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松田青子さんに聞く、小説・翻訳との向き合い方と自選の書3冊

2021.05.18

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中学生の頃の将来の夢は、小説家か翻訳家


――書くこと、読むことは子どもの頃から好きだったのですか。

書いてはいませんでしたが、小さい頃から本を読むことは本当に好きでした。わりと身体が弱くて、引っ込み思案なタイプで、母がすごく本を読んでくれる人だったんです。何が好きって本が好き、友達はいなくても本がいる、みたいな感じでした。

たしか中学校の文集か何かで、将来の夢として小説家か翻訳家と書いていて……。


――どちらにもなることができたという。

そうですね。児童文学は海外から入ってくるものが多かったので、読んでいたことで早くから、海外のものに触れていたと思います。これはよその国の話で、翻訳されていること、この本を訳しているのは〇〇さんという人だとか、そういうことにも早くから気づいていたので、翻訳という職業に憧れたのかもしれません。

――どんな作品を読んでいたのですか。

石井桃子さんがすごく好きでしたね。松谷みよ子さんの『龍の子太郎』や『ちいさいモモちゃん』、『メアリー・ポピンズ』や『長くつ下のピッピ』のシリーズも大好きでした。

小さいときは、『龍の子太郎』と『ちいさいモモちゃん』が同じ作者の作品だと気にしていなかったのですが、大人になってから、見事に同じ人の作品が好きだったことに改めて気づきました。児童文学から受けた影響は大きくて。自分の作品の核の部分には児童文学があるなと感じています。

松田青子(まつだあおこ)さん

――小説を書くことと翻訳は、松田さんにとってそれぞれどういう作業なのでしょうか。

本当にざっくりいうと、どちらも誰かの声を聴く作業をしているという意味では、すごく似ています。ただ、取り組み方が違うというのでしょうか。翻訳は、時間も労力もかかってめちゃくちゃ大変ですけど、自分の好きな作家の作品で、面白いとわかっているテキストがそこにあるという安心感があります。

もちろん作者へのリスペクトがあるので、作品の素晴らしさをしっかりと伝えたいという使命感は常に感じていますが、ただ、私の場合、自分の好きな本しか翻訳していないので、その点ではすごく楽しいですし、カチッと合う言葉が見つかるとパズルがハマるときのような心地よさもあって、翻訳はやめられないですね。

――小説の場合はどうなのでしょう。

翻訳と違って目の前にテキストはないので、ちゃんと書けるかどうかという不安やしんどさはあります。書けない日、進まない日、なかなか作品に入っていけない日もあって、そういうことが書く上でいちばんしんどいところですが、書き出すことができれば翻訳よりも自由にできる部分は多いので、その点は楽かな、と。

――翻訳も小説も、誰かの声を聴くこと、が大切なことだ、と。

そうですね。自分は小説を書きながら、これが私の文学だ!というようなことを思ったことがないです。きっとどこかにいるに違いない誰かの声を受信するようなかたちで書きたいし、書いていると、おのずとそういう感じになります。

自分が何をどう聴き取るか、それをどう文字に起こしていくかという話なので、その意味でも翻訳と近いです。どちらも楽しいし、しんどいけれど、しんどさの質が違うのだと思います。

「おじさん」とおばちゃん


――誰かの声を聴くように、好きな、共感できる本や映像なども、作品に反映されているのでしょうか。

メディアやニュースもそうですけど、生活のなかで見たり、感じたりしたものは全部、情報として自分に残ります。ただ生活しているだけでも、変なこと、気になることはたくさん起こるじゃないですか。

一見、別々に起きているように見えるけれど、自分が違和感を覚える何かと何かはどこかでつながっていたりするので、そこに通底するものを書けたらと思いますね。

今、私たちはものすごい情報量のなかで生きているし、新しい世代はそういう状況下で育っています。以前はなかった動画配信サービスで海外のドラマを見たり、YouTuberのほうが人気だったりと、時代の流れのなかで、情報の摂取方法も、摂取する情報自体のバリエーションも増えています。

――デバイスもソフトも、どんどん増えていて。

それぞれの人が摂取するものは違うけれど、とにかくいろいろなものを摂取し続けている。ただ、人は本当に千差万別なので、私は、他の人たちが摂取しているものを体感できません。できるのは自分が体感できることを書くことで、そこは意識しています。自分が毎日生活し、体感していることと、どこかの誰かの声が混じり合って、作品になっているような気がします。

『おばちゃんたちのいるところ』については、「おばちゃん」と呼ばれる年齢層を主人公にした物語が少ないことが気になって。ドラマの主人公=若い世代で、ある程度年齢を重ねた女性が主人公といえば、いきなり『家政婦は見た!』みたいな(笑)

――たしかに(笑)。

自分たちの話だと、実感できる物語はすごく少ない。そもそも「おばちゃん」って女性扱いされていなくて、まるで別の生き物みたいに、カッコで括られている。

『持続可能な魂の利用』では、おじさんを「おじさん」にすることで日本社会を問いたかったのですが、先に書いた『おばちゃんたちのいるところ』では、「おばちゃん」からカッコを外したかった。本来の、笑ったり、怒ったりして日々を生きている女性たちの姿を描きたかった。

あと、「おばちゃん」という言葉がタイトルに入っている本を自分は見かけたことがなかったので、タイトルに入れようと思いました。
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