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海外でも注目される作家・松田青子さんが語る、小説のつくり方と最新短編集

2021.05.11

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小説の結末は自分でもわからない


――小説を読んでいると、違和感が書くことの原動力になっているのかなと、感じるのですが。

そうですね。すごく違和感を覚えるほうで、本当にいろいろ思ってしまいます。違和感にはネガティブ・ポジティブの両方あって、まず気になるのは変さ、“何、これ?”という面白さで、そこからなぜこういう現象が起きているのか、この言葉が生まれたのか、考えながら書いています。

私はこうだろうという結論ありきで小説を書いていないので、書き出したものの、最後どうなるかわからない状態で書いていることのほうが多いですね。


松田青子(まつだあおこ)さん

――読んでいても、そんな印象を受けます。

去年『おばちゃんたちのいるところ』が英米で翻訳されたのですが、書評で「ジャズセッションのようだ」と書かれていて、おそらく私のその書き方が伝わっているのだなと感じました。

日本で刊行された際に、元の落語や歌舞伎を知らない方もいて、それでも面白いと言っていただけたのでホッとしたのですが、英米でも日本での反応とほとんど変わりがなくて驚きました。元ネタを知らない海外の人にとって、日本の伝統的な昔話はさらに馴染みがないだろうし、とっつきにくいかもしれないと思っていたのに、書評や感想で「共感できる」と多く書かれていました。

――昔話で描かれる女性の扱いに対して松田さんが感じた違和感を、ちょっとひねって、ご自身が納得できるかたちに落とし込んでいる。そこに反応したのではないでしょうか。

元ネタはわからなくても、ツイストをかけていることは伝わるんでしょうね。海外の文学イベントに参加した際に話した方たちからも、特に性差別について書いたものについては必ず“自分の国も一緒だよ”という感想を聞きます。すごくユニバーサルというか、どこも根源的には一緒で、そういう部分でつながっているんだと思います。

――今回の短編集に収録された「物語」は、紋切型なるものへの痛烈なパンチでした。

この短編集をつくるとき、いちばん心配だったのが「物語」でした。2014年に書いた作品で、内容の時事的な部分はアップデートされやすいので、かなり書き直さないと収録できないのでは、と思っていたんです。でも、読み返したら、今も状況はほとんど変わっていないことに逆にショックを受けました。

日本社会では、“おしとやか”“男性を立てる”といった理想の女性像が、現実でもフィクションの中でも強く投影されています。2014年頃にはSNSがだいぶ一般的になっていて、物事が消費され、物語化されるスピードに驚きました。

SNSによって、これまで声を上げられなかった人たちが個人的なことを書けるようになり、問題が可視化されたのはよいことだと思います。ただ、何でも消費されてしまうという側面もあって。SNSがないときには見えなかっただけで、実は多くの人が思っていたことが可視化されたことが、自分にとって大きな衝撃だったので、この作品を書きました。

松田青子(まつだあおこ)『男の子になりたかった女の子になりたかった女の子』 

――『持続可能な魂の利用』も、カッコつきの「おじさん」でした。

カッコをつけると、その言葉を一度問い直すことができると思います。「物語」は手垢のついた悪しき紋切型で、人々をカテゴライズしてしまう現象について書いてみました。ただ、この作品でやったようなことをストレートに書くと、説教くさくなるというか。退屈になってしまう気がしたので、ちゃんと楽しんでもらえるようにふざけ度が高くなっています。

――今回の収録作でいちばん新しい「誰のものでもない帽子」は、坦々とした事実の積み重ねによって、社会を映し出しています。

この作品は、今回の短編集のために書き下ろしました。コロナ禍が1年以上続き、以前からずっとあった育児問題や配偶者からのモラハラの問題、その緊急度が増していることが気になっていました。どう書くかを考えたとき、その人の日常を細かく書いてゆくのが自分にしっくりくるやり方だったので、まだしゃべることのできない子どもとひとりの女性の奮闘を描きました。

奮闘といっても、決してすべてがつらいわけではなくて、よいことと悪いことがまだらにあるのが日常なので、1日はそのグラデーションで成り立っていることが伝わるように書いたつもりです。

――松田さんのお子さんも、まだ小さいそうですね。

今ちょうど2歳です。育児って本当にディテールと、終わりのない動作の積み重ねです。育児の大変さについては、SNSなどで細かいことが書かれるようになったとはいえ、こぼれ落ちてしまうものが多いので、出来事の積み重ねによって一日は成り立っていることを、ちゃんと書きたいと思いました。

後編(5/18公開予定)に続く。

松田青子(まつだあおこ)

松田青子(まつだあおこ)さん
1979年兵庫県生まれ。2013年、『スタッキング可能』でデビュー。2019年、『女が死ぬ』の表題作がシャーリイ・ジャクスン賞候補、2021年、『おばちゃんたちのいるところ』がLAタイムズ主催のレイ・ブラッドベリ賞の候補に。他の著書に『持続可能な魂の利用』、翻訳書にジャッキー・フレミング『問題だらけの女性たち』など。公式Twitter@matsudaoko

【松田青子さんの最新刊】
松田青子(まつだあおこ)『男の子になりたかった女の子になりたかった女の子』
コロナ禍で子どもを連れて逃げた母親、つねに真っ赤なアイシャドウをつけて働く中年女性、いつまでも“身を固めない” 娘の隠れた才能……はりつめた毎日に魔法をかける最新短編集。『男の子になりたかった女の子になりたかった女の子』(中央公論新社
取材・構成・文/塚田恭子 撮影/大河内 禎 中島里小梨(静物)
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