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【スーパー獣医 野村潤一郎先生の動物エッセイ】犬と人が共に暮らすということ

2021.03.25

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イラスト/コバヤシヨシノリ

今はもう見ることはないが当時は本物の物乞いが数多くいた。むしろの上に正座して座り、真正面には空き缶が置いてある。

当時浅草に暮らす物乞いの男性は非常に印象的だった、何と愛犬を連れていたのである。白い雑種だったが、どこかで拾ったと思われる造花で飾られ、主人と一緒になって神妙な顔つきできちんと並んで座っていた。


これを見た私は、犬にこんなことをさせるなんて反則だよと腹立たしさを覚えつつも、彼の愛犬の遠慮ぶかげにこちらを見る瞳の中にその主人と同化した心を見てしまったのだ。

犬は主人そのものをうつす。社長の飼う犬は社長的になる。たまに見かけるどうしようもない咬みつき犬など、これは主人がダメ人間だからそうなる。どんなに立派な肩書がある人物でも、犬が変ならばそれが飼い主の本性だ。

だからこそ、犬を飼う者は克己の精神の下に心と体を鍛え上げ、命を燃やして勤労して税金を納め社会に貢献し、恥ずかしくない人生を送り、犬が尊敬できる人となるべきだ。そして犬と一緒に何かの仕事または作業ができればさらに良い。犬を働かせるのは如何なものかと言う人もいるが、犬たちは100種類いたら100通りの専門家であり何らかの仕事に携わりながら育種を受け入れ、人類との共存の道を見出した勝ち組の家畜であるから問題はない。

当時の下町では金属加工業の油まみれの工場に鉄泥棒を撃退する凶暴なブルドッグが放されていて主人の仕事を守っていた。昔のブルは現在見るタイプとは違って気が荒かった。ただし、敷地内で商売ものの鉄材に触れなければおとなしく、この犬はやはりきちんと自分の存在理由を理解していた。

私の歴代のドーベルマンたちは皆、病院ビルの警備をするが、病院内で出会う生き物に対しては寛容で虫を殺すことすらしない。そればかりか散歩中に出会った犬に対しても病院に患者として来院する相手をきちんと見分けて「その後どうですか、お大事にね」と気遣いながら会釈する。

犬と人間が共に暮らし共に生きる時代が過去にはあった。現代の飼い主は「犬は家族の一員」とか立派なことを言いながらも、ケージに閉じ込め、何かと拘束し、その自由と繁殖能力を奪い、ろくに自分で教育もせず、飼い殺しの一生を強要し、結局はペット(=オモチャ)としての認識しかないのでは、と思う。

人間の感情が単純なものに退化してしまった今、昔のような“おおらかな時代”を望んでも無理なのはわかっているが、かつて犬がケダモノだった頃に人間に教えられた人間の美徳を、彼らはいまだに持ち続けていることを忘れないでいただきたい。犬は現代の人間よりも人間的なのだ。

野村潤一郎(のむら・じゅんいちろう)

野村獣医科Vセンター院長。超越した医療技術と最強の愛をもって、人間社会で危機に瀕した動物たちの命を救い、飼い主と動物の信頼を裏切らない完全犬型獣医。爬虫類も両生類も魚類も鳥類も哺乳類も病院では同じ命。愛犬・ドーベルマンのビクターを筆頭に自らそのすべてを飼育し、その知識と経験はAIを凌駕する。
『家庭画報』2021年4月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。
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