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桜木紫乃さんが描く愛と笑いの人間ドラマ。小説『俺と師匠とブルーボーイとストリッパー』

2021.05.27

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〔今月の本/小説〕
『俺と師匠とブルーボーイとストリッパー』桜木紫乃 著

桜木紫乃さん

桜木紫乃
1965年北海道釧路市出身。2013年に『ラブレス』で島清恋愛文学賞、『ホテルローヤル』で直木賞、20年に『家族じまい』で中央公論文芸賞を受賞。近著に『緋の河』、『いつかあなたを わすれても』など。

不器用な4人ゆえの、愛と笑いの人間ドラマ


「数年前、大竹まことさんのラジオ番組に呼んでいただいたとき、釧路の話になったんです。大竹さんが“昔、地方営業で釧路に行ったときのメンバーが、俺と師匠とブルーボーイとストリッパーで”とおっしゃって。その瞬間“大竹さん、それタイトルです、私いただいてもいいですか”って(笑)。俺と師匠はさておき、ブルーボーイとストリッパーで昭和50年の釧路といえば、私しか書く人はいないと、自信というよりは、他の誰かに書かせたくないと思ったんです」と、本書誕生のきっかけを語る桜木紫乃さん。


ギャンブルに溺れる父と、そんな父と居続ける母のもとを離れ、寮・まかない付きの大箱キャバレー「パラダイス」で働く20歳の章介。

師走のかき入れ時に店に来たショーの出演者は、惹句(じゃっく)からはかけ離れたマジシャン、シャンソン歌手、踊り子という3人組。

だが、日本全国を渡り歩く根なし草の彼らの懐は深く、不意に始まったボロアパートでの4人の同居生活は、坦々とした章介の日々に変化をもたらす。

「私自身、プランを立てて小説を書いていたわけではなく、明日は何が起きるだろうと思いながら、夜寝て、朝起きては彼らに会いに寮やパラダイスに行っていたんです。師匠が、シャネルが、ひとみが何をいうか、何をするかわからないけれど、この状況なら4人でひとつの鍋をつついてラーメンを食べているだろうとか(笑)。今となっては、あの密な食事は最高の贅沢になりました」

桜木さんがそう話すように、芸人の、ステージ上のハレの姿だけでなく、舞台を離れた彼らの日常を細やかに描写している点も、本書の魅力だ。

当時、漁獲高日本一で、炭鉱やパルプ産業でも栄えた港町・釧路。だが、昭和50年の釧路はちょうど膨らみきって、後はゆっくりしぼんでゆく時期だったんです、と桜木さんはいう。

「石炭は石油に押され、パルプの生産量も減り、200海里も決まっていて。下り坂に入っているのに、あまり危機感を持たず、享楽的に生きている。私の父もそうですけど、自分の周りにいるのは章介の父のようなギャンブラー的な人ばかりでしたから(笑)」

今、この瞬間を謳歌して生きる、そんな酸いも甘いも嚙み分けた3人と章介の濃密な日々が胸に残る......パラダイスを舞台に、当時の釧路の気配を描いた本作は“ステージの上にも下にも物語はあるんです”という桜木さんの4人への愛に満ちた作品である。

「非常にライブ感のある執筆時間だったので、私が楽しんでいたことが、読者のかたにも伝われば嬉しいですね」

『俺と師匠とブルーボーイとストリッパー』

『俺と師匠とブルーボーイとストリッパー』桜木紫乃 著/KADOKAWA

上下階合わせて約300席の大箱キャバレー「パラダイス」。20歳の章介が働くこの店に、師走に入り、新たなショーの出演者が現れる。“世界的有名マジシャン”“シャンソン界の大御所”“今世紀最大級の踊り子”。

そんな触れ込みからかけ離れた3人は、章介が暮らす寮という名のボロアパートで同居を始める。昼夜、顔を突き合わせ寝食をともにし、章介が部屋に放置していた父の遺骨をお墓に納め、大晦日には朝まで酒盛りする。笑いに満ちた日々のなかで事件が起きて......。

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取材・構成・文/塚田恭子 撮影/原田直樹

『家庭画報』2021年6月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。
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