料理のすべての技術を身につけるのはその体力では不可能だ」。彼女は力なくうなずきます。「でも、君は六雁にとってなくてはならない仲間だ! お客さまを喜ばせるということに関しては、君は誰もが認める一番だ!」。彼女の顔に光が戻ってきました。「いいか! 料理全部をマスターしなくてもいい。その代わり、料理の中の1つの分野にとことん特化しろ! 誰にも負けないくらいにピカピカになれ。その分野で、お客さまを喜ばせるんだ!」

彼女は、顔を上げて「はい!」と答えました。「じゃあ、君は料理のどの分野で人を喜ばせるんだ?」「はい、私はデザートをやらせていただきます。どこにも負けないデザートを作ってお客さまに喜んでいただき、六雁に貢献し、皆との約束を果たします」。きっぱり言い切りました。

それから、体力を取り戻し、彼女は急速にプロになっていきました。プロになればなるほど体の不調も治まってくるのです。心と体はつながっているのです。そして、あるきっかけから「白いマカロン」ができ上がりました。料理屋にいるパティシエだからできる新しい和菓子の世界の始まりでした。取材が次々と来るようになり、マカロンだけでなく彼女の作り出すお菓子の評判は広がり、有名になっていきました。老舗の和菓子職人さんとコラボレーションをしたり、25歳にして自分のお菓子の本も出版するまでに成長したのでした。

最後まで長い文章にお付き合いいただいた読者の皆さまに感謝します。もう10年以上前の話ですが、文章を書きながら当時を思い出し涙が浮かびました。“人を喜ばせる”、家族を喜ばせる野菜料理を楽しみましょう。


ちょっとしたコツ


「ふきのとう味噌マカロン・最中」は、野菜料理をおいしくする7要素中6要素を取り入れている。

◎旨み ◎塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り 刺激

ふきのとうは鮮度が重要。摘んだ後は時間の経過とともにあくが強くなる。根元の切り口が黒ずんでいないものを選ぶ

・葉が開いてくるとだんだん苦みが強くなってくるので、つぼみが閉じた小ぶりなものを選び、油で揚げたり炒めたりという下処理をして用いる

・「ふきのとうアイスクリーム」は、野菜料理をおいしくする7要素中5要素を取り入れている。

◎旨み 塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り 刺激

油分には苦みやえぐみを感じにくくする働きがあるが、多過ぎると風味が感じにくくなる。アイスクリームには油脂が多く含まれるため、ふきのとうの風味が消えないようバランスよく合わせる

・りんごの酸味とドライりんごの甘みが、ふきのとうの苦みと相まって互いを引き立ておいしくする。







「ふきのとう味噌マカロン(左)・最中(右)」


ふきのとう味噌マカロン・最中、アイスクリーム

【材料(3人分)】
・マカロンラスク(フレーバーが使われていない市販品) 6個

・最中の皮(市販品) 6枚

・ふきのとうとりんごの味噌 適量
作りやすい分量:ふきのとう1個(8g)、揚げ油適量、西京味噌20g、ドライりんご2g

・りんご(紅玉) 適量

【作り方】
1.ふきのとうはつぼみを包む外葉が閉じている状態でぬれ布巾で拭いて、汚れを取り除く。一番外の葉が堅いようであれば除き、柔らかめの外葉を3枚ほど取り分けておく。

2.フライパンに揚げ油を入れて160℃に熱する。ふきのとうを入れて外葉がカリッとなるまで素揚げする。油から上げてクッキングペーパーで包んで手で握り、余分な油を除く。

3.柔らかい外葉3枚を2と同じように油で素揚げにして、クッキングペーパーに広げ余分な油を除く。

4.ドライりんごは米粒の2倍ほどの大きさに切る。りんごは皮付きのまま6mm角に切る。

5.2のふきのとうをみじん切りにして、再度クッキングペーパーで包んで握り、油を除いてボウルに入れる。西京味噌とドライりんごを加えてよく混ぜる。

6.マカロンラスクの片方に5の味噌を好みの量塗り、素揚げした外葉を1枚のせてもう一方のマカロンを合わせる。

7.最中の皮をオーブントースターでこんがり焼く。対の最中の皮の一方に5の味噌を好みの量はさんでりんごをのせ、他方の最中の皮を合わせる。

「ふきのとうアイスクリーム」


ふきのとう味噌マカロン・最中、アイスクリーム

【材料(2〜3人分)】
・バニラアイスクリーム(市販品) 100g

・ふきのとう 1.5個(10g)

・揚げ油 適量

・ドライりんご 10g

・りんご(紅玉) 適量

【作り方】
1.アイスクリームは少し柔らかくしておく。

2.ふきのとうの下処理は「ふきのとう味噌マカロン・最中」の1〜2と同じ。

3.ドライりんごは米粒の2倍くらいの大きさに切る。りんごは皮付きのまま1.5cm長さのせん切りにする。

4.ふきのとうをみじん切りにして、再度クッキングペーパーで包んで握り、油を除いてボウルに入れる。ドライりんごと1を加えて混ぜ、冷凍庫に入れる。

5.程よい堅さになったら、スプーン2本を使って成形して器に盛り、上にりんごのせん切りをトッピングする。

私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。

六雁(むつかり)

榎園豊治さんプロフィール
銀座並木通りにある日本料理店「六雁」初代料理長であり、この連載の筆者でもある榎園豊治さんは、京都、大阪の料亭・割烹で修業を積み、大津大谷「月心寺」の村瀬明道尼に料理の心を学ぶ。その後、多くの日本料理店で料理長を歴任、平成16年に銀座に「六雁」を立ち上げた。野菜を中心としたコース料理に定評がある。

六雁 むつかり

東京都中央区銀座5-5-19
銀座ポニーグループビル6/7F
電話 03-5568-6266
営業時間 (夜)17時30分~23時 ※土曜日のみ17時~
(営業時間は変更になることもあります。事前に店舗にご確認ください)
URL:http://www.mutsukari.com

六雁 むつかり 料理長、秋山能久(あきやま・よしひさ)さん。連載でご紹介する料理を手がけてくださる、現料理長・秋山能久(あきやま・よしひさ)さん。
文/榎園豊治 撮影/大見謝星斗
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