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日本の美意識が生み出した「香道」。女優・安藤サクラさんが聞香を初体験!

2021.11.02

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香りはあなたの力になる 第1回(全9回) 目には見えず形をもたないにもかかわらず、ときに感情を揺さぶり、記憶を鮮明に呼び覚ます「香り」。今という時代にふさわしいのは心に語りかけるような、ときに癒やし、ときに力強く背中を押してくれるものです。今回、女優の安藤サクラさんと訪ねたのは3人の香りのプロフェッショナル。深く知ることで、明日をより輝かせてくれる香りと出会ってみませんか。

[Part1] 女優・安藤サクラさんが香りを知る3日間


安藤サクラさん

立涌唐草文きもの/シルクラブ 帯、帯揚げ、帯締め/スタイリスト私物

安藤サクラ(あんどう・さくら)

2007年女優デビュー。映画『百円の恋』、NHK連続テレビ小説『まんぷく』ほか数々の作品に出演。2018年『万引き家族』で、2度目の日本アカデミー賞最優秀主演女優賞を受賞。映画『ある男』が2022年全国公開予定。

【1日目】 香りの本質を知る
訪ねた人 志野流香道 若宗匠 蜂谷宗苾さん


安藤サクラさんと蜂谷宗苾さ

香元は香木の最高の香りを引き出すため、日々聞香と稽古を繰り返し、自然界の声に心を傾けます。安藤さんは、心静かに香りが生まれる時間を待ちます。

蜂谷宗苾(はちや・そうひつ)
志野流二十世家元の嫡男、二十一代目家元継承者。香木を後世に遺していくため植林活動を行いつつ、世界を香りで一つにつなぐプロジェクトを積極的に行う。文化庁海外文化交流使。2022年5月、増上寺で名香「蘭奢待」献香式を予定。

香木は大切なメッセージを届ける地球からの贈り物


日本ならではの繊細な感性や美意識が生み出した「香道」。香りを探求する手がかりとして、500年の歴史をもつ志野流の若宗匠、蜂谷宗苾さんのもとを訪れ、初めての聞香を体験した安藤サクラさん。

「想像以上に優しく、自分の中に入り込む香りだと感じました」とひとこと。香りの源流から、私たちは何を学べるのか、宗苾さんにうかがいました。

「都の花」と付銘した伽羅

志野流香道十九世家元の幽求斎宗由氏が、「都の花」と付銘した伽羅。「初代から500年以上にわたり代々伝わる香木は、家木(かぼく)として大切に扱われます。その香木と日々向き合う。大好きだった祖父とも香りを通していつも会話をしています」と志野流若宗匠の蜂谷宗苾さんは話します。

「香りを通じて、自然や地球の声を “聞く”。目に見えないものを感じることは、精神を高めることにつながります」──宗苾さん

「香道は室町時代、11年に及ぶ応仁の乱で荒廃した京都で、まるで泥の中から蓮が花開くように誕生しました。今また、世界中が混沌とした状況にある中で、人間が本能的な感覚を取り戻し、生きるうえで何が大切なのかということに香道は気づかせてくれるでしょう」

そんな言葉に、「顔の中心にある鼻、そして嗅覚は生きていくために必要なセンサーなのかもしれません」と気づきを得た安藤さん。さらに宗苾さんは「香木は地球がくれた宝物」だと続けます。

「香木は東南アジアの自然の中で、100年以上をかけて大地のエネルギーを吸い込んで作られます。その香りを体内に取り入れることで、心が整う。また香木は、多くのメッセージも届けてくれます。香の道が何なのかをずっと父の後ろ姿を見ながら悩み考えてきましたが、最後は人間性や精神性を高めていくことが何より大事なのだと気づかされました」

聞香炉

聞香炉の灰作りには、繊細な感覚と技術が必要。頂の高さが1ミリ変わっても、香り立ちが違ってくるのだとか。香木を銀葉にのせれば、お香を聞く準備が整います。

繊細な香りを感じる習慣をもつことで、嗅覚を磨く


ではなぜ、香道では香りを「聞く」というのでしょうか。

「お釈迦様の一生にも多くの香料が登場しますが、法華経の中に聞香の文字が出てきます。中国では“聞”の漢字の中には“嗅ぐ”を含めた五感で感じ取るという意味が含まれていると耳にしたことがあります。私の中では、嗅覚は確かに使うのですが、最後は心で自然の叡智の声を聞くのではと考えています。香木は大地から宇宙へとつながっていて、自分もその一部ですから、気持ちを込めて灰手前をすると、それが香木にきちんと伝わり、いつも以上に芳香を漂わせてくれます」

香道のお道具

主役は香りで、お道具は簡素に。香を入れる志野袋の紐は、季節感あふれる紅葉を象ったもの。小宇宙を感じる香炉の灰には、陰陽五行を表す「木火土金水」の50本の線が刻まれています。

「自然の中に存在する香りには、人のセンサーを整えてくれる作用があるのですね」──安藤さん

作為的で無機的な香りが世の中にあふれている今、自然界の香りを感じ取る、日本人本来の繊細な感性を今一度磨いて、ご自身の心を高めていただけたら、と語る宗苾さんに、「こういうお話は何時間でもうかがっていたいです」と安藤さん。

「今回、香道で学ばせていただいたのは、香りは何かをアピールするものではなく、内側で感じ、自分と向き合うために存在するということ。昔から焚きしめるという慣習があるように、ほのかな香りに思いをのせて手紙などを届けられたら素敵ですね」
撮影/浅井佳代子 ヘア/西村浩一〈VOW-VOW〉 メイク/村松朋広〈関川事務所〉 スタイリング/清野恵里(安藤さんきもの) 着付け/石山美津江 取材・文/巽 香

『家庭画報』2021年11月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。
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