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料理人のおもてなしの心が生んだ豆腐料理。揚げ方にちょっとしたコツがあります

2021.10.09

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プロよりおいしく作れる 野菜料理の“ちょっとしたコツ”365 身近な野菜で、プロよりおいしい野菜料理を作ってみませんか? 銀座の日本料理店「六雁(むつかり)」の店主・榎園豊治(えのきぞの・とよはる)さんに、家庭だからこそ実践できる“ちょっとしたコツ”を毎日教わります。一覧はこちら>>

東坡豆腐(とうばどうふ)


東坡豆腐(とうばどうふ)

今日は秋にぴったりの豆腐料理、「東坡豆腐」を紹介します。聞きなれない名前かもしれません。東坡豆腐はご存じなくても、豚の角煮の別名「東坡肉(トンポーロー)」だったらお聞きになったことがあるでしょう。一説では、その生みの親ともいわれるのが中国・北宋時代の政治家であり、詩人、書家でもあった蘇軾(そしょく)です。料理の名前は彼の号である「蘇東坡」(そとうば)に由来するとされます。

蘇東坡は各地の知事を歴任し、今でいう文部大臣にまで出世しましたが、後に左遷の憂き目に遭い、投獄、流罪となります。無類の美食家であったともされ、そんな彼が流された地で考案したという説があるのが東坡肉です。東坡豆腐はそんな美食家・蘇東坡にあやかってその名をとった豆腐料理になります。


東坡豆腐には忘れられない思い出があります。若い頃、関西の某名料亭で勉強させていただいたとき、著名な企業家で美食家でもあった顧客が来店され、コース料理が進んでいました。ところが、その方の皿には食べ残しが何回か続きました。女将が気づいて口に合わないかと聞くと、連日、接待続きで食べるのがつらいとのこと。そのことが調理場に伝えられると、主人はすぐに近所の豆腐屋に若い者を走らせました。そして、あらかじめ決まっていた献立をひっくり返し、メインゲストであったその方のために「東坡豆腐」を急遽作りました。大絶賛で、おかわりが所望されました。

単純な冷ややっこではなく東坡豆腐であるところがミソです。何気ない、しかし工夫された料理が美食に飽きた客を口福にさせたのです。主人の機転を眼の前で見て、おいしい料理とは食べる人の、その時の状況によって変わり、それも踏まえて満足させるのが料理人だということを学びました。

心を用いる“心用"の料理が信用を培う。そんな料理を作れるように、今日も野菜料理を楽しみましょう。


ちょっとしたコツ


・「東坡豆腐」は、野菜料理をおいしくする7要素中7要素を取り入れている。

◎旨み ◎塩分 ◎甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り ◎刺激

素揚げする際は、200℃の高温にして一気に揚げて色をつける。油温が低いと揚がるのに時間がかかり、豆腐にすが立つ。

油をかき回して油流を作った後に豆腐を入れる。そのまま入れると鍋底に豆腐がくっつく。

・揚げた豆腐を炊くときも、強火で炊いたり、加熱し過ぎないように。







「東坡豆腐」


東坡豆腐(とうばどうふ)

【材料(2人分)】
・絹ごし豆腐 1丁

・揚げ油 適量

・出汁 300cc
かつお節と昆布の出汁でも、ベジタリアン用は昆布出汁でもよい

・塩 1g

・薄口醤油 小さじ2

・みりん 小さじ1

・おろし生姜 適量

【作り方】
1.絹ごし豆腐を好みの大きさに切る。写真のような丸形にしたければ、茶筒の蓋や丸型のセルクルなどで抜く。表面の水分を除くため、乾いた布巾などで上下から挟んで5分ほどおく。

2.深めの鍋に最低でも5cmほどの深さになるように揚げ油を入れ、200℃に熱する。箸や網さじで油をぐるぐると何度も回して油流を作る。そこに1の豆腐を1つずつ入れて一気にきつね色に揚げる。揚がったら、油より上げてそのまま水の中に放して余分な油分を流す。

3.油を流した豆腐を水から上げ、乾いた布巾で上下から優しく挟んで水分を除く。鍋に出汁を注いで火にかけ豆腐を入れる。調味料を加えて炊き、90℃くらいになったら火を弱めて沸かさないように静かに6~7分炊いて火から下ろし、20分ほど味を含ませる。

4.温め直して器に盛り、煮汁も少しはる。おろし生姜を添えて供する。添えるのは刻み柚子でもよい。

私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。

六雁(むつかり)

榎園豊治さんプロフィール
銀座並木通りにある日本料理店「六雁」初代料理長であり、この連載の筆者でもある榎園豊治さんは、京都、大阪の料亭・割烹で修業を積み、大津大谷「月心寺」の村瀬明道尼に料理の心を学ぶ。その後、多くの日本料理店で料理長を歴任、平成16年に銀座に「六雁」を立ち上げた。野菜を中心としたコース料理に定評がある。

六雁 むつかり

東京都中央区銀座5-5-19
銀座ポニーグループビル6/7F
電話 03-5568-6266
営業時間 (昼)12時~14時 (夜)17時30分~23時 ※土曜日のみ17時~
(営業時間は変更になることもあります。事前に店舗にご確認ください)
URL:http://www.mutsukari.com

六雁 むつかり 料理長、秋山能久(あきやま・よしひさ)さん。連載でご紹介する料理を手がけてくださる、現料理長・秋山能久(あきやま・よしひさ)さん。
文/榎園豊治 撮影/大見謝星斗
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