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工場への愛と敬意が溢れるエッセイ集『そこに工場があるかぎり』小川洋子さんインタビュー

2021.04.27

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〔今月の本/エッセイ〕
『そこに工場があるかぎり』小川洋子 著

小川洋子さん

小川洋子
1962年岡山県出身。1988年『揚羽蝶が壊れる時』でデビュー以来、多くの小説、エッセイを発表。海外での評価も高い。近著に『約束された移動』『ゴリラの森、言葉の海』『あとは切手を、一枚貼るだけ』など。

細穴、お菓子、ボート、大型ベビーカー、ガラス、そして鉛筆。それぞれのものが、いったいどんな作業場で、どんな人たちの手で生み出されているのか。


幼少期から工場好きだったという小川洋子さんが6つの工場を訪ね、ものづくりの本質に迫った『そこに工場があるかぎり』は、小川さんの工場愛が読み手に丸ごと伝わるエッセイ集だ。

「工場というと、機械が動いて製品がベルトコンベアで運ばれてくるというイメージがあるかもしれませんが、伺った工場は最先端の機械を使っているわけではなくて。部品を替え、メンテナンスしながら長い年月にわたって大事に使ってきたことが、私が見てもわかるような機械がありました」

最初に見学したのは、屋号が示すように、金属に細い穴を開けることに特化した細穴屋さん。その仕事を見たとき、自分が書いてきた小説の登場人物のように感じたと小川さんはいう。

「社会の主役にはなれないけれど、必ず存在しているし、それをちゃんと認めている人が少数だけどいる。自分を声高に主張しない、そんな穴という存在に感情移入してしまって......」

細穴だけでなく、他のいずれの製品も六品六様のストーリーが感じられるのは、やはり作家の視点ゆえだろう。

「よいものをつくるため、皆さん日々想像力を働かせ、工夫されています。想像するとは仮説を立て、空想すること。それは物語を書くことにも通じているんです」

本作の姉妹作品ともいえる、7人の科学者へのインタビューをまとめた好著『科学の扉をノックする』でも、専門家の話を平易なことばで伝えてくださった小川さん。

同じようにそれぞれに専門性の高い工場でのものづくりの核に触れ、それを書くに当たっては、どんなことを感じていたのだろう。

「工場の場合、とにかく現場を見ることが何より大事でしたが、現場をことばで描写することはとても難しく、苦労しました。素人からすると、機械としか表現しようがないけれど、それぞれ役割は違うわけで。現実を描写することの難しさを改めて知りました」

自己主張せず、職分を全うする。そんな職人気質に対して作家が抱く敬意が行間から滲んでいる本作。

「工場でつくられるものは、美術品と違ってつくり手のサインはなく、作品ですと自己主張もしていません。でも、世の中で私たちが恩恵を受けている多くのものは、そうやって自分の知らない誰かがつくっています。顔の見えない誰かが、どこかでやっている仕事を想像してみようということが、この本の出発点だったのかもしれません」

『そこに工場があるかぎり』

『そこに工場があるかぎり』小川洋子 著/集英社

子ども時代、家の近所にいくつもあった工場に胸をときめかせ、その未知なる世界にさまざまな妄想を搔き立てられていたという小川洋子さん。

本書は幼少期以来の工場への思いを胸に、ご自身がおもしろい、現場を見たかったものを製作している6つの工場に足を運び、ものづくりの現場をつぶさに描いたルポエッセイ。

一見、単純に見えるものも製作工程はいくつもあるように、つくることは容易ではないけれど、その複雑さこそ、ものづくりの何よりの魅力。

人間と機械が手を取り合うことで到達する、そんな世界が描かれている。

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取材・構成・文/塚田恭子 撮影/冨永智子

『家庭画報』2021年5月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。
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