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他人を思いやる気持ちは、自分自身に優しさを向けることから生まれる

2021.11.12

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「利他」は誰もが持っている美徳。瞑想がそれに気づかせてくれる


ブッダは書物に拠らず、目の前で苦しむ一人一人に合わせた自らの言葉で教えを説きました。これを「対機説法」といいます。実は対機説法は、私自身が診療の中で常に心掛けている信念でもあります。

教科書的な一般論や治療法を説明して終わりではなく、そのうえで「あなたの場合はこういうことも苦しみの原因かもしれません。それはこういう方法で手放せるのではないでしょうか」と一人一人の症状や状況に合わせた治療法を、相手に合わせた話し方で提案するのです。このとき薬による治療以外に、マインドフルネスという選択肢を提供できることを私自身本当にありがたく感じています。

私は、患者さんの多くがマインドフルネスの瞑想習慣によって自利の心を育み、苦しみから解放されると同時に「人の役に立ちたい、誰かを助けたい」という利他の心が自然に湧き上がり行動に移される例を数多く見てきました。ご自身が自然にそのように変化していくのです。


なぜそれが可能なのか、私はこう考えています。――人間は誰もが利他の心を持って生まれてきている。しかし疲弊した心ではそれに気づけない。マインドフルネスの習慣で気づきの力が高まることによって利他の心が目覚めたのです。

「自利」の心が身につけば罪悪感は感謝にも変わる


さらに自利は、罪悪感を感謝に変えることができます。「周りに迷惑をかけて申し訳ない」と考えるのはうつの方によく見られる傾向ですが、私は患者さんに「その罪悪感は、治療すれば感謝に変わるはずです。今の気持ちを否定しなくていいのです」と伝えます。

罪悪感と感謝は表裏一体。どちらが表に出るかは自利の心次第。自分に優しくなれると、思うように仕事や家事ができない自分を責める気持ちが、自分を休ませてくれる同僚や家族への感謝に変わっていくのです。

そしてあなたの変化は周りの人を変えていきます。自らの自利が他者への利他と感謝を生み、周囲に伝播し世の中に広がる――。その出発点である自利の心は誰でもいつからでも育めるということを、私は多くの方に伝えたいのです。




今月のキーワード「抜苦与楽」

あらゆる人や動物の苦しみを取り除き、安楽を与えるという仏教の根源的精神である「慈悲」を説いた言葉。これと似た言葉「応病与薬」は、医師が患者の病気に合わせて薬を与えるように、仏が教えを受ける人の置かれた状況や性質に合わせて法を説くことを意味する。
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